第二百三十七話 The third confession その5
◆
仮想空間の空に開いた三穴の
円状に広がる黒穴はそのいずれもが一戸建ての家屋を飲み込める程の広さを誇り、その深淵に至っては目視する事すら叶わない。
歪な
幾千の
そして海皇の咆哮が如き破壊の
降誕した力の奔流は、まさに神罰の具現である。
“
かつて“杞憂非天”の地で俺達を襲った神々の脅威が、ここに鮮烈な再誕を果たしたのだ。
『
オリュンポスの神域を模した異空間とこちらの次元を繋ぐ
無論、制限はある。
各次元の一回毎の解放時間は最大十三秒に固定され、次元の解放権は各次元ごとに一日十三回ずつ。
大小問わずどんな形であれ、
一応、【
任意の事象を戻し、“なかった事にした”エネルギーを
立ち位置的にはサブウェポン。機能は良くも悪くもとてもシンプルで、しかしながらその威力はかつて“杞憂非天”で相対したオリュンポス十二偽神の神威そのもの。
それらが三つ
逃げ場はない。
そして遥は停まっている。
俺が停めた。
俺が撃った。
形成された完全なる包囲網。
広範囲砲撃三つと、時間停止の合わせ技の前ではいかな恒星系と言えども被弾は免れず――――
「(……どういう、事だ?)」
異変には、すぐに気がついた。
『外来天敵』と統合された俺のかつてのリミテッドロール『
『
そしてこのカウントは、各種条件を満たした瞬間に俺の中に貯まる仕組みとなっているのだが、
「(カウントがゼロだと……!?)」
貯まっていない。つまり、『
「(あり得ない)」
だが、それはあり得なかった。
時間停止による“動き”の封殺。そして、逃げ場のない三種の神威による砲撃。
蒼乃遥が生きている。それは良い。元よりアイツはこの程度でくたばるタマじゃない。
ましてや今のアイツは【
生存も、耐久も、防御も、無傷も、全部想定内。あいつの出鱈目ぶりを一番理解しているのは俺なのだ。蒼乃遥に『
「(
避けるどうこうと言った問題じゃない。
確かに俺は遥を『停止』させて、『統覇者』を撃ち、遥の周囲を三種の神威の爆心地に変えて、それから【時間停止】を解いた。
ここまでは、絶対だ。そして、遥のいる座標が既に
「(どうして、『
未来視が俺のコマ切れを予知したからだ。
振り返る。後ろにはいない。世界は赤色。本来の百二十倍の速度で充満した『外来天敵』の粒子によって、色彩を真紅一色に染め上げられた仮想世界の闘技場。
赤い。赤い。全てが赤い。
世界は正しく、『外来天敵』のテリトリーとなったその中で、
「なんなんだお前は……」
遥は、俺の右隣でピースサインをしていた。
大層ご機嫌な顔だ。右手に『蒼穹』、左手でピースサイン。
時間が停まっているから、それは完璧なポージングとなっていた。
急いで距離を取り、銀色の球体に新たな“穴”の展開を命じる。
「
『
「
新たに開かれる三色の次元。
遥を正面に捉えた三界の神威が虫食い穴より
「(当たっている、確実に)」
今度はしっかりと目視で確認し、『統覇者』による
『すごいねっ!』
声を、聞いた。
愛する女の声だ。聞き間違える筈がない。音を置き去りにした俺の
『本当に時間停められるようになったんだね! ビックリしたよ! 全然動けなかった!』
『
『〈外来天敵〉のおかげでな』
だから俺は、喜んで彼女との会話に臨む。
兎に角思考を纏める時間が必要だった。
『今まで
《時間加速》、《遅延術式》、【始原の終末】、【四次元防御】、そして【再誕する新世界秩序】
これまで会得してきた時の女神の術式は、最早俺にかけるだけのものではなくなった。
《時間加速》を遥にかける事が出来る。
《遅延術式》を触れることなく相手にぶつけることができる。
そして【四次元防御】を俺ではなく敵にかけてやれば、
『――――時間停止、やっと時属性らしい事ができるようになったぜ』
『ヤバッ……! 割りと本気に今の凶さん無敵じゃん』
