第百三十一話 <活殺震盾>と<運命の寿命>
◆ダンジョン都市桜花・第百十八番ダンジョン『
「MOKUUUUUMAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
土煙を撒き散らしながら、円状のフィールドを駆け回る鋼鉄ホース。
巨大で速くて耐性もガチガチで遠距離攻撃までかましてくる。
にこれまで戦ってきた中ボス達とは、明かにランクの違う難敵だ。
というか一桁級のダンジョンだったら普通に最終階層守護者張れるくらいの実力はある。
そんな強中ボス『トロイメア』を、二つの
火荊とチビちゃんのコンビによる空中遊撃部隊は、火荊の契約精霊である
見た限りでは非常に好調なようで、やいのやいのと馬鹿な事を言い合っている余裕すらある感じだ。
そして一方の俺達地上組は、苦戦、とまではいかないまでもそれなりに
自身のパッシブスキル【我駆ける、故に馬也】の発動条件を満たす為に、ひたすらドームの周りを走り続ける鋼鉄馬。
ご自慢の遠隔操作ユニットが通じない状況を理解するやいなや、奴は別の『飛び道具』でこちらを攻撃してきたのである。
『! 凶一郎さん、そちらの方角へ“たてがみ”が飛んで来ます!』
『了解っ』
急いで距離を取る。
芝生から芝生へ渡り、奴の進行方向ギリギリの位置へと退避。
そして間髪いれずに聞こえてくる何かが刺さる音。
見ると先程まで俺が陣取っていた位置に鋼の長槍のような物体が十数本突き刺さっていた。
《
身体の一部を切り捨てて攻撃に転用するなんて一見すると非効率的にみえるかもしれないが、奴の列車大の体躯と【我駆ける、故に馬也】の超再生能力が合わされば、ほぼほぼノーコストの範囲攻撃と化す。
スタジアムの中心には、既におびただしい数の残骸が撒かれていた。
どれもこれもがメタリックな上、アホみたいにデカい。
そして攻撃が続けば続くほど、こちら側の陣地が狭まっていく。
「(……そろそろ、もう一回仕掛けるか)」
俺は虚と花音さんに合図をしてから、奴の周回コースに足を踏み入れた。
地響きと土煙を携えながら、疾駆する鋼鉄の守護者。
奴の黒眼と未来視を起動した俺の瞳がバッチリと交錯。
そのまま、トロイメアが俺を踏み潰すタイミングを計算し、【四次元防御】の体勢へと移行するが
「MOKUUUUUMAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
「え?」
俺は、その
鋼鉄の巨大馬が、俺の近くへと駆け寄り、そして高らかに
「おい、嘘だろ」
そして少し遅れて現実がやって来る。
甲高い嘶きを上げながら、俺の頭上を飛び越えていくお馬さん。
こいつ、再現体の癖になんて知能をしてやがる。
『完全に読まれてますね、オレ達の攻撃。ウマの化物の癖に、その辺にいる
『すまん、虚、花音さん。多分、【四次元防御】を利用したトラップ作戦はもう使えない』
『凶一郎さんのせいじゃないです、むしろ一回目の時に決められなかった私のせいで』
『花音ちゃん。マジ健気。ほんと良い子じゃん。だけどそういう萌える奴は後に取っといてくだせぇ。今は』
『あぁ、反省会は後でみんなでやれば良い。まずはアイツをぶっ壊すのが先決だ』
脳内で仲間達と会話をする傍らで、思考をフル回転させる。
正直、倒すだけなら幾らでも方法がある。
虚に頼めば二秒で殺してくれるだろうし、俺がやってもそう時間はかからないだろう。
だけどそれでは花音さんが育たない。
そして彼女が育たなければ、最終階層守護者戦が偉い難易度になってしまうのは間違いないわけで
「(……でも、このままじゃ)」
『トロイメア』は強い。
高い攻撃力と恵まれた体格、物理攻撃と霊術攻撃双方に対する耐性を持った鋼の身体、そして系統の違う遠隔攻撃二種に、固有スキル【我駆ける、故に馬也】によるステータスアップと、超再生能力。
