第112話:アレク三銃士を連れてきたよ

 手紙で呼び出されて、学校の屋上へ向かったワタクシ。

 フェンスの側に立っていたのは、照れた表情でこっちを見つめる兄のアレクサンドル。


「あ、ジェル。ごめんな急に……」


「いえ、いいんですよ。話って何ですか?」


「いや……こんな事を急に言ったらびっくりすると思うんだけど。俺、実は前から……」


 ――のことが好きなんだ……


 あぁ。どうしてこんなことになってしまったんでしょうか。


 それは友人の氏神のシロが持って来たゲーム機が発端でした。

 神様の間で人間の流行を模倣するのが流行っていて、今はVRゲームが大ブームなんだそうです。

 その神様たちの作った新作ゲームのテストプレイを、なぜか我が家ですることになったのでした。


「まぁ僕とアレク兄ちゃんはお酒でも飲みながら、ジェルのプレイを見守ってるから。頑張ってね!」


 我が家のリビングのテーブルには、おつまみやビールの缶が並んでいます。

 彼らはお酒を飲みながら、ワタクシの下手くそなプレイを見て笑うつもりなのでしょう。


「そういえば、何のゲームかまだ聞いてなかったんですけど。ワタクシ、アクションゲームは苦手ですよ……?」


 ゲーム機のスイッチを入れながら呟くと、アレクが何の屈託も無い表情で元気良く答えました。


「おう! お兄ちゃんと恋人になる恋愛ゲームだ! 頑張ってくれ!」


「え、待ってください! そんなの――」


 ワタクシの反応を酒の肴にする気満々じゃないですか……!


 そう思ったのを最後に、ゲームのコントローラーを握ったままスッと眠るように意識が途切れました。


 目が覚めると、なぜか真っ白な建物の廊下に立っています。扉や窓の感じからどこかの校舎のように思えました。


「ここは……学校、ですかね?」


『ゲームの世界にようこそ、ジェル。キミはこの学校の転校生だよ』


 どこからともなくシロの声が聞こえます。しかし周囲を見回しても誰もいません。


「シロ? どこにいるんですか?」


『僕はシロじゃないよ。このゲームのナビゲーター。恋のキューピッドさ!』


 恋のキューピッド。つまり恋愛の手助けをしてくれる存在ですか。


「あの、キューピッドさん。これはどういうゲームなんですかね?」


『この世界にいるアレクのハートを掴んでカップルになればゲームクリアだよ!』


「……あの。ワタクシは彼の弟ですし、こう見えても一応男なんですが」


「外見がアレクなだけで、中身はただのプログラムだから気にしなくていいよ。それに男性が乙女ゲームをプレイしたっていいと思うし」


「でも、相手がアレクの姿な時点でどうも抵抗があるというか……」


 ワタクシが渋っていると、ため息が聞こえました。


『はぁ~。クリアできない限り永遠に元の世界に戻れないよ。その場合は体が衰弱死して白骨死体になるかもしれないね!』


「衰弱死……⁉」


 まさか、そんな命をかけてプレイするようなゲームだったとは。神様たちが開発しただけあって容赦ない仕様です。


『さぁ、デスゲーム……じゃなかった。ラブゲームの開幕だよ!』


「今、デスゲームって言いましたよね⁉ あなたキューピッドじゃなくて地獄の案内人じゃないんですか⁉」


…………。


 キューピッドからの返事はありません。

 とんでもないことに巻き込まれてしまいました。

 こうなったら一刻も早くこのゲームをクリアしないと。


「とりあえず目の前の教室に入ってみますか」


 ドアを開けると、そこにはたくさんの生徒が座っていて、一斉にこっちを見ました。


「おはよ~!」


「おはよう!」


「オッス!」


 ――恐ろしいことに全員、アレクの顔です。


「うわぁぁぁぁぁ!!!!」


『あ、ごめんね。モブキャラのグラフィック反映されてないや。開発中だからこういうこともあるんだ。このままプレイしてね!』


 全員同じ顔なんてかなりホラーな光景だし、服装も制服だから誰が誰かまったく区別つかないんですけど。


「よし、転校生を紹介するぞ。ジェル君だ」


 先生の顔までアレクじゃないですか。悪い夢みたいです。


「ジェル君は……そうだな。アレク三号の隣に座ってもらおうか」


「三号って何ですか⁉」


 疑問に思いつつも、とりあえず空いている席に座りました。

 特に何も言われなかったので、たぶんワタクシの隣の席の人物が正解のアレク三号なのでしょう。


「ぜんぜん区別がつかないから、顔に三号って書いておきたいですね……」


「よろしくな! ジェル!」


 よく慣れ親しんだアレクの声。

 でも先生も生徒も全部アレクの声なので、このままここに居るとなんだか気がおかしくなりそうです。


 ――こんな悪夢みたいな学校から、早く抜け出したい。


 そう思っていると急にシーンが切り替わって、ワタクシは廊下に立っていました。

 手にはなぜか紙切れが握られています。


 中を見てみると「話したいことがあるから屋上に来て。三号より」と書かれていました。


「なんでしょうね……?」


 もしこれが告白だったら、いきなりゲームクリアですね。それなら話が早くて助かるんですが。

 ワタクシは階段を上がって屋上に続くドアを開けました。


「あ、ジェルだ!」


「三号。話って何ですか?」


 目の前のアレクに声をかけると、彼はきょとんとするばかりです。


「え、俺三号じゃないよ。七号だけど。俺、ここで筋トレしてただけだし。三号はあっち」


 三号と同じ姿にしか見えない七号は、向こうを指差しています。


 ――あぁ紛らわしい。そんなのどうやって区別つけたらいいんですか! と心の中で毒づきながら、アレク三号の元へ向かいました。


「ジェル。ごめんな急に……」


 フェンスの側に立っているアレク三号は、ワタクシを見て照れたような表情をします。


「いいんですよ。話って何ですか?」


「いや……こんな事を急に言ったらびっくりすると思うんだけど」


 彼の顔が赤い。そして透き通った青い瞳はまるで熱に浮かされたように潤んでいます。

 これはもしかしてワタクシ、告白されるんじゃないですか?

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