第九十話 プロローグ2 記者会見と宣戦布告
◆◆◆『
浮かれていたつもりはないし、口を滑らせたわけでもない。
ただ聞かれた事をそのまま答えたら、
後悔は……もちろん、多少はある。
だけど表向き謙虚に振舞おうが、最初からぶっちゃけようが、結局“その時”が来れば彼らとの対立は避けられなくなる。
彼ら。
桜花五大クランと呼ばれる五つの頂点達。
その日、俺はこの街に君臨する二つの頂きに喧嘩を売ったのだ。
◆ダンジョン都市桜花・ホテルサクラ・貸しスペース
「ダンジョンジャーナルの
カーキ色のスーツに身を包んだ理知的な雰囲気の女性が、マイク越しに質問を投げかけてくる。
昨日の今日で始まった新規クラン設営会見という名のメディアお披露目会もいよいよ終わりの時が近づいてきた。
最初はどうなることかと思ったが、会見に駆けつけてくれた各種メディアの方々は皆優しい人達ばかりで(どうやら叔母さんが裏で色々気を回してくれたらしい。感謝)、そういうのに全く耐性のない俺も、なんとかテンぱらずにここまでこなす事ができた。
正面から
……後ろのライトがちょっと強すぎるのはいただけないが、多分記者会見っていうのはこういうものなんだろう。
知らんけど。
しかし、具体的な目標設定ね……一体どこまで話していいものやら。
隣に座る叔母さんにアイサインを送る。
俺の顔はすぐに感情が出ると評判だから、物は試しと『どこまで話していい?』と首を傾げてみたら、叔母さんは右手で小さな丸を作ってくれた。
多分、オッケーという事だろう。
それならば、と決心を固めかけたところで不意に邪神の顔が浮かんだ。
念の為、アイツにも聞いておくか。
俺は《思念共有》の高速思考通信能力を使って、相棒の精霊に意見を仰いだ。
『見てますよ、マスター。中々どうして様になっているではありませんか。おかげで先程からメス猿……失礼、隣の遥が叫び続けていて大層耳ざわりです。あー、
『おっ、おう。それはすまんな』
きっと今頃は我が家のお茶の間で、憧れのアイドルのワンマンコンサートに招待された古のオタクのようなテンションで黄色い声を上げているのではなかろうか。
さておき。
『どこまで話すべきだと思う?』
『隠していてもいずれは露呈する事ですし、何より我々が欲しているのは
『オーケー』
アルからも、ゴーサインが出てしまった以上最早逃げ道はどこにもない。
俺は覚悟を決め、質問をくれた記者さん(とお茶の間の向こうの遥)に笑顔を振りまきながら、今後の展望について語った。
「そうですね、ひとまず来年の三月末……つまり俺が中学を卒業するまでの間に桜花の五大ダンジョンを二つ突破するつもりでいます」
一瞬の静寂の後、爆ぜるようなどよめきが場内に湧きあがった。
……まぁ、だろうよ。
ダンジョン都市と呼ばれる桜花の中でも最高峰と言われている五大ダンジョンをたった半年で二つ踏破なんてビッグマウスにも程がある。
「清水さん、今の話は本当ですか!?」
「五大ダンジョンの二つというのは、一体、どことどこなのでしょう?」
「この件について黒騎士氏はなんと?」
矢継ぎ早に飛び交う質問にあれやこれやと答えながら、俺はこれから待ちうけているであろう様々な困難について思いを巡らせた。
とりあえずここ数日は、呟き投稿サイトのアプリを切っておこうと思う。
◆
「いやー流石はキョウイチロウ! 実に通快かつ見事な
会見終了後、いの一番に俺に連絡を入れてきたのは、彼女でも姉でもなく、イケメン腹黒タヌキだった。
ジェームズ・シラード。
桜花五大クランが一つ“
彼との関係は、……なんて言えばいいんだろう、色々と複雑だ。
すごく親身になって力を貸してくれる事もあれば、上手い事言いくるめられて気がつけば、彼の思い描いた
純粋に頼れる先輩と形容するにはあまりにも危険だし、かといって割り切ったビジネスパートナーと切り捨てられる程冷えた関係でもない。
尊敬しているけどあまり弱みを握られたくない先輩って感じの立ち位置が一番近いかもしれない。
後、顔はちょー好き。
「ありがとうございます、シラードさん。今後も“
「そんなに
上機嫌に含みのある文言をお吐きになる腹黒タヌキ。
彼がここまでニッコニコなのは、俺達の進路が“
五大ダンジョンが一つ『全生母』、生命の神秘と母なる大海が混じり合う
理由? 簡単な話さ。
“全生母”は、ラスボスの発生に関与しないんだよ。
ラスボス、つまり凶一郎闇堕ちの遠因となる存在を何とかしようっていうのが、俺達……いや、
ゲーム知識を総動員し、アルと黒騎士の旦那と何度も情報を擦り合わせた結果浮かび上がった“攻略対象”は二つ。
一つは桜花五大ダンジョンの中でも最大の規模と難易度を誇るダンジョン『世界樹』。