とてもじゃないが、仲間の成長を見守りながら倒せる相手ではない。
「(……仕方ない。ここは一旦、虚に治めてもらって)」
俺が、方針を固めかけたその時だった。
『あの、凶一郎さん。お願いがあります』
約五十メートル先で陣を取っていた桜髪の少女と目が合う。
『何、花音さん。話してみて』
思考通信を介して、俺が彼女に問いかけると、花音さんはこう言ったのだ。
『
◆
『それでは、行きます!』
短い作戦会議を終えると、花音さんはすぐに自分の持ち場へと移った。
『良いんっすか、兄貴。こいつはかなりハードっすよ』
『ヤバそうな
前方で巨大な金盾を構える桜髪の少女の姿を見やる。
背筋を伸ばし、凛然と怪物に立ち向かう姿は、まるで神話の英雄のように高潔で、俺のような矮小な人間にはちょっぴり眩しすぎる位だ。
『それに花音さんの作戦は、理に叶ってると思うよ。今の状況を最大限利用した良い作戦だ』
『そこについてはオレも同意しますけど……ほんと、勇気のある子ですよね』
『あぁ……ほんとに』
勇気があり、そしてとてつもなく
流石はメインヒロイン、と俺がダンマギオタクとしてのクソデカ感情に浸っている所に、ガツンと響き渡る
「MOKUUUUUMAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
叫びながら、引き裂きながら、怒りながら
走る事を止められないブレーキ・ブレイカーが、
そう、トロイメアにとっての戦闘行為とは、
使命でも趣味でも矜持でも正義でもなく、ただ目障りで邪魔だから退けようとしているだけなのだ。
だから奴の攻撃は、その高いスペックに反して間接的なモノが多く、そして延々と外周を回り続けていたのである。
攻撃の為の走行ではなく、走行する為の攻撃。
このボスにあるまじき手段と目的の逆転現象こそが、奴の『つけ入る隙』である事は間違いない。
だが、
ハイスピード硬装甲高耐性持ちの巨大生物を打ち倒す算段が、果たして今の花音さんにあるのだろうか。
『<
答えはある。
彼女の持つ二つの天啓と、『
……ンなもんあるなら最初から使えよ、だって?
いやいや、事はそう単純な話じゃないのさ。
だって彼女がこれからやろうとしている一連のコンボ攻撃は、花音さんがダメージを受ける事を前提とした戦法なのである。
幾ら
それは、彼女の心意気を買ったからだ。
“――――私、まだまだやれます。いえ、やりたいんです。”
きっとさ、本来ここで俺が取るべき選択肢は「そんな危険な方法、リーダーとしてとても看過できない」だったんだと思うよ。
“ねぇ、凶一郎さん知ってますか? 諦めるの語源は、明かに極めるっていうんですよ。やれることを全部やって、その果てに辿り着くものが『諦める』なんです。だから、私はまだ諦めるべきじゃない、諦めていいわけがない”
でもさ、あんな熱い想いをぶつけられたら
“お願いします、凶一郎さん。私にこの試練を越えさせて下さい”
そりゃあ、オタクとしてGOサインを出さざるをえないわけですよ。
地響きが鳴る。
走る事に取り憑かれた鋼鉄の馬が、黒雲と金属片を撒き散らしながら桜髪の少女へと――――否、取るに足らない障害物を取り除くべく、前脚を高らかに上げた。
「――――!」
一瞬だけ、トロイメアと目が合った。
彼女を踏みつけようか、それとも跳躍して避けようか、恐らくその二択で迷ったのだろうが、生憎とお前が着地するであろうポイントには
それだけのスピードを出しながら
「(……お前はそういうキャラじゃないもんな、トロイメア。障害物は越えるか、壊すか……その二択以外はあり得ない)」
よって、必然的に鋼鉄馬は花音さんを踏みつけた。
列車大の大きさの化物が、凄まじいスピードを纏いながら放つストンピング。
二階建ての家屋ぐらいならば、一発で潰しかねない程の威力を備えたその蹴撃を、しかし花音さんは――――
