第39話:夜空の散歩

「んじゃ、早速試しに飛んでみるか」


 そう言ってアレクは箒にまたがって座席に座り、ハンドルを握りました。

 LEDでピカピカ光る箒がアレクを乗せてふわりと宙に浮きます。


「うん、こっちは問題なさそうだ。ジェルもそっちの箒に乗ってみてくれ」


「えぇ」


 ワタクシも同じように装飾されたもうひとつの箒の座席に腰掛け、ハンドルを握りました。

 アレクの組み立ては完璧だったようで、座席や足を乗せる場所もぐらつかず問題なく宙に浮いています。


「良い感じです。大丈夫そうですよ」


「よし、じゃ飛んでみようぜ」


「え、今からですか。もう真っ暗ですよ?」


「当たり前だろ。お婆ちゃん達は夜に飛ぶんだから同じ状況で試験飛行しねぇと」


「それはそうですが……」


「ほら、行くぞ! ちゃんと付いて来いよ?」


 そう言ってアレクは光り輝きながら夜空へ舞い上がりました。


「――あ、待ってください!」


 慌ててワタクシも彼を追いかけて飛び上がると、冷たい風がほほを撫で、目の前は雲ひとつ無い真っ暗な夜空になりました。

 少し離れたところでアレクの箒がチカチカとまぶしい光を放っています。


「すげぇ! 俺たち飛んでる! 空飛んでるぞ~~!」


「ふふ、アレクったら。そんなにはしゃいだら危ないですよ」


 上空は地上に比べて少し寒いですが、風を切って飛ぶのはなんとも気持ちの良いものでした。


「おい、下見てみろよ、街の光がすげぇキラキラしてて綺麗だ」


「宝石をちりばめたようですね……」


 その頃、地上ではUFOがでたと騒ぎになっていたようですが、そんなこととは知らずワタクシとアレクはしばらく夜空の散歩を楽しんだのでした。

 そして箒をジンに納品して、数日後……


「アレクちゃん、ジェル子ちゃんありがとうね! おばあちゃん達すごく喜んでたわ♪ これお礼ですって!」


 ジンはニッコリ笑い、蓋付きのバスケットをカウンターに置きました。


「おい、ジェル! 見ろよ、ハーブがいっぱいだぞ!」


「おや。これはありがたいですねぇ」


 籠の中には珍しい薬草がたくさん入っていて、手紙と薬を作る為の手書きのレシピまで添えられています。

 ワタクシは魔女のお婆さん達の温かい心遣いにほっこりして、手紙の封を開け文面を読み上げました。


「優しい錬金術師さんたちへ。箒を改造してくれてありがとうね、おかげでアタシ達はまた空を飛べるようになったよ。箒が光るのがナウいねぇ。他の魔女達もみんな真似して箒を光るように改造しだしたよ……って、ちょっと! もしかしてあの悪趣味な電飾がウケちゃったんですか⁉」


「そうなのよ~! 箒を電飾ギラギラに派手にデコって集団で飛ぶのが流行なんですって!」


「そっかそっか~、よかったな!」


「光景を想像するとアレな感じですが……とりあえずお元気になってよかったですね」


 まったく予想外のブームが起きたことに、ワタクシは思わず苦笑したのでした。


 それからのち、魔女たちから箒を改造する依頼がたまに店に届くようになりました。

 その結果、当店は以前より少しだけ忙しくなりましたが、夜空を飛ぶという楽しい経験ができたのでたまにはこういうのもいいかなと思っています。

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