第40話 かわいい花飾り

「あれ、食べませんか?」


「いいよ」


 ウィンが欲したもの。

 それは出店で売っているリンゴのドライフルーツだ。


「買ってみる?」


「……はい」


 出店のおじさんに、話かける。


「おじさん、ドライフルーツ下さい」


「あいよ」


 銀貨を渡して、袋に詰めたドライフルーツを受け取る。

 手のひらサイズの袋から、オレンジのドライフルーツを取って、2人で食べる。


 ウィンがおいしそうに、ドライフルーツを食べている。


「どう?」


「おいしい……です」


 ウィンがおいしいと言ってくれると、こっちも嬉しい。確かに、甘酸っぱくていい味だ。


 ウィンは、店にある商品をみて、目をキラキラと輝かせている。


 それから雑貨屋さんを見に行ったり、異国の珍味を食べ歩き──。


 雑貨屋さんでは、かわいい小道具を興味津々そうにいろいろ見ていた。

 そんな事をしていたら、それなりの時間が経った。


「いろいろ、物珍しかったです」


 ウィンは、笑みを浮かべていてとても嬉しそう。この光景を見ただけでも、デートに誘ったかいがあったと心の底から思える。


「じゃあ次は、俺が行きたいって思ってた場所、行ってもいい?」


「別に、大丈夫ですけど──」



 そして俺達は移動を開始。中心街を離れ、郊外の部分へ。


 大きな建物が比較的少ないエリアに、目的の場所はあった。


「ここだよ」


「植物──研究所?」


 ウィンは不思議そうな表情で言葉を返して来る。


「うん、ウィンなら、絶対気に入ると思うよ」


 国が管轄なのだが研究費の回収という名目で、入場料を払えばだれでも入ることができるということになっている。


 前々から噂には聞いていて、興味はあったのだが、一人で行くには抵抗があった。だから、ウィンと一緒にいれるこのタイミングで行っておきたかったのだ。


 色々な地方の植物を取り扱い、展示している施設だ。


 赤レンガの建物に、受付役の人がいた。入場料を2人分払って、中へと入って行く。


 中へ入ると、石畳で出来た道の横に、様々な植物が展示されていた。


「初めて見る植物ばかりです……」


「俺も」


 確かに、植物の研究をしているだけあって、物珍しい植物が多い。

 動物の口のような形状をしていて、虫がそこに触れると口を閉じるようにして食い殺す植物とか──。


 この辺では見ないような物珍しい植物が多く、見物客でにぎわっている。

 ウィンは、植えられている植物を興味津々そうに見ていた。


「こっち、いいもの見せてあげる」


「わかりました」


 ここに来た人たちと一緒に、施設の奥の方へと歩いていく。そこに、ここの名物があるからだ。


 植物が植えられているエリアを歩き、煉瓦で出来た門をくぐる。


「す、すごいです……」


 ウィンの表情が、はっと明るくなった。俺も、この光景はすごいと思う。

 視線の先にはお花畑が広がっていた。オレンジ、黄色、青、様々な色をした花が規則的並んでいる。


 チューリップやバラ、ハイビスカスなど、種類も豊富で見ていてとても美しいと感じられた。


「綺麗だね。ウィン」


「はい──。ずっとここにいたい位、です」


 花畑に見とれているウィン。すると、石畳の道でメイド服を着た人が、荷車に乗せて何かを販売していた。


 俺と目が合うと、そのメイドの人がニッコリと笑みを浮かべて、話しかけてきた。


「あの女の子。よろしかったら、つけてみませんか?」


 そう言って荷車から花飾りを取り出してきた。

 色々な色の花で作られた、カラフルでとても綺麗な花飾り。


「わかりました、一つ下さい」


「──ありがとうございます」


 お姉さんに銀貨を渡し、花束を受け取った。

 そして、花に見とれているウィンの肩をそっとたたく。


「ウィン──」


「何でしょうか」


 さっき買った花飾りを、ウィンに差し出す。

 ウィンは、それを見て目をキラキラと輝かせていた。


「かぶってごらん、とっても似合うと思うから──」


「わかりました」


 そう言ってウィンは花飾りを受け取って頭にかぶる。


「どうで、しょうか──」


「うん、かわいいよ。とっても似合ってるよ」


 おせじじゃない。本心からの言葉だ。

 ウィンは、顔をほんのりと赤くして、俺から目をそらした。


「ありがとうございます。そう褒めていただけると、本当に嬉しいです」


「こっちも、そう言ってくれて本当に嬉しいよ」


 それからも、俺達はいろいろな場所を見物していく。時折──。


「あの花飾りを付けた子、かわいい──」

「うんうん。とっても似合ってるよね」


 そんなひそひそ話が、耳に入る。ウィンは、恥ずかしいのかそんな言葉を耳にするたびにうつむいてしまっていた。


 大丈夫。お世辞なんかじゃないから。本当に、かわいいから──。

 自信を、持ってほしい。


 それから、花飾りをつけたまま色々と中を歩く。


「これ、綺麗だけど臭いです……」


「……確かに」


 思わず鼻を塞ぐ。

 ラフレシアとかいう、大きくてきれいだけど、とっても臭い花。


「あわわ……葉っぱが無くて、とげがあります」


 黄緑色で、葉っぱがなく茎はとげがびっしり生えている。


「あれは、サボテンだって」


 俺もウインも、色々と植物を見る。どれも、珍しくてついつい見入ってしまうほどだ。

 この施設、意外と広くて色々見ていたら日が暮れそうになるほどだった。



 空がオレンジ色になりそうだった頃、俺達は再び研究所を出る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る