『お前さんにそれを言われてもなァ』
苦笑が漏れる。世辞でもおべっかでもなく、遥は本当に俺の事をすごいと讃えてくれているのだ。
ただ今自分がやっている事を全部棚に上げているだけで。
『いや、でもさでもさ。この赤い粒子さん――えっと、これも凶さんって認識で確か合ってるんだよね?』
『そうだよ』
『この“粒子凶さん”すっごく便利だよね! 一粒一粒自由に操れて、ちょっとでも触れたら【凶さんに触られてる】って判定になるんでしょ』
『その表現はちょっとアレだが、ニュアンスとしては大体そんな感じ』
特殊な赤い粒子を生成し、これを自在に操る。〈外来天敵〉の初動は、必ずここから始まる。
だが、こと俺に関して言えば何の特殊性も発揮していないこの最初の段階ですら、大いに意味があった。
粒子は
そして俺の身体であれば、当然時の女神の術式もかけ放題だ。
つまり、外来天敵の領域下であれば、俺は三種の【
『なぁ、遥』
『なぁに、凶さん』
俺は遥に尋ねた。
彼女の姿は相変わらず見えない。
『どうやって、避けた?』
素直に聞いてみる事にした。
『時間停めて、範囲攻撃で逃げ場も潰した。けど、お前に当たってない。この矛盾がどうしても解けないんだ』
『うん、いいよ! 別に大した事じゃないしね!』
本当に大した事なさそうに、彼女は言った。
『凶さんは3秒ルールって知ってる?』
『アレだろ。食べ物を地面に落としても3秒以内に拾えばセーフ的なやつ』
3秒ルール。3秒以内ならば菌などの微生物の移動が間にあわないので、落とした食べ物でも安全であるという
『アレをね、やってみたの』
『……は?』
迷信を、真実に変える女がここにいた。
『ほら、あたし達の防具ってさ、薄い霊力の膜を使ってあたし達の身体を守ってくれるじゃない?』
『あ、あぁ』
それは冒険者であれば誰もが心得ている防具の話だった。
大昔のようにガチガチの鎧で身を固めるのではなく、防具から発せられる特殊な
身軽さと防御力を兼ね備えた最新の
『だからね、だからね、そのバリアが守ってくれている間に遠くへ逃げれば、たとえ
『……つまり遥、お前は、』
にわかには、信じられなかった。
『時間を停められて』
『うん』
『ゼロ距離で砲術撃たれて』
『うん!』
『そんで時間停止が解除されて、震動やら雷やらが体内への干渉を始めた
『そうそう!』
『それらが、うっすい霊力の
『すっごいね、凶さん! まさにその通りだよ!』
『…………』
……気絶しそうに、なった。
――――――――――――――――――――───
・新生時の女神の術式(対象範囲;赤い粒子に触れたもの)
①時間加速
最大百二十倍速の最強速度バフ。50メートル13秒台のチビちゃんが実質音速の1・5倍で動くようになる。うんち
②遅延術式
範囲と浸透速度がシャレにならない位向上した。直接術式を注入している状態に等しい為えげつない速度で鈍足化する。ただし、後述の【四次元防御】の存在がある為、こちらは【別の用途】で使う事が多い。
③始原の終末
ほぼ変わらず。ただし、赤い粒子を巨大な【腕】に変える事で大幅に
④四次元防御
実質的な時間停止。味方にかけることで絶対防御、敵にかける事で究極の拘束術式と戦術レベルで運用が変わり、汎用性の化け物になった。ただし、現時点においてゴリラ達はその真の有用性と有害性を正しく理解していない。ダブルうんちである。
⑤再誕する新世界秩序
接触の必要がなくなった為、赤い嵐の領域化であれば任意の事象を自在に巻き戻す事が可能
・外来天敵についてその1
基本的な能力は、赤い粒子の生成操作とそれを用いた三種の【天敵術式】の駆動。
・
命中率100パーセントの必中技を「よけろハルゴン!」というあまりにも理不尽な力技で回避してくる。
やられた方は、たまったもんじゃない。
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