第二部第一章 最新の神話(上)
第九十九話 選抜試験
◆◆◆『
ヒロインキャラとしての最推しは
……うん、そうだね。
俺はシスコンな上に元々蒼乃の女を
だから、これは
とりあえずこの表を見てくれ。
【精霊大戦ダンジョンマギアキャラクター総選挙結果発表】
一位
二位 ■■■■■ (ラスボス)
三位 クリス・シャネル (無印聖女)
四位 蒼乃彼方 (かなたん)
五位 空樹花音 (メインヒロイン)
……そう。決して不人気というわけではないのだが、作品の顔枠としては
メインヒロインは人気が取り辛いという業界あるあるに即した結果だと言ってしまえばそれまでだが、何はともあれこれが民意なのだ。
全キャラの中では五番手、ヒロインの中では三番手。
無印のグッズが出る度に真っ先に顔役として出てくるけど、紳士達のボルテージが最も高まるのは別のキャラ――――それが、空樹花音というキャラクターの偽らざる評価である。
だが、今の俺にとって着目するべき点はそこではない。
注目すべきは関係性。
それも、清水凶一郎との関係性についてである。
『ひゃっはぁあああああああああああああっ! オレ様の|精霊術(アストラルスキル)にひれ伏しなぁあああああああぁっ!』
ここに一人の雑魚ボスがいる。
その名は清水凶一郎。
色々な事情がこみ合った結果頭がイカレてしまい、聖女を
重たそうな金属バッドを携えて(ちなみに実際のバトルで凶一郎が放つ攻撃はパンチだけである)、桜花に来たばかりの主人公(なお、主人公は『聖剣』の担い手である)達に襲いかかるどさんぴんチンピラ。
無印聖女に迫る危機、今まで隠していた聖剣の力を解放しようか迷う主人公。
そんな緊迫した展開(なお、ゲーム実況のコメント欄ではここで必ず“やれ、凶一郎、お前ならやれるっ!”といった旨の熱い
主人公達が、光の発生源へと視線を向けるとそこには
『言ったはずです。今の桜花は危険だと』
そうして颯爽と現れた
んで、満を持して仲間入りしたメインヒロインの初バトル……なんだけどさ。
一言で言い表すと、とにかく接待がスゴいのよ。
なんてったって中ボスである凶一郎自身がヒロインを活躍させる為のお膳立てを滅茶苦茶してくれるからね。
まず、初手。凶一郎のターン。
これは前にも説明した通り中ボスとしての凶一郎は行動パターンが決まっていて、一ターン目は必ず相手一人を選んで眠りの状態異常スキルをばら蒔いてくる……のだが、この対象がなぜか必ず主人公に固定されている。
そしてその成功率も驚きの百パーセント。
主人公はあろうことか凶一郎の霊術で深いまどろみの中に閉じ込められてしまうのだ。
パーティーの要であると同時に大切な幼馴染である主人公が敵の術中にハマってしまった事に驚き、眠ショックを受ける聖女(無印)様。
『アーサーッ!』
『大丈夫。ここは私に任せてください』
そんな無印聖女様を落ち着いた声で
『はぁぁああああああああああっ!』
ド派手なエフェクトと共に繰り出される桜色の斬撃。
彼女の通常攻撃は、華やかな見た目通りの高性能で、これまでの戦いを経験してきたプレイヤーが見たこともない程の超ダメージが初手から飛ぶ。
普通に考えればこの時点で凶一郎は即死しているはずなのだが、それを中ボス補正でなんとか耐えて(あるいは耐えさせられて)、二ターン目へと進むチュートリアルの中ボス戦。
『ヒャッハーッ!』
痛々しい咆哮と共に繰り出される凶一郎の二手目。
しかしそこで頭のイカれたモヤシチンピラのとった行動はまさかの防御デバフっ! それも現在進行形でおねんね中の主人公相手にである。
ただでさえ、恐ろしい桜色の化物が自分を切り刻んでいるというのに、繰り出した技が攻撃でも回避でもなく防御デバフッ!
しかも対象は、絶賛無力化の主人公っ!
救えない。何もかもが救えない。そうしている間に再びヒロインの高速桜色斬撃が飛んで来てボコボコにされる
顔だけは舌を出して笑っているが、どうみても重傷だ。誰がどうみてもここで試合終了だ。
『……ひゃっ……はー……』
しかしそれでも諦めない凶一郎。
裏の背景を知っている俺からすればちょっとこの
だけど、そんな裏設定など何も知らないプレイヤー達からすれば、奴はただただ往生際が悪いだけの中ボスさんである。
哀れ、凶一郎。危うし凶一郎。
そんな彼がついに攻撃を始める運命の三ターン目。
『喰らえやっ!』
単体糞雑魚野郎は、桜色の悪魔に蹂躙されながらも、とうとう攻める為の布陣を完成させ、眠り状態かつ防御にデバフがかかった主人公へ向けて反撃のパンチを撃ち込む。
全身全霊。最初で最後のチャンス。この一撃に全てを乗せて…………
『ここは通しませんっ!』
乗せ……て……
【アイギスの盾】――――相手の単体攻撃をこちらにひきつけ、ダメージを大幅に減らす。
乗せ……
『ハッ! 僕は一体!?』
『アーサー! 良かった! お目覚めになられたのですね』
『ごめん、シャネル。心配かけたね。もう大丈夫だよ。空樹さんもありがとう』
『……まだ気を抜いて良い場面ではありません。あの暴徒はまだやる気です』
『分かった。今はまず』
『あの人を静めなければ』
アハッ! もう、どーにでもなーれ☆
手間ひまかけて作り上げた一世一代のアタックチャンスをインチキ防御スキルで防がれたチュートリアルの気持ちが分かりますか?
