第八十五話 幼馴染を寝取られた重装戦士は、新天地に想いを馳せる~今更戻ってこいと言われても、もう遅い! ボクは真の仲間達と共に最高のクランを作ります!4







◆ダンジョン都市桜花・第百十六番ダンジョン『泥岩』シミュレーションバトルルームVIPエリア





「正気かお前」



 俺のナイス提案に褐色イケメンが異論を挟んできやがった。



「争いの優劣で今後の方針を決めるなど、あまりにも野蛮だ」

「しこたまバトルロイヤルで荒稼ぎしてた分際で良く言うぜ。いいですか、黒沢君。我々の界隈は実力主義の競争社会です。より強い者ほど多くを掴み、劣っている者は相応の階層で、あくせくしていく他ありません」



 なぁ、そうだろ円城カイル。


 今のお前さんなら俺の言っていることの意味が分かるはずだ。



「ボクは」



 ゆっくりと、伏した身体を起こしながらモヒカンハーフエルフが意見を述べる。



「ボクはやってもいいよ。より優れた方が今後の方針を握る。ふふっ……いいじゃないか、明快で」

「カイルっ!」

「気安くボクの名を呼ぶな色情魔っ! ボクが勝った暁には、二度とその浮わついた面を見せるなよ!」



 だよな。そうなるよな! やっベー超面白くなってきた。



「俺はお前と争いたくなんてない! 戦う以外の方法で何か解決策を」

「のぼせ上がるな偽善者が! お前がボクをここまで追い詰めたんだ! 今更お行儀良くお話なんてできるかよ、だってボクはお前が大嫌いなんだからっ!」



 思わずスタンディングオベーションを送りたくなるような罵詈雑言。



 しかし、ここまで言われてもまだ黒沢は戦いを避けようとしたので




「明影、この申し出を受けましょう」




 俺はここで蚩尤さんサクラを送り込む事にした。



「たとえあなたに彼を傷つける意志がなかったのだとしても、カイルはあなたに……いいえ、わたくし達に傷つけられたのです。その罪から逃れてはなりません。不本意ではありましょうが、彼が斯様な決着を望むのであれば、我々はこれに応えるべきかと」

紅令くれい



 身内からの指摘を受けた黒沢は、そのイケメンフェイスを綺麗に歪ませながら悩みに悩んだ。



 そして、その末に――――




「……分かった。戦おうカイル。それでお前の気が済むというのなら」



 若干引っかかる物言いではあったけれど、戦いを承諾したのである。






◆仮想空間・ステージ・荒野




 吹きすさぶ風。

 舞い上がる砂塵。

 沈み行く夕陽をバックに両陣営がにらみ合う。



 戦力は互いに五対五



 黒沢陣営は元黒沢パーティ―の三人に加えて、今回の騒動の発端となった彼岸花坂ひがんばなざか幽璃ゆうり虎崎銅羅こざきどうらを加えた五人組。


 両手に花どころか四肢に花という、かつての俺であれば嫉妬に狂ってしまいそうな程うらやまけしからんチームである。



 一方の円城カイル側は、対称的といっても良い程に男臭かった。



 ヘッドのモヒカンハーフエルフの脇を固める三種の禿頭とくとうモンクに、みんな大好き短パン貴族。


 心情的にはこちら側を応援したくてたまらないが、審判を引き受けた以上は公平に審判を下さなければならない。



「ルールを確認するぜ」



 両陣営が相対するエリアの境目にある大岩の上から声をかける。




「勝負は時間無制限のサドンデスマッチ。勝利条件はラストマンスタンディング。MVPもキルスコアも関係なし。最後に生き残った陣営の総取りだ。初期配置は、互いに中央のラインを中心とした半径二百メートル以内の自由位置で、スタートブザーの音を合図に決闘開始……ここまでで何か質問はあるかい?」



