第29話 今のギルドは
「ガルド君。彼女とはうまく行ってる?」
その言葉に俺は思わずコーヒーを噴き出しそうになった。
口の中のコーヒーが変なところに入り、思わずむせ返る。
「ゴホッ──ゴホッ──待ってください、いきなりなんですか」
フィアネさんはにっこりと笑ったままただこっちを見ている。そして、俺の咳が収まるとさらに話を進めた。
「何ですかも何もその通りの意味よ。キス位は、した?」
笑みの中に疑念や迷いというものはない。確信を持っているというのが良く分かる。
「隠したって無駄よ。私の乙女の感、鋭いんだから──」
それでも俺はコーヒーを一口飲み、心の中の動揺を抑え冷静に言葉を返す。
「証拠は?」
「いままでガルドは危険な任務や何週間もこの街を離れるような任務を嫌がらずに引き受けてくれた。けれど、最近いろいろ理由をつけて断っているでしょう」
ズキッ──。
以前ビッツにも言われたが、もうフィアネも気づいてしまったのか。
「それだけじゃないわ。身だしなみだってそう。以前はどこかいい加減で寝癖が付いたままギルドに来ることもあったし、服も明らかに間に合わせの物で、たまにヨレヨレな服だったこともあった。けれど、今は違う。ひげをそる頻度も明らかに増えて、身だしなみも整ってる。服なんて、明らかに誰かが手入れをしているのがわかるわ。皴も少ないし」
確かに、今はウィンが家事をしてくれている。ウィンが服を整えてくれているし、ウィンにがっかりされたくないって思いから身だしなみも以前より気を付けるようになった。
マシンガンのような言葉に、俺はなんて返せばいいかわからなくなってしまう。これが、女の勘というやつだろうか──。
「で、どんな人なの? きれいな年上のお姉さん? それとも年下の女の子?」
「言わなきゃ、いけないんですか?」
「家族だもん。あなた、このギルドでもなくてはならない存在ですもの」
フィアネさんが踏み込んで聞いてくる。
どうすればいいか黙って考えこむ。交際している人なんていない。
早く帰るのはウィンのためだが、もし俺がウィンと一緒に暮らしているなんてとても言えない。
言ってしまえば変態のロリコンとしてギルド中に汚名が広まってしまうだろう。
最悪評価にかかわってくることだってあり得る。
疑いの目は残るだろうが、こう返す以外に浮かばなかった。
「気のせいです。いません」
フィアネさんは俺を微笑を浮かべながらじっと見る。
間違いない、心の奥底では信じていないだろう。
ワインを一口飲むと、言葉を返した。
「──そう。それなら、これ以上追及したりしないわ」
その言葉にほっと息をなでおろす。良かった、多分信じ切っては……ないだろうけど。
その間に、食事が運ばれてきた。
俺はフィッシュアンドチップスを、フィアネさんは鶏肉のステーキを口に入れる。
味は、高い店だけあってとてもおいしい。
がっつかないように、気を付けてゆっくりと食べる。
「それと、話ってそれだけですか?」
「もう1つあるわ」
「──何ですか?」
フィアネさんの表情が、真剣なものになる。さっきまでとは違う雰囲気に、ごくりと息を呑む。
「貴方から見たギルドと街の冒険者達。どう思うかが知りたいの」
「いきなり、何で……」
思わずフォークを動かす手が止まる。
予想もしなかった質問。戸惑いを隠せない。
「貴方は、実力もさることながら他の部下への面倒見だっていい」
「そ、そんな……かいかぶりすぎですよ」
「そんなことないわ。あなたと一緒に組んだ新人さん。みんなガルド君の事気に入っていたわ。ガロ君とか。それに……ニナ。彼女、ガルド君のことを話しているとき、幸せそうに満面の笑みを浮かべていたわ」
それは、他の人達が新人の教育を誰もしなくなっていて放置状態だから、仕方なく俺が口を出しているだけだ。
危なくって、放っとけないから。
「だからこそ、そんな人たちを見ているガルド君に、聞いてみたかったの。私達は、あなたから見て、どんな風に見える?」
……予想もしなかった質問だ。まさか、そんなことを聞くとは。
しばらく食事する手を止め、考え込む。
俺が、ギルドの事。冒険者達をどう考えているか──。
考えて、答えを出す。
「別に、悪くはないと思います。みんな根はいいやつで、向上心だってあるし──。きっとこれから成長していって、頼もしい人たちになるでしょう」
その言葉に、嘘はない。しかし、最近の傾向を見て、気になることだってある。
「ただ、みんな自分のことしか考えなくなって、新人たちが置いてきぼりになっている気がするんです。
誰も指導しないというか、何も言わなくなったというか……」
「確かに。人は人、自分は自分って考えが強くなっているわね」
「彼らもその中で、自分なりに何とかしようともがいているのは分かります。しかし、それだとどうしても亜流や我流になってしまい、うまくいっているときはそれでもいいかもしれないけれど、ピンチの時にどうにもならなくなります。そういうときこそ、烏合の衆にならないように誰かが先頭に立ったり、彼らに教えたりする人が欲しいのですが──」
わかっている。本当はみんな努力している。しかし、人に教えたり、強くしても評価は上がらない。
おまけにもし先頭になってミスをしたりすると評価が下がってしまい、成功しても評価されないという状況になってしまっているのだ。
ちなみにこの成績の査定は何も知らない政府が勝手に作ったもの。何度も変えてほしいと請願しても、俺達のことを敵視している役人たちは全く耳を貸さないのだ。
フィアネさんは俺をじっと見て、フッと笑みを浮かべて言葉を返した。
「やっぱり、ガルド君は偉いわ。ちゃんとみんなのことを見てくれて──」
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