第百話 なんでも治す聖女様










◆ダンジョン都市桜花・第三百三十六番ダンジョン『常闇』第十層





 選抜試験は、全五日に渡って行われる。


 

 といっても五日ぶっ通しで過酷な試験を受けてもらうわけじゃない。

 人によっては三日ですむ場合もあるし、なんだったら二日ちょっとで終える奴らも現れることだろう。

 最長で五日間設けてあるというだけの話だ。

 試験期間が長くなるかどうかは、受験者次第。

 いわば費やした時間も含めて『試験』ってわけ。



 んで、その要となるのがこの“探索試験”だ。



 ルールは至ってシンプル。


 受験者達を五人一組のパーティーに分け、十一層から二十層までを四日後の十六時までに踏破クリアーしてもらうというただそれだけの内容だ。



 そしてこの試験を踏破クリアーした者達から順に次の試験を受けてもらうというのが本試験の基本的な流れとなるわけだが……実はここに一つ仕掛けがある。



 それは今イベントにおける試験のタイムリミットが、全てに設定されているという点だ。



 さっきも言った通り“探索試験”のタイムリミットは四日後の十六時である。



 だが、続く“選択試験”のタイムリミットも四日後の十六時だし、最後に控えた“面接試験”も同様のスケジュールだ。



 つまりこれ、どういう事というと、探索試験の結果タイムが良くなければ休息や次への準備、そして最悪試験そのものが受けられなくなるってことなんですよ。



 二十四時になったら強制的に中間点に戻されるダンジョン世界の仕様を頭に入れながら五日(正確には四日と数時間)の内に十階層を踏破してその間に休憩を挟みつつ、次の試験に臨んで良い結果を出す。


 もちろん、四日後の十六時にギリギリ二十層を踏破するような輩では到底最後の試験まで辿り着けず、結果個人の本領を見せきる前にあえなく終了ドボン……うん、発案者が言うのもアレだが、中々にエグい試験だと思う。



 特に厄介なのは、この試験にはみんな大好き就職活動でお馴染のグループワーク、要するに【見ず知らずのライバル達と協力し合わなければならない】という要素が含まれているって部分。



 いくら個人の能力が優れていようとパーティーメンバー全員で踏破しなければクリアー扱いにならない為、受験者達はなにがなんでも協力プレイを強いられる。



 しかも他チームへの悪質な妨害行為は即失格扱いというレギュレーションだから、本当に自分達のチームを盛り立てていく以外の攻略手段がない。



 今日知り合ったばかりの赤の他人と連携して中規模ダンジョンを攻略。



 単純だが、様々な資質が試される難問題――――我ながら結構良い塩梅に仕上がったと自分を褒めてあげたくなるぜウケケケケ。



 さて、この“探索試験”の指定探索区域フィールドは『常闇』の十一層から二十層。



 俺達以外は、ほとんど誰も踏破していないフィールドだから、ロケーションとしては絶好。

 労働者組の皆さんにも迷惑をかけない上、場所ショバ代もタダだから本当に至れり尽くせり――――と言いたいところなんだけど、実は一つ大きな問題を抱えておりましてですね。



 うん、そう。あの方ですよ。皆さんご存知スーパーインチキ厨二ミイラこと“死魔”アストー・ウィザートゥさんですよ。



 俺達が踏破するまで永らく『常闇』攻略の蓋となっていた十層の中ボス。



 再現体とはいえ、こいつをどうにかしない事には、試験も糞もない。


 【たとえ先遣隊がボスを倒したとしても、再現体を倒さないと後続が先へ進めない】という意地悪ルールがある以上、参加者は漏れなく全員“死魔”を討伐しなければならんのだ。



 メンドクセぇよな。メンドクセぇ上に超絶ダルい。



 だけども俺ちゃん考えました。

 どうすれば、死魔を効率よく捌いて受験者282人を第二中間点へとご案内できるのかって。



 そして考えに考えて、ようやく辿り着いた結論がこちらでございます。





「くっ殺せ!」

「元よりそのつもりだ」




 飛び交う死の呪い。四肢を縛る卑劣な鎖。そいつを時の女神お手製の【四次元防御最強無敵バリア】で防ぎきり、死魔の試練を踏破。



 そして拘束が解除された頃合いを見計らって、付き添いの運営スタッフさん達が死魔をぶちのめした。




「はいっ、お疲れさまでした。これで皆さんは晴れて十層クリアーです。第二中間点の待ち合い広場にお進みください」



 なんとも言えない顔で主のいなくなった十層を抜けて行く八人の受験者達。



 そう、これこそが苦慮の末に編み出した確実なクリアー方法、すなわち引率パワープレイである。



 ダンジョン『常闇』における最大パーティー編成十人から俺と、討伐用のスタッフさんを除いた受験者八人とパーティーを組み死魔を討伐。


 そして引率が終わったら再び九層に戻って新しい受験者達と十人パーティーを組み直す。



 これを総受験者数の二百八十五人の八除はちじょ分、つまり合計三十六回繰り返せば漏れなくみんな十層に至るという寸法さ!



 どうだい、この脳筋パワープレイ。泥臭くってとっても素敵だろ!



 この日のために【四次元防御】を鍛え上げ、更にザッハークをぶっ倒して獲得したポイントを全部こいつ(と既存固有スキルの強化)に費やしたのだ。


 今の俺は初めて十層を訪れた頃の未熟者ベイビーではない。



 【四次元防御】を三十六回使用してもへこたれないスーパー凶さんなのだっ!