 すかさず真木柱が手を挙げた。




「装備についてはどうするつもりだ? 特に天啓レガリアの有無は戦況に大きく関わってくると思うのだが」

「あー、確かに。俺ちゃんとしたことが、うっかりしてたわ、悪い悪い。……どうすっか? 保有数が四対一だと流石に円城側が不利だもんなぁ」



 俺がうんうん、と悩む素振りを見せると、褐色イケメン側から提案があった。



「ならばこちらが数を合わせる。俺達が使う天啓は、<四死心宙アルスター>だけでいい」

「という意見が来ているんだが、円城的にはどう思う?」



 投げかけられた質問に、静かな口調で答えるモヒカンハーフエルフ。



「舐めるなよ明影。お前ごときに情けをかけてもらうほど、ボクは落ちぶれちゃいないんだよ」

「つまり、円城は制限なしのアンリミテッドルールで構わないと?」

「無論だ」



 おぉーっと、沸き上がる野太い歓声。


 モヒカンハーフエルフの男気に、ますらお達はメロメロだ。



「大したもんだ。だけど良いのかい? 後になってからの『ごめん、やっぱなし』は受け付けないぜ」

「漢に二言はない」



 今度は万雷の拍手が鳴り響いた。


 対象が野郎なので欠片も羨ましくはないけれど、こいつはこいつでモテるんだよなぁ。



 ある意味彼らは似た者同士なのだ。

 いや、似て非なる者同士とでもいうべきか。


 男にモテる男と女にモテる男。


 同じ色男でもカラーバリエーションがまるで違う。



「分かった。じゃあ今回はアンリミテッドルールでいこう。黒沢もそれでいいな?」

「カイルがそれを望むのであれば」

「オーケー。ルール成立だ。……とまぁ、こんな感じで細かい設定はみんなの意見を聞いて決めていきたいと思う。少しでも気になることがある奴は、遠慮なんてせずにガンガン突っ込んでくれ」








「大体意見は出揃ったようだな」




 それから十五分後、多少の盛り上りを見せたルール設定タイムも終わり、いよいよ開戦の時が近づいてきた。



「両陣営とも悔いはないか? 見落としているルールの穴をついて相手を陥れるチャンスは今しかないぜ」

「ありがとう。でも、もう十分だよ清水クン」

「こちらも同意見だ」



 両陣営の大将格が言外に早く戦わせろと迫ってきた。



 ったくこの脳筋どもが。すっかり出来上がってやがる。



「へいへい、お熱いこって。なら、そろそろ始めるとしますか」

 


 

 右手を手打ち型に伸ばす。


 ついでに手持無沙汰になった左手を使ってはーたんの頭を撫でてやると、気持ち良さそうにゴロゴロと鳴いてくれた。可愛い。




「んじゃ行くぞ」



 夕日に向かって手を挙げる。



「よーい」



 両陣営に走る緊張。


 かつて俺達を倒す為に結成されたチームの面々が、今度は互いの主張を通す為に争い合うとは、ホント人間ってのは難儀な生き物だよな。




「ドンッ!」




 そうして俺が右手を振り降ろし、黒沢達の内戦が始まった。




「明影ぇぇええええええええええええええっ!」

「カイル―――――――――――――――ッ!」



 叫び合う両陣営の大将。


 戦場に爆発する数多の霊力。



 巌のような男達が己の肉体を鋼に変えて、異性の戦士に襲いかかる。

 対して女の子達はキラキラエフェクト全開で、それぞれ特徴的な必殺技をぶっ放す。



 混沌と化す戦場。

 相容れない者達同士の悲しき戦い。



 その争いが今まさに激化しようとしたその刹那――――





「わはーっ♪」





 突如として舞台上に解き放たれた一人の乱入者の手により、全員漏れなくぶった切られ、内戦は終結した。



 リザルトスコアはジャスト二秒。


 今日も我が麗しの彼女は絶好調である。






◆ダンジョン都市桜花・第百十六番ダンジョン『泥岩』シミュレーションバトルルームVIPエリア






「はいっ、とういうわけで勝ったのは俺達審判チームです。負け犬の皆さんは大人しく言う事を聞くように」



 俺の閉会宣言に遥さんだけが盛大な拍手を送ってくれた。


 他の奴らは冷えっ冷えの視線で俺達を睨みつけるばかり。


 

「何かね君達、文句があれば聞いてやろうではないか」

「文句も何も」



 乗り出してくる褐色イケメン。


 先程の円城から学びを得たのだろう、奴はパーソナルスペースギリギリのところで足を止めて俺に抗弁した。



「なんだあの茶番は。俺達を馬鹿にしているのか」

「バカだとは思っているが、馬鹿になんてしちゃいない。ちゃんとルールにのっとって、正々堂々とお前達をぶった切ったんだ。それを茶番の一言で片付けられちまったら、流石の俺ちゃんも傷つくぜ」



