第二百四十話 The third confession その8
◆
【
①この結界内における蒼乃遥の干渉によって生じた
②全て十王の楕円鏡の中に転移させ
③奪った遥の「攻撃」を「光」に変換して撃ち返す。
天敵粒子は【
例えば光。粒子と波動の二重性を持つこの不思議で明るい現象は、古今東西の神話においてあらゆる悪鬼羅刹を駆逐してきた。
アンデッド、悪魔、闇属性。
天敵粒子がそういった相手に対して「学習」を行った場合、<外来天敵>は波動性を獲得し、光を放出する権利と機能を帯びるのだ。
当然、ただ光を出すだけでは不完全だ。
その光にどのような「神性」があるのか、「抽象概念」を必要とする能力か、「運命」や「現実改変」といった
分かりづらから、相手の
ゲーム時代、あらゆる生き物の天敵として君臨したテュポーンの性質を最も色濃く現わした
この能力がある限り、俺はたとえ誰が相手でも通用する「一枚の切り札」を持って相対する事ができる。
言うまでもなくチートだ。
これでも大分ダウンサイズされた性能だっていうんだから、笑えてくる。
だが……
「(これでもまだ、油断はできない)」
駆け巡る反撃の斬光。
楕円鏡より繰り出されるその破壊の光はいずれも遥自身の
彼女の攻撃は全て結界内の天敵粒子によって鏡の中へと移される。特に発生源である俺への攻撃は問答無用だ。
赤い粒子に吸い込まれた彼女の斬撃は、威力はそのままに反撃の光となって主を襲う。
光が舞う。
最速の現象が天敵となって蒼乃遥に襲いかかる。
――――全ての攻撃を封じた。
――――彼女よりも速い
――――何よりもその力の源は、彼女自身の攻撃力だ。
最速の、最強の、そして今や防御力ですらも最硬の相手に対して導き出した結論としてはまさに最適解。
完成度はまさに神域。
俺も出来上がってからこの手があったと滅茶苦茶感心した程さ。
『
――――あぁ、けれど
『もしもあたしが
――――それでも、
『どうしてついてないんだろ、こんなにすごい事ができるのに、なんだってやれるくらいすごい能力なのに、なんで鏡の反射なんて方法で返してるんだろ?』
――――それすらも、
『あぁ、そっか』
蒼乃遥は、
『
越えていくのだ。
『概念でどうこうする力じゃなかったから限界がある。凶さん自身に力を与える形でもなかったから多分複雑な変換はできなかった。……なんでだろ? その前に大量の力を使ったから?』
視えない。俺は遥の姿を捉える事はできない。
ただ、彼女の声だけが聞こえた。絶え間なく光が流れる剣士殺しの戦場で、《思考通信》越しに流れる恒星系の独り言。
『レヴィアちゃんの「
それはこの領域を作り上げた俺ですら気づき得なかった“穴”だった。
『鏡が攻撃を返す前にちょっとラグがあるのもきっとそういう事なのかな。吸ってから返すまでの
経験ではなく、知識でもなく、天性の才覚と勘でまるでパズルのピースを埋めていくかのように彼女は今生まれたばかりの術の
『似たような事言ってぶーぶー文句垂れる子を知ってるから分かるんだ。もらった力が多すぎて中々消化しきれないんでしょ』
確かに。言われてみればと納得を覚えてしまう。
運動エネルギーが速度の二乗に比例するものだとして、今の遥の一撃は一体どれくらいの威力なのか。
そんなものを秒間千発もの勢いで、あまつさえパートナーの精霊の力で「二十五本」に増えちまったら普通は耐えられない。
それを【
自画自賛じゃないが、遥の攻撃をこれだけ防いだ挙げ句、逆に攻勢に出られている時点で<外来天敵>のスペックは半端じゃない。
怪物達と渡り合う為のワイルドカードを手に入れた今の俺は、割とマジでヤバい領域まで来たのだろう。
たった一つ、強力な
強さを求める冒険者達が、命を投げ打ってでもボス戦に挑む気持ちが今なら少しだけ分かる気がする。
『つまりそこに突破口があると、遥さんは思ってしまったわけですよ』
だけど俺が、清水凶一郎がこの世界の“最強”になる事は決してない。
『あたしの攻撃をいっぱい吸わせて、この
なる必要もない。
『ハッ』
俺は笑う。
苦笑でも失笑でも嘲笑でもなく、心の底から嬉しいと思ったから笑うのだ。
『そう簡単にいくかよっ!』
もしもこの先、遥がまったり平和に生きたいと望むのであれば、俺はその生き方を心から尊重しよう。
だけど彼女がまだ見ぬ未知のワクワクを求めて“最強”の座を目指し、“桜花最強”や“666の獣”“皇国最強の剣士”に“根源の秘奥に立つ頂きの剣皇”、そして“ダンマギ史上最強”とぶつかるような日が来るのならば、
『吸収と反射はワンセットだ! お前の攻撃を吸い、そいつを吐きだす! そしてこいつはお前の攻撃を何千発と喰らってもまだ稼働し続けているっ! これが現実だっ! <外来天敵>の
『だったらその現実を、あたしは越えるっ!』
その時は全力で支えるよ、遥。
お前を飽きさせないって、約束したからな。
彼女の姿が視界に映った。
視える。いや、多分魅せている?
