第137話:河童のダン吉
「何を騒いでるっぺ……ありゃ? おらが居る!」
「ダン吉!」
ダン吉と呼ばれた河童は、顔も髪型も体型もアレクにそっくりでした。
これでは間違われるのも無理はありません。
ワタクシは観念して、改めて事情を河童たちに説明し、お詫びの言葉を述べました。
「……あんたたちの事情は分かった。本当なら尻子玉でも抜いてやるところだが、正直に話したから勘弁してやる」
「本当ですか!」
「しかし、あれは貴重な薬だ。タダというわけにはいかねぇ」
たしかに、あれはすごい効き目でしたからそうホイホイと使える品ではないのでしょう。かなり高価な品であることは予想できます。
「それで……おいくらでしょうか?」
おそるおそるワタクシがたずねると、薬を塗ってくれた河童はアレクの股間を指差しました。
「その『びきにぱんつ』を寄こせ! そいつをくれたら許してやる」
「へっ? 俺のパンツ?」
「そりゃあえぇなぁ! ハイカラだべ!」
「キラキラしてて綺麗だべ~、おらも欲しいだよ!」
他の河童たちも口々にアレクの下品なパンツを褒めて、うらやましそうに見つめています。
まったく、そんな物が欲しいなんて河童のセンスはどうなっているんでしょうか。ワタクシには理解しがたいものがあります。
「皆、このパンツの良さをわかってくれるのか! お兄ちゃんはうれしいぞ! 家に帰ったらもっとたくさんあるから、だったら全員にプレゼントしよう!」
アレクの言葉に、河童たちは歓声をあげました。
――家にたくさんあるパンツを全員にプレゼントする。
これはつまり、我が家からアレクの下品なパンツが一掃されるということです。
ワタクシにとっても、非常に都合のいい展開じゃないですか。
「いい案ですね! ぜひ親切な河童さん達にパンツを進呈しましょう!」
「おぉ、ジェルもそう思うか! よし、決まりだ!」
とりあえずワタクシは、パンツを持ってこさせる為にアレクを家に帰還させて、五分後に再び召喚することにしました。
「いいですか、アレク。河童の皆さんに行き渡るように、ありったけ持ってくるんですよ?」
「おう、全部持ってくるから任せとけ!」
五分後に召喚したアレクは、ダンボール箱いっぱいのビキニパンツを持っていました。
河童たちは我先にとパンツを手に取って、喜んでいます。
……やりました。ついにあの忌々しい下品なパンツを我が家から一掃できました!
ギラギラパンツ姿の河童たちに見送られながら、ワタクシは心の中で密かにガッツポーズをしていたのです。
しかし翌日――
「おはよう、ジェル」
「おはようございます、アレク……もう! またパンツ一丁でうろうろして! あれ? なんでまだそのパンツがあるんですか?」
アレクはまたギラギラビキニパンツをはいています。昨日とは違う色なので、続けてはいているわけでは無さそうです。
「パンツは全部、河童たちにプレゼントしたんじゃなかったんですか?」
「プレゼントしたぞ? 新品のを全部」
「えっ、あのダンボールいっぱいのは全部新品だったんですか⁉」
「当たり前だろ。他人にプレゼントするんだから新品じゃないと。俺のコレクション全部手放すのは辛かったけど、今まではいてたやつがまだまだあるからな」
「そんな……」
まさか下品なパンツがそんなに大量にあったなんて。
これは思った以上に根絶が難しいものである、と確信したワタクシなのでした。
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