 俺の深い悲哀を察したのか、はーたんがよしよしと背中をさすってくれた。


 あぁ、やっぱり俺の恋人はこいつだけでいい。


 他の奴にこの愛を分け与えるだなんて考えられない。




「ルールに則ってだと? よもやお前の口からその言葉が聞けるとは思わなかったよ」

「おいおい、人を勝手に逸脱者アウトロー扱いしないでくれよ。何度も言うが俺はルールを破ってなんかいない」

「審判側が決闘者を鏖殺おうさつする試合のどこにルールがあるっていうんだ!?」



 珍しく怒気を露わにする褐色イケメン。



 悲壮な覚悟をもって挑んだ仲間との決闘を汚されたとでも思っているのだろう。


 なんだかんだ言って根は真面目なんだよな、お前。



「分かってねぇなァ、槍チ○ちゃんよぉ」



 対して俺は根が不真面目ちゃんなので、どうしても言動がフワフワのわたあめみたいになっちまう。


 軽くて甘くて安っぽい。それが俺という男の本質なのだ。



「審判が決闘者をブチ殺しちゃいけないなんてルール、どこにもなかっただろう」

「そんなものルール以前の」

「いいや、違うね」



 俺はここにいる全員に向けて言い放つ。

 多分みんな思っている事は同じだろうから。



「このゲームの主催者は俺だ。そして審判も俺だ。んでもって慈悲深い俺ちゃんは、少なくない時間をかけて『みんなでルールを作る機会』まで設けた。……なぁ、黒沢。俺、あの時言ったよな“見落としているルールの穴をついて、相手を陥れるチャンスは今しかない”ってさ」




 そう。黒沢達はこの結末を回避することができたのだ。



 ルール設定タイムの時にただ一言『審判の干渉範囲』について触れれば良かったのである。


 もしくは、何故遥が仮想空間についてきたのか……その辺りの意味合いに少しでも思考を巡らせることができれば、このルートは回避できただろう。




「だけどお前らは、それを怠った。自分達の命運がかかっているというのに、テメェの常識に照らし合わせたそれっぽいルール設定で妥協し、主催者の思惑など考えようともしなかったんだ」





 もしもこの場に黒騎士の旦那やシラードさんがいれば、絶対こうはならなかっただろう。


 あの御仁達は、常に想定外の事象を疑ってくるし、何より俺の人となりを信じて疑って絶対になにか仕掛けてくるだろうと警戒する。



 そういったトップランカーならば誰しもが持ち得る底しれない警戒心の強さが、こいつらには致命的に欠けていたのだ。




「アッ君、そんな奴の言う事聞く必要なんてないよ! こいつはそれっぽい理屈を並べてアタシ達を煙にまこうとしているだけなんだっ」



 黒沢ハーレムの一員にして“神々の黄昏ラグナロク”の正式メンバーの一人でもあるひいらぎ昊空そらが、鋭い口調で指摘を入れる。




 その通り。俺が今並べているのは、ガキ相手にしか通じない安物の屁理屈だ。



 正式な書面を交わしたわけでもないので、試合自体をなかったこととして処理する事は十分可能だろう。




 だが



「別に約束を反故にして逃げたいなら勝手にすればいいさ。けど、その時はこいつをネット上にアップさせてもらう」



 ポチりと棒形のリモコンを押す。

 すると操作信号を受信した大型モニターが、とても刺激的な映像を流してくれた。



「これは……っ」

「タイトルは、『【悲報】“神々の黄昏”のホープ達、痴情のもつれで仲間割れした挙げ句、冒険者新人賞最有力候補に処断される【バトルロイヤルに続いて二度目の完敗】』なんてのはどうだい? クランはブチギレ、ネットはお祭り、お前達は揃いも揃って無能の烙印をぺったんこ。いやー、素晴らしい未来だね。他人事だから笑えてしょうがない」



 俺の軽口を聞いて、茶髪のボーイッシュ系美人がサッと青ざめた。



「アッアタシは」

「大丈夫だ、昊空そら。後は俺が何とかするから」



 うろたえる柊をなだめながら、俺を睨みつける褐色イケメン。


 けれどその眼光には、先程までの強い威勢が微塵も感じられない。


 