「ぐっ――――うぅっ!」
――――耐えた。
壁と見間違う程の巨大な盾を天に掲げ、怪物の一撃をせき止める桜髪の少女。
盾の天啓<
列車の衝突を、盾を構えただけの人間が耐えている。
襲いかかる衝撃、肉体がバラバラになってしかるべき
単純なステータス強化だけでは到底耐えられない質量と加速度の暴力を、
<《
死の身代わりとして、運命の神が背負わせるのは苦しみの業病。
時と因果の女神の系譜に連なるさる亜神の能力は、
そうして得た神域の防御力の前に、最早
「――――MO!?」
そして己の加速を停められた鋼鉄馬の前に、とうとう己の在り方が牙を向いた。
その能力は、【走行状態中の各種バフ&再生能力】と【非走行中の各種デバフ&体力減少】。
「MOKUUUUUMAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」
強力な祝福は一転、己を蝕む呪いへと堕ちた。
叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。
プライドをかなぐり捨てて逃げ去ろうと試みるも、零落したステータスでは思うように身体を動かす事ができない。
ゲームでは【二ターン休み&ステータス低下&ターン終わりに自傷ダメージ】として描かれていたトロイメア唯一にしてあまりにも致命的な隙。
『これで――――っ、終わり、うっ、です!』
そして彼女はその隙を見逃さない。
防御スキルを解除し、<
「はぁああああああああああああああああああっ!」
風のようなスピードで巨大な斧を振り、水の刃と光の矢で四肢を刺し貫き、桜色の大筒が鋼鉄を焦がす。
極まった敏捷性と異常な霊力回復速度の合わせ技による
まるで五人の花音さんが同時に動いているかのような、その圧倒的な連撃を前に立ち直る猶予などあるわけもなく
「あぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
そうして、第二十層のボス『トロイメア』は、跡形もない程のスクラップとなってリタイアする運びと
―――――――――――――――――――――――
・<
盾の天啓。第一能力『防衛領域形成』によって防御力と最大HPを増強し、第二能力『活殺領域展開』によって<
・<《
身代わりの天啓。現界中は体内に砂時計の概念物質が形成される。
自分にかかるダメージを一定期間無効化し、そしてそのダメージ量に応じた割合の“病”を術者に付与する諸刃の盾。
ほぼ【四次元防御】の下位互換だが、ゴリラのそれとは違い、発動中に動く事ができるという利点がある為、一概に完全下位互換とはいえない。
ただし、防げるダメージ量に限度があり、また“病”は戦闘後も続くため(大体一日も寝てればケロリと治る。程度としてはワクチンの副作用レベルのもの)、ここぞという時に使わないと自滅する。ぶっちゃけ結構なハズレ枠。
そこまでランクの高い天啓ではない為、実はメリット、デメリット共にそこまでぶっ飛んではいない。
無効化は→防げる範囲に上限があり、耐久値が切れたら即アウト。
病は→症状自体は軽いけど、戦闘不能状態に陥る。
つまり、この天啓は上にも下にも振りきれていない中途半端さんなのだ。
ちなみに今回の場合は、<活殺震盾>と《アイギスの盾》の二重バフが乗っていた状態での使用なので、実際に無効化したダメージ量は、かなり少ない。
・なお、花音の天啓獲得判定は、とある条件を満たす事で二つ分のリセットが可能になる為、ほぼ他キャラと同様のカスタマイズが可能である。
・諦める
語源がこちらの世界とはちょっと違う。
この世界は神も仏も跳梁跋扈している世界なので、色々とカオス。
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