第9話:揺れる仮面の謎
道楽で始めた奇妙なアンティークの店「
店主はワタクシ、稀代の天才錬金術師であるジェルマン。
取り扱うのは古今東西のいわくのある不思議なお品でございます。
その日、店内では品物の整理をするワタクシと、棚にハタキをかけ元気に掃除をする兄のアレクサンドルの姿がありました。
「お手伝い~お手伝い~♪ 俺はハタキ~♪ ふわふわハタキ~♪」
アレクはなにやら歌を歌いながら棚についたほこりを落としています。おそらく言葉を思いつくまま適当に歌っているのでしょう。
彼は子どもがそのまま大きくなったみたいな人なので、そういうことはよくあるのです。
「ジェル、終わったぞー!」
「お疲れ様です。そろそろティータイムにしましょう。手を洗ってらっしゃい」
「おう!」
休憩にリビングで紅茶とおやつのスルメをいただきながら、アレクとワタクシはとりとめなく話をしていました。
「しかしジェル……なんでティータイムなのにスルメなんだ。スコーンとかケーキとか無いのか」
「無いですねぇ。たまたまあったのがスルメだったもので」
上品な青色のウェッジウッドの皿の上には、茶色く細長いスルメが乗っていました。前にアレクがお酒のおつまみにと買ってきたものです。
「ジェルってケーキでもスルメでもラーメンでも、どんな時でも紅茶だよなぁ。しかもすげぇ甘いミルクティー」
えぇ、ワタクシはとても紅茶が好きでして、彼の言う通りどんな物をいただく時も必ず紅茶なのです。特に塩気の物をいただいた時の甘いミルクティーの美味しさは格別だと思います。
「甘いミルクティーじゃいけませんか?」
「いや、いいんだけど。俺の部屋にクッキーとか無かったかなぁ……あぁ、こないだ食っちまってたわ」
「ワタクシ、ヨッ○モックのシガールが食べたいです」
「お兄ちゃんはビス○が食いたい」
そんなことを言いながらスルメを噛んでいると、アレクがふと思い出したように言いました。
「そういやさ。最近、俺の部屋で気になることがあってな」
「どうしたんです?」
「うーん、見せた方が早いからちょっと待っててくれ」
そう言って彼は、自分の部屋から猿を模ったような茶色い仮面を持ってきたのです。
アレクの部屋には彼が各地で集めた民芸品がたくさん飾られていますから、きっとこれもそのひとつなのでしょう。
仮面にはいろんな模様が描き込まれていて、色は控えめなものの派手な装飾が施されています。
「色合いといいデザインといい、インドネシア方面の文化を感じる品ですね」
「これ、パプアニューギニアの山奥の部族の族長さんにもらったんだ」
「なるほど、そうでしたか」
「これがさ……部屋に置いとくと時々、カタカタ、カタカタって揺れるんだよ」
「揺れる?」
なんでもアレクが部屋に居ると、何かを訴えるかのように仮面がカタカタ揺れるんだそうです。
何か原因に思い当たるようなこともなく、特にタイミングも決まっておらず、急に揺れ始めるんだとか。
「それ以上のことは何も無いんだけど、最近すげぇカタカタするから気になっちゃってさ」
カタカタと揺れるからには何か理由があるのでしょう。
でもワタクシがその仮面を鑑定した限りは、呪いがかかっているとかそういったことは何も無いのです。
「不思議なこともあるもんですね。でも呪いの類はありませんし、様子をみてはいかがでしょう?」
「うーん、そっかぁ。じゃあしょうがないかな……」
そしてその日はそのまま何事もなく、一日が過ぎたのですが。
――翌朝、事件は起きました。
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