「どうせ映像データは複製済みなんだろう?」

「もちろん」



 俺と遥のコクーンだけじゃなく、口説き落とした二人の協力者の筺体にも録画データを残してある。



 ここにノコノコとやって来た時点で、お前らの未来は決してたんだよウケケケケ。




 ドンッと、強い力で壁を叩くモヒカンハーフエルフ。



 どうやらショックが強すぎて言葉も出ないらしい。




「なんだい円城。お前さんもなにか言いたい事がある口かい? だったら遠慮なく話してくれよ。そこでセルフ壁ドンかますより、よっぽど有意義だと思うぜ」

「……お気遣いどうも。だけど、ボクはとりあえず君の話を聞く事にするよ、清水クン」



 ものすごい憤怒の熱を放ちながら、芸術的な作り笑いで言葉を返すモヒカンハーフエルフ。



 少しでも自分達の処遇を良くする為に先に折れた――――ってのはちょっと穿ち過ぎか。


 単にこいつの気質がそうさせただけのような気もするし。



「大人な対応痛み入るよ、円城。……んで、もう一方の大将はどうしたい? ゴネたきゃ好きなだけゴネてくれても構わんよ。お望みなら、もう一戦くらい付き合ってやってもいい」



 その時は当然、ウチのエースに暴れてもらうが。




「ズルい奴だな、お前は」



 観念したかのように苦笑する褐色イケメン。


 円城と違って、こちらは己の感情を隠すのがうまい。


 さすがクール系ライバルって感じ。



「話だけは聞いてやるよ。それが俺達にとって受け入れ難いものであれば、当然抗議を入れる」

「それでいいよ。まっ、多分お前さん達は断らないと思うがな」

「その辺も織り込み済みか。……まったく、本当にお前は抜け目がないというか」



 プレイボーイの肩が小さく下がる。



 どうやら抗う気力も尽きたようだ。



「他に反論のあるやつはいないか? ない? ないね。なら改めてこんにちは負け犬の皆さん。ミスター勝者で――――あぁ、ハイハイ前置きはなしの方向で。了解了解。ったくこの時間が一番楽しいってのに。いや、分かった分かったってば。ちゃんと本題に入りますってば」



 負け犬軍団からの熱い抗議により、無駄話を禁じられた俺は、はーたんに「がんばれ、がんばれっ」とヨシヨシされながら今回の事件の解決策を語り始める。




「まっ、ザックリ言うとだな。黒沢、円城」



 渦中のお騒がせ者二人を行儀悪く指差して、一呼吸。



 そして





「お前ら二人でクランを作れ」









◆エピローグ――――数週間後、清水家・客間





「この度は誠にありがとうございました」



 慣れ親しんだウチの客間で、折り目正しい土下座スタイルを決める蚩尤しゆうさん。



 恐らく彼女は心からの感謝を表すべくこうしているのだろうが、名代みょうだいとしてやって来た彼女に土下座をさせたなんてバレたら(いや、向こうが勝手にやってるだけなんだけど)黒沢達にドヤされてしまう。




「いや蚩尤しゆうさん。そんなかしこまらなくていいから。ていうかお願いだからやめてっ」



 半ば懇願こんがんに近い形で彼女の土下座をやめさせて、どうにか対等な目線で話すところまで落ち着けた。



 やはり女子との一対一タイマンは慣れない。

 どうしても緊張しちゃうし、アドリブのキレも悪くなってしまう。

 

 あれだけ可愛い彼女と毎日イチャイチャしているというのにこの体たらく。

 どうやら俺の魂は、骨の髄まで童貞らしい。



「それで? 黒沢達はどうしてる?」

とどこおりなく――――と言うにはいささか口論の数が過ぎますが、おおむね上手くやっております」



 氷入りの麦茶にそっと口をつけながら安堵の表情を浮かべる蚩尤しゆうさん。




「それもこれも、全ては清水さんのお陰です。あなたのご助力がなければ、今頃わたくし達は冒険者稼業をやめていたやもしれません」



 蚩尤しゆうさんの感謝の言葉に対し「そんなことないですよぉ」等とほざき散らかす事などできなかった。



 実際俺ちゃん超頑張ったし、何ならいらないヘイトまで買いまくったし。

 クソ、蚩尤しゆうさん以外の黒沢ハーレムが俺を見つめる目の冷たさよ。今思い出しても背筋が凍るわ。




「しかし初めて清水さんの策を聞いた時は驚きました。まさか仲違いしていたあの二人に、共同のクランを作らせるだなんて」

「あくまで“神々の黄昏”の下部団体って形だがな」



 