「おえっぷ」




 とはいえ、辛いものは辛い。


 邪神協賛きょうさんのクソみたいな耐久試験を突破しているので三十六回以上の連続使用が可能であることは間違いないのだが、それはそれとして痒いし痛いし気持ち悪い。




 あぁ、頭がガンガンする。動悸が激しい。


 クソッ、市販のポーションや漢方じゃ効き目が悪いし、かといって万能快癒薬エリクサー使う程の痛みでもないし、こういう中途半端が一番うざったるいんだ。




「あの、清水さん。少し休まれた方が」



 冒険者組合の黒制服に身を包んだベテランスタッフさんが、気を回してくれる。


 大変ありがたい。ありがたいのだが、ここで休んだらその分だけ受検者達の探索時間が減る。


 時は金なりの地獄タイムアタックを企てたのは俺なのだ。


 その俺が入り時間を遅らせるなんてことはあってはならない。


 それにぶっちゃけ九層そとの医療班じゃ焼け石に水っつーか、ポーションに毛の生えた程度の効能しか見込めないと思うのよ。



 ……まぁそうはいってもいざとなったら頼らせてもらうけどさ。



 でも今はまだ、もうちょっとだけ



「お気遣いありがとうございます。だけど俺は全然元気なんで、大丈夫っす」



 さぁ、もうひと踏ん張り頑張りましょうとから元気スマイルをかましてみる。



 するとベテランスタッフさんが大変申し訳なさそうな声で「いえ、まだ半分近く残っているので五ふんばりくらい必要です」とおっしゃった。



 ウフフ、言い得て妙ですわ……ウフ、フフ、ふぇっ。












「あの、大丈夫ですか? 代表様」



 そしてとうとう受験者にまで心配された。


 しかもご心配くだすったのは、あのラスボスソーフィア・聖女ヴィーケンリード


 やべぇ、超ワケェ。十代の聖女様ってこんな可愛かったんだ。しかもめっちゃ良い匂いがするじゃん。

 地獄に仏、十層に聖女様。なんか見てるだけでこの方を信仰したくなってくるぜ、ウチの邪神よりもよっぽど神様してるというか、神々し過ぎるというか何このポカポカしてくる感じ。不思議と多幸感が満ち溢れて――――いや、じゃなくて。




「大丈夫ですよ、俺は。このように全身バッチリ鍛えてあるんで」



 爽やかスマイルと共に自慢のバルクアップを決めて見る。あっ、全然キレてない。筋肉さん達が泣いている。




「……………………」

「ハハッ、とにかく問題ないんでね。とりあえず受験者の皆さんは入り口付近で待機していて下さい」



 それだけ言い残して俺は、本日二十八度目の死魔さんと相対して




「ダメですっ」



 そしておさげの聖女様に、背中をつねられた。



 痛くはない。人を傷つけないようにと精いっぱい手心を加えたソフトタッチだ。

 むしろそれはダンマギプレイヤーとしてはご褒美以外の何物でもなく、こんな状況でさえなければ滂沱ぼうだの涙を流して喜んでいた事だろう。




 だけど今は仕事中だ。キュンキュンしている場合じゃない。



「えっと、すいません。離して頂けると」

「そんな青ざめた顔をなされている方を放っていく事などできませんっ、せめてわたくしの《癒しヒーリング》を受けて下さいませっ」



 うんうん言いながら、必死になって俺を引きとめようとするラスボス聖女様。



 その引っ張り力は、まるでわたあめのようにふわふわで、正直ちょっと俺が力を込めれば簡単に抜け出せる程度の圧しかない。



「…………」



 だけどこの聖女様頑固だからなぁ。


 下手に断ったら絶対話がこじれるだろうし、変に刺激して余計な《奇跡》を起こされても困るからここは素直に頷いて――――いやいやそれだとやっぱり他の受験者への示しが




「あの、失礼します」




 とかなんとかゴチャゴチャ考えている内に聖女様がぺかーっと光り出した。



 その美しい髪色と同じライトグリーニッシュブルーの聖光が優しく俺を包み込む。



 すげぇ、身体中を蝕んでいた痛みやら気持ち悪さやらがウソみたいに引いていく。




「その、差しでがましい事をして申し訳ありません。でも代表さんの苦しそうなお顔を眺めていたらいてもたってもいられなくて……」

「ありがとう、とても助かりました。ご助力感謝いたします」



 彼女の厚意に打算はない。


 ポイントを稼いで試験を有利に進めようだとか、他の参加者達に俺の体たらくを見せつけておとしめてやろうだとかそんな狡いことを考えるような女ではないということを俺は良く知っている。



 だからこそ口から飛び出した言葉は純度百パーセントのありがとうで




「えっ?」




 そして全身の筋肉達と共に何故だか溌剌はつらつになった我が下半身第三人格を見て、俺は絶句した。




 ……どういう事だよ相棒。


 ここ最近、遥以外のどんな刺激に対しても全く無頓着だったお前がどうして聖女の《癒しヒーリング》で元気になってるんだよ?



 何これ? えっ、どういう事? もしかして俺の不調って《癒しヒーリング》で治せるレベルのものだったの?




『馬鹿な……、あり得ない。――以外の者にマスターの愚子息ぐしそくが反応するなど』



 突然ガチクソシリアスなトーンでものすごく失礼な事を言いだす邪神。


 おい待て、どういう事だ。ていうかやっぱりお前何か知ってんだろヒミングレーヴァ。



『私は何もしりません。ただ噂はかねがね聞いておりましたが、この聖女おんな相当やりますね。我が脅威として……いや、いっそのこと』



 なんか、かつてない程盛り上がってるところ悪いんだけどさ。


 俺の股間の盛り上がりでそこまで真剣になられても、ちょっと困るというか、普通に恥ずいんだけど。






 ―――――――――――――――――――――――


バ●アグラ聖女って言った奴は屋上な!

(# ゜Д゜)
































  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る