『折角のクライマックスだもんっ! 大好きな君にあたしのカッコいいところいっぱい見て欲しいなって』
脳が震えた。
推しのワンマンライブを特等席で見ている感覚を三千倍ぐらいに高めたようなそんな高揚と衝撃が全身を駆け巡る。
あぁ、そうだ。越えてみろ、越えてくれと肌を震わせながら俺は持てる全霊の限りをもって理不尽を振るう。
天より降りし十三の
それはまさに、あの日の戦いの再現だった。
オリュンポス十二――――いや、あえて十三偽神と呼ぼうか。
偽史
白雷が、聖歌が、極光が、龍炎が、怪腕が、機砲が、月矢が、霊崩が、混沌が、星閃が、震波が、砂塵が、神槍が、唯一人の敵を滅ぼさんと駆動し、稼働し、躍動する。
乳白色の地面を斬り裂くは【
それだけじゃない。俺は彼女の集中力を少しでも削ぐべく、新たに生成した赤い粒子を周囲に飛ばし『時間停止』の成功を試みる。
「(つっても、二十五本の
<外来天敵>×《時間加速》
触れた瞬間に時が停まる粒子の散布。
普通の相手ならゲームエンド級の悪辣さを持つこの二つの組み合わせも、恒星系相手では足止めにもならない。
風を纏い、蒼い粒子を惑星のようにぐるぐると回転させながら、恒星系が躍る。
十三の次元の流出も、十王の粛光も、赤い嵐すらスポットライトに変えて
『それじゃあ、いっくよー!』
彼女は心から楽しげに
まず、世界が揺れた。
物理的な震動ではなく、第六感に訴えかけてくる霊子の揺れ。
振るった瞬間を視る事は叶わず、
何かが悲鳴を上げていた。
この
刹那のみぎりに放たれたその斬撃は、正しく【
たった一撃、その気になった瞬間これである。
今まで彼女の幾千にも及ぶ斬撃を防ぎ続けてきた十王の結界が、一刀の下に壊れ始める――――それは適応、それは進化、それは覚醒。
「(とうとう来やがったな、蒼乃遥の真骨頂……!)」
暗黒の宙天に巨大な
白い稲妻のような細くくねった眩い光。
これは内出血だ。世にも珍しき
【
①この結界内における蒼乃遥の干渉によって生じた
②全て十王の楕円鏡の中に転移させ
③奪った遥の「攻撃」を「光」に変換して撃ち返す。
「吸収」と「反射」、二つの
元々、デタラメな奴ではあった。
戦いの中で成長し、勘と閃きと技術のゴリ押しで並みいる不可能をバッサバッサと叩き切る。
凄い奴だった。自慢の相棒だった。……あぁ、勘違いしないでくれよ? 過去形で語ってはいるが「今は違う」って言いたいわけじゃないんだ。
信頼も尊敬もそして惜しみない愛も。
俺が蒼乃遥に抱く前向きな感情の全ては、今までもそしてこれからも変わることなく無限大だ。
だけどある時を境に、その質が少しだけ変わったのもまた事実である。
契機は『常闇』のザッハーク戦。
あの戦いの以前と以後で、遥の中の何かが変わった。
成長する速度。適応するまでの時間。
斬ったものが治らなくなり、一つの斬撃が千の軌道を描き始め、逆に千の斬撃を一太刀に凝縮したような
大袈裟かもしれないが、人間から神様に生まれ変わったんじゃないかと言われても「だろうな」の四文字で納得してしまいそうになる位、蒼乃遥のインフレーションはその速さと大きさを増し続けている。
いよいよ、
活断される
落下する閻魔像。
漆黒の帳は
天敵の法則は、かくして天稟の剣士の前に敗れ去る。
たった三振り。
初見かつ天敵とも呼べる術式の構造を立ち所に看破し、剣の力のみで<外来天敵>を踏破した。
「あぁ……」
俺はその清々しいまでの快進撃に万感の思いを寄せながら、
「――――これを待ってたぜ!」
満を持して、真の切り札を解き放つ。
触れる必要はない。
この世界は赤粒子によって構成された
戻す時間は、結界完成の直後。
恒星系の攻撃によって一度は崩落を迎えた【
【
触れた対象の状態だけを過去に戻し、
『うそ……それは流石にヤバくない!?』
『言った筈だぜ。お前自身の力で、お前を討つってなぁ!』
全身から赤と蒼の霊力を迸らせながら、俺は背中のエッケザックスを構える。
【
つまり今の俺は、「この結界が完成し、そして崩壊に至るまでに彼女が行った全ての攻撃が
勿論、それだけじゃない。復活を果たした【
『いくぜ、遥ぁあああああああああああああああああああああああああっ!』
遥自身の力を取り込み、それを更に《時間加速》で
身体は負荷に耐え切れず内側から壊れ始め、エッケザックスはその
それらを<外来天敵>の粒子で無理やり補強し、更に自壊による肉体の致命傷をトリガーとして「【
骸の龍人から、邪龍王へ。
十王の裁きと十三次元の神威が飛び交う戦場に加え、更なる戦力を投下する。
『【
邪悪とは真逆の聖性に満ちた三つ首の龍が、俺のたった一人の最愛に向かってその美しき白翼をはためかせる。
<骸龍器>×『十三次元の統覇者』×<外来天敵>×【再誕する新世界秩序】
今の俺が出せる可能な限りの
仮想空間の全域を巻き込んだ乾坤一擲の
『ワクワク……ううん』
彼女は、目にほんの少しの涙を浮かべて、
『キラキラしてきた……っ!』
心から幸福そうに微笑んだのである。
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・邪神、スタンディングオベーション
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