 一口にクランといっても色々な形がある。


 五大クランのような完全攻略特化型の一次団体もいれば、その補佐や下請けとして働く二次団体、あるいは専門分野に特化したスペシャリストやシンクタンク的立ち位置の集団まで、その在り方は多種多様かつ千差万別……とまぁここまでゴチャゴチャと解説してきたが、要するにクランってやつは企業っぽい組織なにかなのだ。



 競争があって、縄張りがあって、上下関係があって、取引がある。


 冒険者稼業というのは兎角とかく自由で風通しの良いイメージが持たれがちだが、実態は割とガッチガチなのよ(それでも最終的には強い者が偉い世界なので、やっぱり上は個人主義なのだが)。



 んで、なんで俺が黒沢達にクランを作らせたのかというと理由は大きく分けて二つある。



 一つは、黒沢に落し前をつけさせる為。

 たとえ女の子側が独断で決めたことだとしても、大手クランのメンバーが他の大手に移ってしまう(それも有望な若手が二人もだ)ってのは体裁が悪い。


 しかもあのお股ゆる男は、彼女達と寝ちゃったからね。

 余所様のクランの女と寝て、その女が自分達のところに入りたいなど抜かし始めれば、“神々の黄昏”のイメージに傷がつく。



 とはいえ黒沢が優秀な人材である事もまた事実。



 逃すには惜しいし、かといってお咎めなしというのも気が引ける。



 だから表向きの懲罰として追放させ、実態は下部団体という形で今まで通り(まぁ、それでも色々と縛りがつくが)“神々の黄昏”の下っ端稼業を続けられる道を、俺は奴らに示したのだ。



 それに二次団体だったら、代表の裁量権内で好きな人材を傍に置けるしね。



 女の子達は元より、円城をヘッドと慕うあの愛すべきバカ野郎達も大手を振ってモヒカンハーフエルフと冒険ができるたった一つの冴えたやり方。



 自画自賛するわけじゃないが、我ながらそれなりの結末を用意できたんじゃないかと思う(欲をいえば、黒沢が俺の預かり知らない所で女の子達から総スカン喰らって「ざまぁWW」ってなれば最高に気持ち良かったんだだけど、まぁそれはそれだ。あいつらが今後、クラン運営という名の社会の荒波にもまれて死ぬほど疲弊していくのを見降ろしながら、チビチビと留飲を下げるとしよう)。





 んでもって二つ目の理由は――――




「いや、どう考えても今のあいつらが一緒のパーティ―でやってくのは無理でしょ」




 円城カイルと黒沢明影。


 男にモテる漢と女の子に愛されるイケメン。


 どちらも人を惹きつけるカリスマ性を持ちながら、その方向性が全く違う。


 おまけに――――



「アンタを目の前にしてこんな事を言うのは少し気が引けるんだが、やっぱりパーティ―内での三角関係ってのは不健全だよ」



 たとえ万に一つも勝ち目がなかったとしても円城は蚩尤しゆうさんを愛し続けるだろうし、どれだけハーレムメンバーが増えようとも、黒沢は蚩尤しゆうさんを離さない。



「仮に今回の一件がなかったとしても、お前さん達はいつかこうなってたと思うぜ」

「……はい。わたくしもそう思います」



 唇をキュッと結びながら小さく頷く蚩尤しゆうさん。


 

 

 愛してくれた男は亭主関白モヒカンハーフエルフで、愛した男は他の女をすぐに作るハーレム野郎。



 報われないってのはちょっと語弊があるかもしれないけど、なんというか……ねぇ。



「まぁ、なんだ。先方も女の子達の移籍を許してくれたみたいだし、形はどうあれ円城も残ってくれたんだ」



 だからここから先はアンタ達次第だよ、蚩尤しゆうさん。



 こじれた関係を元に戻すのは、並大抵のことじゃないが、アンタ達が頑張れば、きっと……




「このご恩は、蚩尤しゆうの名に賭けて生涯忘れません。もし、清水さんがお困りの際には必ずや馳せ参じますので、どうかこのわたくしめをお呼びくださいませ」



 折り目正しく礼を決めながら、そんなことを仰る蚩尤しゆうさん。



 大袈裟だなぁとは思いつつも、悪い気はしない。




「ありがとう、蚩尤しゆうさん。何か困ったことがあったら、アンタ達に頼らせてもらうよ」

「どんな些細なことでも構いません。家事が面倒な時や、遊ぶ為のお金が入り用になった時、あるいは……その、清水さんが望むのであれば夜の方も」

「……んっ?」


 

 雲行きが、怪しくなってきたぞ?




