第166話:動物園に行こう!
どこかに行きたいなぁ。よし。
「秋の行楽シーズンだぞ! お兄ちゃんと旅行に行こう!」
リビングで読書をしていた弟のジェルマンにそう言ったら「なにこいつ」って目で見られた。
「嫌ですよ、そんなのめんどくさいしお金もかかるし。行きたければアレク独りで勝手に行ってくればいいじゃないですか」
――うん、ここまでは予想してた。でもこんなことくらいでめげるお兄ちゃんではないのだ。
俺にはとっておきの秘密兵器がある。
「ジェルちゃん、魔界の動物園に行こう。ほら、前に招待券もらっただろ? それならお金もかからねぇしさ!」
目の前で魔獣の写真がプリントされた招待券をひらひらさせたら、彼の綺麗な青い瞳が思案するように動いた。
「そういえば、そんなのがありましたね……」
前に骸骨の宮本さんの依頼で、魔界の動物園の仕事をジェルと一緒に手伝ったことがあって、招待券はその時にもらった物だ。
あの時はグリフォンやキマイラとか珍しい生き物にエサをやったりして面白かったなぁ。
「
俺達の話を隣で聞いていたキリトが、ソファーの上でぴょんぴょん跳ねた。
「いけません! あなたのボディが汚れたらテディベアとしての商品価値が落ちるじゃないですか!」
――ジェル、前もそう言ってたな。
いいかげんキリトを売るのは諦めればいいのに。
「……また小生はお留守番でありますか」
「大丈夫だ、今回はキリトも一緒に行けるぞ!」
俺はしょんぼりするふわふわの頭を優しくなでて、自分の部屋からショルダーポーチを持ってきた。
このポーチは前面が透明になっていて、オタクがぬいぐるみや推し活グッズをアピールできるようにデザインされているのだ。
「キリトがこの中に入って俺がポーチを持ち歩けば安全だし、前が透明だから外が見えるだろ?」
「アレク氏! すごいであります!」
「しょうがないですねぇ……」
ジェルは渋々承諾した。よし、これで決定。
こうして俺達は、魔界の動物園に出かけたんだ。
動物園の入場ゲートで招待券を提示すると、頭に犬っぽい耳を生やした人がドラゴンの絵が描かれたスタンプを押してくれた。
「さて、どこから見に行く?」
「とりあえず、前にお世話をした魔獣たちがどうしてるか見に行きたいですね」
俺達は前に来たときと同じルートで回ることにした。
まず鳥のエリアへ行ってみると、ワシの上半身にライオンの下半身をもつ魔獣のグリフォンが檻の中でのんびり寝そべっている。
檻に近づくと獣臭さがふわっと辺りに漂った。
「やっぱり、普通の鳥じゃねぇんだなぁ」
「すごいであります! 想像以上に大きいであります!」
ポーチの中でキリトが大はしゃぎしている。連れて来てよかった。
グリフォンは以前に俺がエサをやったことを覚えていたのか、檻に近づいた途端、起き上がってギャアギャア鳴いている。
「あぁ、わりぃ。今日はお客さんで来たから馬刺しねぇんだよ」
俺の言葉を理解したのか、グリフォンは退屈そうに再び寝そべった。
「さて、次はコカトリスだっけ」
「そうです。毒のブレスがやっかいなんですよねぇ」
コカトリスの檻に近づくと、そのすぐ側で頭に角を生やした女の人が箱を持って立っていた。
箱の中には、紫色の石の付いた指輪がずらっと並んでいる。
「毒耐性の無いお客様は、こちらの毒防止リングをお買い求めくださ~い!」
どうやら、その指輪をはめるとコカトリスの吐く毒ブレスを無効にできるらしい。
「まるでファンタジーゲームみてぇだな」
「障壁で防げばいいかと思いましたが、周りのお客さんの迷惑になりますしねぇ……」
ジェルは仕方ない、と言いたげな表情でリングを買った。
魔界の通貨を持っているのはジェルだけなので、今日は彼が支払うのだ。
しかし、こんな指輪で毒が防げたりするんだろうか。
指輪を中指にはめて、灰色のブレスを吐きまくっているニワトリに似た魔獣の檻に恐る恐る近づいてみた。
ブレスのせいか生臭い匂いがするし、視界も少し白いが、確かに何も起きない。
周囲にいる人……というかたぶん魔族的な存在なんだろうかと思うが、彼らは普通にコカトリスを見物していて、ブレスを吐かれても涼しい顔をしている。
指を見ても毒防止リングを付けている人は居ないから、元々耐性があるのかもしれない。すげぇなぁ。
コカトリスは元気にバサバサと翼をはためかせながら、檻の中をせわしなく歩き回っていた。
毒のブレスは迷惑極まりないが、元気そうで何よりだ。
「さて、次はキマイラか」
「キマイラって何でありますか?」
「頭と胴体はライオン、尻尾は蛇。背中からヤギの頭が生えている魔獣です」
「あぁ、エサやりが大変だったやつでありますね!」
――そう、キマイラはすごく大変だった。
三つの生き物が合体してるからそれぞれ別のエサをやらなきゃいけなかったんだ。
最終的に俺が背中に飛び乗ってヤギの部分に干草を食べさせたっけ。
キマイラのいる柵に近づくと、ガォォォォとライオンが吠える声がした。
「うわぁ、本当にライオンと蛇とヤギであります!」
「お兄ちゃんあれの背中に乗ったんだぜ、すごいだろ!」
「アレク氏は命知らずであります」
その時、大きな袋とでっかい木製のスプーンみたいな物をもった人が柵に近づいてきた。
灰色の作業着を着ているから、飼育員さんなのだろう。
「おっ、今からキマイラにエサをやるみたいだぞ」
「どうやるのか気になりますね」
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