第二百三十六話 The third confession その4
◆蒼乃遥のバトルスタイルについて
我等が麗しのヒロイン蒼乃遥さんのバトルスタイルは至ってシンプルである。
剣を握り、そして斬る。
たった、これだけだ。
半径数十キロ先からの災厄砲撃だとか、空間転移と防御無効化を駆使した縦横無尽の暗殺術だとか、不死身と創造性のコラボレーションによる無尽軍団の生成といった並み入る怪物達の中において、恒星系の基本戦術は、その
『
稀代の剣士にして無双の剣術使いである彼女は、しかしそれ故に剣を扱う者という枠組みから逸れず脱しない。
蒼乃遥は変わらない。
変わることなく人類未踏の領域へと進み続ける。
◆ダンジョン都市桜花・第百十八番ダンジョン『
仮想の世界の
かつてナラカと即席のタッグを組んでアズールさん達と派手にやり合ったフィールドの中心で、俺達は爽やかな殺意をぶつけ合った。
観覧席には、“笑う鎮魂歌”の皆様がちらほらと。大体八十人くらいかな。場所を貸してもらう条件としてアズールさんが見学しても良いかと尋ねてきた時は、精々二三人程度だと思っていたんだが、全くもって彼等の連帯感を侮っていたよ。
本当にクラン“笑う鎮魂歌”は、仲が良い。
「良いのか? ここ五百メートルしかないぜ」
いつも通りの、そして最近はとんとご無沙汰だったバトルコスチュームに身を包んだ最愛の彼女に向かって一応の確認を取る。
「報告書によれば、レヴィアタンってのは相当デカイ怪物だったそうじゃないか。だとしたらこの闘技場は相当狭いだろ。もっと広いフィールドに変えた方がいいんじゃないか」
「ご心配なくー。遥さんはどの距離でも問題なく楽しめるので」
トントン、と黄土色の地面をジャンプする度にポヨンポヨンと彼女の胸が揺れる。至福の光景だ。この刹那を永遠のものにしたいと強く願った。
「それにあたしあんま
ベッドの中で何度も聞いた話だが、未だに信じられない。
レヴィアタンだぜ?
レヴィアタンと言えば圧巻の巨体とド派手な破壊光線が人気を博した無印屈指の超脳筋キャラである。
ダンマギで仲間に出来た彼女は“
いわんやそれが本体で、しかもパートナーが遥さんとくれば、そりゃあもうビンタの風圧で街の一つや二つを倒壊させるような大怪獣『ハルゴン』が爆誕してもおかしくないと思っていたのだが……
「なんでそんな可愛くないことやんなきゃいけないのさー!」
この通り遥さんは、いつものサイズでおっぱいポヨンポヨンである。
大怪獣『ハルゴン』なんて、どこにもいなかった。
天を覆い尽くす複製レヴィアタンなんて世紀末展開もない。
本当に剣一本なのだ。
「いやだって、そういう派手なのは黒騎士のおじさまとかユピちゃんの分野でしょ。
「お前の白兵戦能力にレヴィアタンの殲滅能力が加わったら相当ヤバいと思うんだけどなぁ」
少なくとも、俺が遥だったらそういう組み立て方をしていただろう。
万能。自己完結型。オールラウンダー。勇者ないし魔王ポジション。物理攻撃も霊術攻撃もどっちもいけて更に回復や味方の支援もそつなくこなせるスーパーユーティリティープレイヤーこそが俺の憧れる
ウチで言ったら旦那、陛下、花音さん。余所のクランで言うとそれこそ四季さんのようなタイプなのだが……
「そういやお前の憧れの人って四季さんだよな、遥」
「そうだよー。四季様、四季蓮華様」
「カッコイイよねー!」と嬉しそうにはしゃぐ恒星系の姿は、まさにヒーローに憧れる子供のようである。
蒼乃遥は、四季蓮華に憧れている。何せ四季さんのドキュメント番組をみて「あの人みたいになりたい」と思い立ったのが、蒼乃遥という少女の全ての始まりだったのだから。
でも、そうだ。だとしたら……。
「それこそ四季さんって万能の究極系みたいな人じゃないか」
“桜花最強”四季蓮華。万能を越えた全能の力を持つ彼女の全盛期は、マジで何でも出来たという。
しかも四季さんが保有する三柱の真神の一つは、遥と同じ魔王。
四季さんに憧れているのなら、それこそ同じような
「うーん……。なんていえば良いんだろう」
「そりゃあ、最初契約した時はちょっと考えたよ。確かにレヴィアちゃんなら四季様の
「らしいな」
「うん、だけどね。あたしも『嫉妬』で色々経験していく中で気づいたんだよ」
おもむろに恒星系が懐から取り出したのは一本の“柄”だった。
刀身はなく、蒼白色に輝く全長四十センチ程の精霊石製の柄。
水のない海のような、太陽の消えた晴れのような、そんな定義としての矛盾を抱える刃なき剣。
それこそが<一天四海>、レヴィアタンの概念
「あたしは四季様になりたいんじゃなくって、四季様みたいに輝きたいんだって」
「言い回しが違うだけで同じ意味なんじゃないか、それ」
