第133話:不思議な池

 なぁなぁ、すげぇ不思議なことがあったんで聞いてくれよ。

 お兄ちゃんさ、ピクニックに行ったんだ。

 梅雨でずっと雨続きで、やっと晴れたから外に出かけたいなって思ったんだよ。


 だから、お気に入りのパン男ロボとお昼ごはん用のおにぎりと飲み物を持って、近所の山まで出かけることにした。


 弟のジェルマンがリビングで読書してたから、一緒に来ないか誘ってみたけど「めんどくさい」の一言で拒否された。

 彼はいつ誘ってもこんな感じだ。わかっちゃいるけど少し淋しい。


 そんなわけで一人で山に登ったんだけど、山の上は最高だな。

 景色も良いし、空気もちょっとひんやりしてて街中よりも澄んでる気がする。

 俺は岩の上に腰掛けてお昼ご飯を食べることにした。


「こういうところで食う飯って美味いんだよなぁ」


 ――その時、アクシデントが起きた。

 スマホで記念撮影している間に、パン男ロボがおにぎりと一緒に地面を転がっていってしまったんだ。


「おい、待て!」


 俺は慌てて追いかけた。でもなぜか追いつけない。

 おかしい。そんなに坂道じゃないのに、まるで誰かが引き寄せてるみたいにパン男ロボとおにぎりはコロコロとどこまでも転がっていく。


 おにぎりは袋に入ってるから食べられるけど、ロボが汚れちまうなぁ……

 そう思ってたら、ボチャンって音と共に目の前の小さな池にロボとおにぎりが落っこちてしまった。


 慌てて水面を覗き込んだが、水が澄んでいるはずなのに底は見えない。

 しかし、こんなところに池なんてあったっけ……?


 そう思った瞬間、水面が光ってピカピカしたドレスを着た女の人が現れた。

 右手には金色と銀色のパン男ロボを持っていて、左手で俺のおにぎりをモシャモシャ食っている。


「あ、俺のおにぎり……」


「もぐもぐ……ごっくん。貴方が落としたのは金のパン男ロボですか? それとも銀のパン男ロボですか?」


「いや、俺のおにぎり……」


「貴方が落としたのは金のパン男ロボですか? それとも銀のパン男ロボですか?」


 女の人は機械みたいに同じことしか言わない。


「いや、だから俺のおにぎり……! えーっと、俺が落としたのは『ハイグレード百四十四分の一陸戦型パン男ロボRX-七十八』だ!」


「マニアうざ……いえ、正直者の貴方には、金のパン男ロボと銀のパン男ロボを授けましょう」


 女の人は、俺の目の前にキラキラと光るロボを置いて消えてしまった。

 何がなんだかさっぱりわからない。


 ロボとおにぎりを盗られてピクニックどころではなくなってしまったので、俺は金と銀のロボを拾って家に帰ることにした。


「おかえりなさい、アレク。ずいぶん早かったですね」


「聞いてくれジェル! 変な女の人におにぎりとロボを盗られたんだよ!」


 俺は山の中であった出来事を詳しく話した。


「それは不思議ですねぇ……そういえば、似たような話をイソップ寓話ぐうわで読んだことがありますよ」


「イソップぐうわ……?」


「えぇ。その中の『金の斧と銀の斧』というお話です。木こりの若者が鉄の斧を泉に落としてしまうんですが、泉から神様が現れて落とした斧は金の斧か、それとも銀の斧か? と若者に問うのです」


「答えたらどうなるんだ?」


「正直に答えると鉄の斧を返してもらえる上に、金と銀の斧も一緒にもらえます。嘘をつくと何ももらえません」


「確かに俺の話と似てるな。俺の場合は出てきたのが女の人だったし『ハイグレード百四十四分の一陸戦型パン男ロボRX-七十八』は返してもらえなかったけど」


「ハイグレードだとか、そんな事はどうでもいいんですがね」


「どうでもいいってことはねぇだろ」


 文句を言う俺に対し、ジェルは青い瞳をキラキラさせながら答えた。


「重要なのは、その池に物を落とすと金と銀に変えてくれるということですよ!!!!」


 ――三十分後。俺はジェルに言われるまま、例の池へと彼を案内していた。

 俺達の大きなリュックサックの中には、焦げ付いて使わなくなった鍋や壊れた時計など、家中で集めた不用品が詰まっている。とても重たい。


 幸い山頂まではジェルの転送魔術ですぐ来られたんだが、池の正確な場所がわからなかったから、そこから少し山の中を歩くことになった。


「なぁ、ジェル。いくらなんでも荷物が多くないか?」


「何言ってるんですか! このガラクタが金と銀に変われば大儲けですよ! さぁ、池に急ぎましょう!」


 彼の目がギラギラしていて怖い。今朝はピクニックなんてめんどくさいって言ったくせに、金が絡むとこれだ。


 荷物の重みにゼイゼイ息を切らせながらも、俺達は無事に池にたどり着いた。


「はぁ、はぁ……これがその池ですか。……じゃあ早速、ガラクタを投げ入れるとしますかねぇ!」


 ジェルは足元をふらつかせながら、リュックサックの中身を池に放り込もうとした。


「おい、ちょっと休んでからじゃないと危ねぇぞ」


「だいじょうぶですよ……ああっ!」


 ガシャン! ドボン!!!!


 先日の雨のせいで地面が少し滑りやすくなっていたせいだろうか。

 ガラクタを投げ入れようとしたジェルは転んで、そのまま池に落っこちてしまった。


「ジェルっ!」


 この池はかなり深いみたいだ。一瞬で沈んで一向に上がって来ない。

 早く助けに行かねぇと……!

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