悪妙高き真神『オーディン』が支配するこのダンジョンは、ラスボスの発生と進化に深く関わる場所であると同時に、黒騎士の想い人が眠る地でもある。
こいつの攻略は俺達にとってマストだ。
その為には来年の三月に開催される『
桜花最大クラン筆頭“
『世界樹』を攻略するに辺り、奴らとの正面衝突は避けられないだろう。当然ながら難易度は極高。現時点の俺達では到底かなう相手ではない。
そりゃあメンバーのアベレージでいえば、ウチも全く負けちゃいないが、その他の戦力比は、あちらの方が何枚も上手。
天啓の総数や、純粋な頭数の問題、それに何より無印における二大最強キャラの一角“蓮華開花”が全盛期の状態で君臨しているのが痛すぎる。
奴らを倒す為には、天啓を始めとした強力な装備の確保に、“蓮華開花”とタメを張れるようなぶっ飛んだ人材の登用、そして何より俺達自身のレベルアップが欠かせないだろう。
これら全てを後半年ちょっとの日数でやろうとしているというのだから、我ながら中々どうして
加えて
「しかしキョウイチロウ、まさか君が『覇獣域』に狙いを定めるとはね。知っているとは思うがあそこは――――」
続く言葉は、『覇獣域』を取り巻く“環境”についての警告だった。
『覇獣域』は、獣人族が主体となって運営しているクラン“全道”が実権を握っているダンジョンである。
獣人族は過去の歴史やその血に抱える特異な因子のせいで何かと冷遇されがちな種族だが、ここ桜花においては少しだけ勝手が違う。
“全道”は、五大クランの一角として“
彼らはとても帰属意識が高い。
そして彼らは自分達の置かれている状況に強い不満を抱いている。
そんな彼らが『抗えない狂気』に取り憑かれたらどうなるか――――考えたくもないよな。
発生と進化を担うのが『世界樹』ならば、覚醒と引き金になるのが『覇獣域』並びに獣人族だ。
彼らの強い種族愛と、それを踏みにじる様な人間の悪意、更に色んな不幸なすれ違いや様々な思惑が重なった結果としてラスボスは
だからその発生要因ごと潰そうってのが、今後の俺達の目標ってわけさ。
『世界樹』にしろ『覇獣域』にしろ現段階の戦力では果てしなく遠い頂きだが、それでもこの半年の間に力をつけて、必ず踏破してみせる。
やるったらやる。
姉さんの呪いが解けたとはいえ、俺自身が死んじまったら元も子もない。
俺は生きたい。
だから止まるわけにはいかんのだ。
「忠告ありがとうございます、シラードさん。だけど、俺は、俺達は必ずやり遂げますよ」
「うむっ! その意気や良しっ! 君があの姫様や狂戦士を越える日を心待ちにしているぞっ!」
ハッハッハッと大層上機嫌に笑いながら、とてつもなく荷の重い激を飛ばしやがるイケメン腹黒タヌキ。
まぁ、いいさ。
アンタの期待を上回る速度で結果を出して、必ず五大ダンジョンをクリアーしてやる。
その為には、まず人を集めなければならない。
一にも二にも人材だ。
どれだけ強力な装備や精霊を手に入れても、肝心要の本人のスペックがポンコツでは話にならない(誰の事かって? もちろん、俺の事さギャハハッ!)。
今度『常闇』で開く予定のクランメンバー選抜試験で、スゴい奴らが沢山集まってくれるとありがたいんだが…………恐らく、というか十中八九、そんな簡単にはいかないだろう。
ぶっ飛んだ奴を釣るためには、こちらも相応の餌を用意しなければならない。
幸いこちら側には、ゲーム知識というドでかい
しかし問題は、その餌にどうやって食いつかせるかだ。
たとえどれだけ美味しい餌を置こうとも、そこにあることが分からなければ、誰も食べに来ない。
かといって、上手い餌の宣伝方法なんて俺には分からないし……うーん、どうしよう。
とりあえず叔母さんに相談しつつ、告知用のアナウンスPVにちょっとした仕掛けでも入れてみようかしら。
「欠片の収集宣言、それと
分かる人にだけ分かる単語を呟きながら、今後の作戦を練る。
なんだろう、こんな単語ばっかり散りばめてたら俺が
―――――――――――――――――――――――
おまけ
その頃の清水家
遥さん「キャーッ! キョーサーンッ!! サイコーにカッコいいヨーッ! ワッ↑↓ハーッ↑↑↑! イマぜったいにワタシに微笑みかけたっ! 微笑みかけたよ―っ!」
邪神(五月蠅い)
チビちゃん「うるせぇ」
大天使文香「キョウ君、頑張って下さい(ばりむしゃモグモグ)」
Q:ゴリラはどうやって記者会見を乗り切ったのですか?
A:古今東西のギャルゲーキャラの名台詞をそれっぽく並べて乗り切りました。トレパクゴリラです。
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