第113話:どうしようもないクソゲー

「俺、実は前から……」


 ――よし、ゲームクリア!


「七号のことが好きなんだ……」


「え、そっち⁉」


「俺が七号を好きだなんておかしいよな……?」


「七号ならそこで筋トレしてるから勝手に告白してくださいよ!」


 なんですか、このクソみたいな展開は。


『あー、残念だったね。フラグがたたないまま友情エンドになっちゃった』


 キューピッドが、まったく残念に聞こえない声で言いました。


「フラグも何も、すぐ告白シーンになったじゃないですか!」


『あー、バグかなぁ。ごめんね、開発中だからそういうこともあるんだよ』


「どうするんですか、これ」


『大丈夫、まだ他の世界の攻略キャラがいるから。次はモデルのアレクにキュンキュンしようね!』


 キューピッドがそう言った瞬間、シーンが切り替わって撮影スタジオのような場所にワタクシは立っています。


 目の前には裸にド派手な真っ赤なジャケットで金のネックレスをしてピアスをつけたアレクが居ました。


 思わず周囲にいる人の顔を確認しましたが、この世界は幸い皆アレクの顔ではなく、普通の世界です。


「あー、よかった。全部同じ顔とか気がおかしくなりますからね……」


「なにぶつぶつ言ってんだよ、マネージャー。撮影始まるぞ」


 目の前のチャラい格好のアレクが肩をポンと軽く叩いて声をかけてきます。

 どうやらワタクシは彼のマネージャーのようです。


 ――モデルかぁ。彼は顔もスタイルも良いから、何をしても格好いいんですよねぇ。


「はい、じゃあアレク君、またがってみようか」


 え、またがるって。何に?

 そこには、おまるにまたがってキリッとした顔をカメラに向ける彼の姿がありました。


「いいねぇ、はい、笑顔ください。そう、そう。さすがアレク君だねぇ」


「何の撮影ですかこれ……」


 ワタクシのつぶやきにキューピッドが答えます。


『介護用品のカタログの撮影だよ。彼は介護業界のトップモデルなんだ』


「あれだけチャラいビジュアルにしておいて、ファッションモデルじゃないんですか⁉ どういう世界観ですかこれ⁉」


 ワタクシが驚いている間にも、どんどん撮影は進んでいきます。


「……はーい、オッケー! 次は紙おむつでいってみようか!」


「おう、クールにキメてやるよ!」


 よくわからない世界観ではありますが、アレクが楽しそうに仕事をしているのを見るのは悪いものではありません。

 紙おむつをはいてドヤ顔でM字開脚している彼の姿を見るのは、ちょっと複雑な気持ちになりましたが。


「はい、お疲れ様でした~!」


「お疲れ様ですー!」


「おーい。マネージャー、終わったぞ」


 撮影が無事に終わったらしく、彼が笑顔で近寄ってきます。あなた、まだ紙おむつはいたままなんですけど。


「お疲れ様です、アレク」


「おう。なぁ、マネージャー……」


「なんですか?」


 急にアレクはワタクシの肩を抱き寄せて、しっとりと甘い声で耳元でささやきました。


「俺のおむつ交換してほしいバブゥ……」


「なっ……⁉」


『ジェル、ここで彼のおむつ交換をしてあげれば好感度UPだよ!』


 キューピッドがクソみたいなアドバイスをしてきます。


 おむつ交換ってどういうことですか⁉ しかもバブゥって。

 こんなのワタクシの知ってるアレクじゃない。


 ――いえ。実際、彼の姿をしているだけの別のキャラクターですが……


「無理っ、絶対無理ですっ!!!!」


 ワタクシが叫ぶと、目の前からチャラくておむつ姿だった彼が消えて、世界が切り替わるのを感じました。


『しょうがないなぁ。じゃあ、誰もが羨むハイスペックなお医者さんのアレクとのロマンスの世界だよ!』


 キューピッドはノリノリで次の世界へと誘いました。


 ワタクシが次に立っていたのは病院の診察室です。

 目の前には白衣を着て、聴診器を首にぶら下げたアレクの姿がありました。

 銀ブチの眼鏡をかけているのが、とても賢そうな雰囲気です。


 彼はカルテを覗き込みながら言いました。


「えー、ジェルマンさんですね」


「あっ、はい……」


「そんなに緊張しなくていいですよ。あなたの病気は必ず俺が治しますからね。リラックスしてください」


 丁寧な口調で爽やかに微笑むアレクは新鮮で、さっきに比べてはるかにマシな気がしました。

 この彼とならまともに会話が成立しそうだし、ロマンスが始まってゲームクリアできるかもしれません。


「あの、先生……ワタクシ……」


「――じゃ、肛門見せてもらえますか?」


「はい……?」


「肛門だよ。こ・う・も・ん! ほら、見せて」


 ――肛門から始まるロマンス。いや、それは無い。絶対そんなの困ります。


「なんですか、いきなり肛門を見せろって……」


「いや、だってうち肛門科だから。ジェルマンさんは巨大なイボ痔に悩んでいるってカルテに書いてありますし」


「失敬な! どこ情報ですか!」


「でもジェルマンさんは尻穴が弱そうな顔してますよ」


「どんな顔ですか⁉ そもそもワタクシにイボ痔なんてありませんよ!」


「じゃあ帰ってください」


 ――ロマンスが無いまま話が終わっちゃったじゃないですか! どういうことですか!

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