仮に推奨コマンド無視して【アイギスの盾】使わなくても、到底主人公を沈められるようなダメージじゃないんですよ!
それをさー、大人げなくさー、インチキ防御スキルで弾き返すのは正直どうかと思うんだよね。
なんでフリークエストの中規模ダンジョンでザッハークがやっほーかましてくる糞難易度なのにチュートリアルだけゆるゆるなんだよっ!
もう色んな意味で詐欺じゃんっ! なんだったらこの後のボス戦は、ちゃんと死にゲーだからね!? そりゃあ凶一郎のスペックなんてこんなもんだからある意味リアルだけれども、もうちょっとさーっ! ザッハークの千分の一くらいでいいから無印クオリティのスペックをだなぁ…………っ!
「大丈夫ですか、清水さん? すごい汗ですよ」
◆ダンジョン都市桜花・第三百三十六番ダンジョン『常闇』第九層
そこで俺の意識は現実へと引き戻された。
紫色の岩肌、紫色の空、どこもかしも毒々しい色合いばかりで気味が悪いはずなのに、今では懐かしさすら覚える程に慣れ親しんだ『常闇』の風景。
「……あー、すいません。ちょっと嫌なこと思い出しちゃって」
適当に話を誤魔化しながら、運営スタッフの人に頭を下げる。
いかんいかん。これから大仕事が控えているというのに、この体たらくではよろしくない。
自分の間抜け面に向かって思いっきり両手を打ちつけ、痛みと共に気合を充填させる。
オーケー、もう大丈夫。仕事モードに切り替えよう。
「参加者の到着率はどんなもんです?」
「既に九割方集まっています。平均
時刻は正午過ぎ。
まだガイダンスが始まる一時間前だというのに、転移門前は大盛況だ。
お高い『
……仮に雑魚精霊を寄せ付けない『抗霊結界』を張らなかったとしてもこの面子であれば何の問題もなくやり過ごせたと思うのだが、そこは企業と冒険者組合の絡んだ合同企画なので安全第一という事なのだろう。
実際春先の冒険者試験では、
その時の当事者として、この過剰な安全対策に異を唱える事はできんよ。
『抗霊結界』に霊力識別機能つきの《帰還の指輪》、更には試験会場となる『常闇』の各階層毎に腕利きのスタッフを配置し、万が一の
……まぁ、その万が一なんて起こりようがないんだけれども。
だってねぇ、見てみなさいよ、この顔触れを。
組織のエージェントにラスボス聖女、未来の“龍生九士”にそして
「なぁ、
自作のゴシックベッドに寝そべりながら、赤ワインをがぶ飲みしているブロンド女がそこにいた。
中規模ダンジョンの渓谷で、ベッドに横たわる真神の真祖。
何もかもが場違いだ。
言うまでもなく浮きまくっている。
「そうは言いますけどね
俺は肺奥から沸き上がるどうしようもないため息を全力で抑え込みながらハーロット陛下に応対する。
「元々アンタ、
ハーロット・モナークと神獣の暗殺者“
黒騎士の旦那経由でスカウトしたこの二人に関しては、当初“特別枠”として受け入れるつもりだったのだ。
それをこの御方が『妾も試験浮けたい!』とダダッ子し始めたものだから、仕方なくねじ込んでやったというのに、どうやらもう飽きたらしい。
さすがは真神。やりたい放題である。
「なぁ、退屈しのぎにあの辺の強者どもにちょっかいかけても良いか?」
「ダメですって。アンタが遊びのつもりでも、俺達からしたら
「そんな事はなかろう。ここに集いし精鋭達であれば、存分に妾の
陛下が指し示していったのは予想通りボスキャラ達で――――いや、待て。一人知らない奴が混じっている。
そいつは、黒騎士の旦那を反転させたような出で立ちをしていた。
全身を純白の鎧で包み込んだフルフェイスの騎士。
陛下が小娘と言ったその人物は確かに華奢で、仕草も女性らしかった。
……誰だあれは?
ダンマギシリーズには黒騎士や聖剣の騎士はいても、白騎士なんてキャラはいない。
しかも女性って、ハーロット陛下が目をかける程強いって、そんなネームドクラスにキャラ立ちしている存在を俺が見逃すわけが
『あなたは……』
不意に今朝
いや、あり得ない。
社長室で確認したリストの中に彼女の名前はなかったし、叔母さんがメールで送ってくれた追加募集者のプロフィール欄にも桜髪の少女の姿は見受けられなかった。
空樹花音は、ここにはいない。
それは厳然たる事実であり、揺るがない。
「……………………」
だというのに、なんなんだこの胸騒ぎは。
他にやべぇ奴なんて幾らでもいるというのに、何故だかあの白騎士が気になってしょうがない。
「まさかな」
空気を吸い込み、もやけた思考を吹き飛ばす。
ありもしない妄想にふけるのは止めよう。
今はただ、このイベントの成功だけを考えて行動するべき――――
『清水凶一郎さん、ですよね?』
――――忘れろ、あの時の事は。
『はいっ、もちろん知っています。私あなた達の大ファンで』
メインヒロインが俺の事を知っていたからなんだってんだ。
『あのっ、よろしければサインの方を頂いても……』
忘れろ忘れろいいから忘れろっ! 彼女の事を頭に思い浮かべるなクソッタレッ!
――――――――――――――――――――
・ゴリラのスタンス
ギャルゲーのヒロインに対するスタンスは一章六話から全く変わっておらず、また原作ルートでのあれこれを知っている身として『彼女』に非常に複雑な感情を抱いている。
原作での清水凶一郎というキャラクターは、
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