第114話:倫理的に問題のある世界
「キューピッドさん!」
『本当、ジェルは恋愛ダメダメだね~』
「ワタクシはどうすれば正解だったんですか⁉」
『あれはお尻を出したらものすごいイボ痔が見つかって、学会に発表されて彼と海外へ一緒に行くエンドだったんだよ』
「だから、ワタクシはイボ痔じゃありませんってば!」
『医者もダメとなると、もう後はこの世界から出られずに白骨化するしか……』
「そんなの困ります! そもそもクソ設定とゴミみたいなシナリオなのがダメなんですよ! なんとかしてください!」
ワタクシの訴えに、キューピッドは困ったような声で言いました。
『じゃあ、開発途中でちょっとだけ問題あるんだけど隠しシナリオの世界へ行こうか』
「このゲームをクリアできるなら何でもいいですよ!」
『これで最後だからね。本当にラストチャンスだからね? 何を見ても絶対逃げずに頑張ってね!』
気が付くと、ワタクシは公園のベンチに座っていました。
「おや、これは……」
ワタクシの手には紐が握られていて、その先には首輪をして犬の耳とふさふさの尻尾を生やした全裸のアレクが地面にお座りしていました。
「うあぁぁぁぁぁ!!!!」
「なんだよ。急に大きな声を出すからびっくりしたワン」
――えっ……ワン?
『ごめんね、これ本来なら犬の姿なんだけど、公園の背景にこだわりすぎて犬のグラフィックが開発中で実装できてないんだよ』
「犬は真っ先に実装すべきでしたよ! この絵面は倫理的に問題ありすぎでしょう!」
『頑張って、ジェル。これがラストチャンスだよ。真実の愛を掴むんだ!』
「このアレクから何を掴めと……」
げんなりしつつアレクに視線を戻すと、彼はお座りをしたままキラキラした目でこっちを見ています。
これはプレイを続行するしかないんですよね……
「えっと、どうすればいいんでしょうか?」
「お散歩行きたいワン!」
そう言ってアレクは四つんばいのまま歩き始めました。しょうがないのでそのままリードを掴んで散歩させることになったのですが。
「これ、かなり恥ずかしいんですけど……」
道で会う人達にはアレクが犬に見えているのか、もしくはプログラムされていないのか、何も反応はありません。
しかし、全裸で四つんばいの兄に首輪をつけて散歩させながら一緒に歩くのはかなり恥ずかしい状況でした。
「おいジェル、この道は車が来るから気をつけるんだワン!」
「あっ、はい」
「信号だワン、止まるワン!」
「そうですね」
「俺、うんこしたいワン!」
「いやぁぁぁぁ! それだけは勘弁してください!!!!」
なんとか散歩をして、アレクに案内されるまま元の公園に戻って来ました。
「お散歩に連れて行ってくれてありがとうワン」
アレクは姿勢を正すと、お座りをしてワタクシを見上げ、問いかけます。
「……俺のご主人様になってくれますかワン?」
これは、もしかしたら犬の姿だったらそこそこ良いシーンだったのかもしれません。でも目の前にいるのは全裸で首輪をしたアレクです。
「あの……すごく問題発言な気がするんですけど」
『そこは我慢しないとクリアできないよ』
キューピッドがヒソヒソ声で悪魔のようにささやきかけます。
「……くっ。わかりました。ご主人様になって差し上げます」
「ありがとうワン! うれしいワン!」
感激したアレクに飛びつかれて、ワタクシが悲鳴をあげたのは言うまでもありません。
そして周囲が光り輝くと、空から花びらのような物がたくさん落ちてきて、
『おめでとう! ゲームクリアだよ!』
「……あぁ、疲れた」
――ゲームの世界は酷いアレクばっかりで、疲れてしまいました。
元の世界に戻って本物のアレクに会えば、彼の良さを実感するかもしれませんね。
気が付くと、ワタクシはリビングのソファーに座ってコントローラーを握っていました。
目の前のテーブルの上には、おつまみの袋やビールの缶。そして日本酒の空き瓶が床に何本も転がっています。
客用のソファーには、スヤスヤと眠るシロの姿がありました。
その足元には、酔っ払ってギラギラのパンツ一丁で床に転がって寝ているアレクと、脱ぎ散らかされた服が落ちています。
「現実のアレクの方も、たいして良いわけではありませんでしたね……」
ワタクシは現実逃避すべく、ソファーで眠りに落ちたのでした。
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