「うーん、なんだろ。推しと同じお仕事はしたいけど、推しそのものになりたいわけじゃない……みたいな?」
「あぁ、そういうことか」
憧れの人と同じ職業や状況に就きたいのか、あるいは憧れの人そのものになりたいのか。
この二つは似ているようで全然違う。
前者は目標で、後者は同化だ。そして後者よりの憧憬を抱く人間は迷うことなく“神々の黄昏”の門扉を叩く。
「そもそも、四季様をちゃんと倒すならあの人と同じ
「お前……」
ギャラリーが一斉にどよめいた。
そりゃそうだろう。四季蓮華の正面攻略なんて、歴史上の勝者であるオーディンですら成し得なかった
「だからあたしはこっちを極めるよ。
ミーちゃんこと『布都御魂』は、蒼乃家という剣の一族と契約を結ぶ精霊である。
彼女は己を一本の刀と定め、その柄を握るに足る人間を守り支える事を
だというのに当代の契約者が剣を捨てて、力こそパワーとばかりに怪獣化して暴れ散らかしたら、それこそ話が違うという事になって最悪
RPG風に例えるならば、剣士系の
「あー、成る程なぁ。今の説明が、一番しっくりきた。……うん、お前が正しいよ遥。蒼乃遥はそのままで良い」
そのままが一番強い。
「それじゃあ、お客さん待たせるのもアレだしそろそろやろっか」
「だな」
頷き、見つめ合いながら俺達は互いの得物を抜きあって、
「ルールは時間無制限の一本勝負。降参なし、待ったなし、どちらかが果てるまでひたすらとことんヤリ合い続ける。文句ねぇな遥っ!」
「ないっ! しっかりきっかりきちんと正しく残酷に、優劣をつけようじゃないか凶一郎っ!」
赤と蒼の粒子が一斉に舞う。昂る霊力。爆ぜる歓声。
さぁさ、待望のお立ち会いだ。
「いざ――――っ!」
「――――勝負っ!」
システムアナウンスが始まりを告げるブザー音をかき鳴らした瞬間、俺は腰のエッケザックスを抜き、そしてメインウエポンの名を呼んだ。
「いくぞ、<
身を覆う黒の波動と共に俺の身体が<骸龍器>に染まる。
だが、その黒色はかつての紫黒に非ず。骸の龍の身体を満たすその色彩は鮮烈な赤。
<
「(《時間加速》、
加速する時間。停まる世界。音速の動きが停まって見える極限の領域で、しかし当たり前のように彼女は消えていた。
上か、下か、背後か、側面か――――。
どこにいるのか、全く分からない。
たった一つ、分かる事があるとするのなら、それはこのまま手をこまねいてゼロコンマ何秒かの時間が過ぎ去った時点でゲームオーバー。新戦力のお披露目においてこれ程ダサい事はない。
「安心しろよ。そんな呆気なくやられるつもりは
刃は首元まで迫っていた。
満面の笑みで、愛刀の『蒼穹』を振るう恒星系。
飛びかかった状態のまま空中で静止する我が愛しの
遥は動かない。
加速した世界の中で俺と『赤い嵐』だけが動きまわり、世界を深紅色に染め上げた。
紙一重。それも初見殺し要素を多分に含めた
次も上手くいく保証はない。そもそも今の遥のスペックを考えれば、こんなものはただのスタートラインでしかないのだが、
「盗ったぜ、
けれど、だがしかし、この日清水凶一郎は初めて蒼乃遥への決定的な攻撃権を得たのだ。
歓喜の感情と共に振るうは、『
呼びかけに応じ別次元の彼方から現れた手の平サイズの
『天城』の完全攻略報酬として俺の下に渡ったこの小さな球体が、俺を、清水凶一郎を新たな次元へと誘うのだ
「
『
「当然、
瞬間、仮想世界の上空に三つの穴が開いた。
黒く、底の見えないその穴の直径は小さめの一軒家であれば簡単に飲み込めそうな程広大で、さながらそれは天変地異の前触れの如き威容、異形、異常。
「
『
こいつは、この可愛らしい球体は“鍵”なのだ。オリュンポスが造り上げた十三の次元に似た空間へと繋がる“穴”を開き、そこからそれぞれの次元に応じた高次元エネルギーを間欠泉のように噴出する――――まぁ、要するに、
「――――
衛星兵器なんだよ、こいつはさ。
―――――――――――――――――――――――
・『
ただし“穴”の解合は1回最大13秒、各次元ごとに1日13回ずつ(計169回)と上限が設けられているので、闇雲に使っていると割りと息切れを起こしやすい。天啓枠を消費しない上、術者の霊力消費もほぼないので、非常に持ち得な兵器である。
・大怪獣『ハルゴン』
レヴィアタン遥さんの没案の一つ。ビンタの風圧で仮想空間の街を吹き飛ばし、複製レヴィアタンを何十匹も召喚して大暴れする予定だった。
没理由→剣士とは何なのかという哲学的命題にぶつかったので、没。
やったか……!?
( ; ゜Д゜)
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