「ハハッ、冗談がうまいなぁ蚩尤しゆうさん。でもあんまりそういうことは言わない方が良いぜ? 男ってのは馬鹿な生き物だからよぉ、言われたことを直ぐに真に受けちまうんだ」

「……ませぬ」

「えっ?」



 ひたり、と俺の凶悪面に蚩尤しゆうさんの綺麗な手が触れた。



「真に受けてくれて、構いませぬ」



 ほんのりと桜色に染まった頬、牝を帯びた熱い眼差し。



 あっ、これヤバい。



 ウチの彼女がベッドの中で見せる表情にそっくりだ。




「わたくし気づいたのです。優しいだけの殿方よりも、知恵と弁論を巧みに操り、時には自ら泥を被ってでも事態を解決へと導く殿方の方が魅力的であるという事に」

蚩尤しゆうさん?」

「いえ、その明影が嫌いになったわけではないのですよ。彼はわたくしにとって、今でも大切な人ですし、今後も大切な仲間として支えていきたいと思っております。ただ、その……なんといいますか、わたくしの“とれんど”がシュッとしている細まっちょな殿方から、もっとがちむちまっちょな殿方へと変遷したと言いますか」

蚩尤しゆうさん!?」

「あっ、ご心配なさらずとも、蒼乃さんとの仲を引き裂くつもりは毛頭ございません。わたくしのことは側室……いえ、都合の良い性欲解消機能付きのえーてぃーえむとでも思っていただければ――――」




 寄せられるお胸、迫る唇。


 それらのどぎつい誘惑を、はーたんへの愛と鍛え上げた筋肉をフル稼働させることでなんとか抑え込みながら、俺はある一つの推論にたどり着いた。



 もしかしたら、黒沢や円城がダメ男になった原因って――――




「本当にわたくしは都合の良い女で構わないのです。たまにお側で甘えさせて下されば、それだけで生きていけますゆえ」

「いいわけあるかっ!」

 


 こいつらのおもりなんて、二度とごめんだぜ。







―――――――――――――――――――――――



( *・ω・)ノ……



 以下、今回のまとめ話





・黒沢明影



 今回の事件における表の元凶。

 いきすぎた『紳士性やさしさ』により、多くのものを失った。



 本来は争いを好まない性格であり、みんな仲良くをモットーに掲げている彼が多くの野郎に憎まれながら、最大の敵対者となってしまった元パーティメンバーと終わらない運営会議レスバトルをしなければならないのはそれなりに地獄であり、また、これまでは何かと相談に乗ってくれた“神々の黄昏”のお偉方も「勉強してこい」と言って放任ポイしているのでストレスがマッハ。



 女の子達は、黒沢を巡って正妻戦争を起こし、男にはクソ野郎としてディスられまくるという彼の理想とは程遠い阿修羅な世界に迷い込んでしまった哀れなお人。なんか最近抜け毛もヤバいし、凶さんの預かり知らぬところでかなり可哀想な事になっている。


 ここから先、一皮むけて真の紳士となるか、ただのストレスハゲになるかは彼次第である。



・円城カイル



 糞長いタイトルをもらった割にはそんなに活躍させてもらえなかったモヒカンハーフエルフ。当初はもっと彼の心情マシマシだったが、あまりに気持ち悪かったのでバッサリ割愛された悲劇の人。


 いきすぎた『男らしさ』により、かつて大切な人を失い、そして今本当に気の合う仲間と巡り合えた良いんだか悪いんだかよく分からない精神的マッチョ。


 

 今まで抑えていた我の強さが今回の一件で爆発し、周囲を引っ張っていく胆力と、ともすれば傲慢とも捉えられかねないリーダーシップが開花。


 本人的には今でもナイト気取りでいるが、クランの女性陣からは「色々と履き違えた勘違い正義マン」として煙たがられている。


 ただ、自分につき従うものに対しては本当に優しく頼りになる兄貴分なので、野郎達からは慕われている。


 あの日以来、黒沢とは毎日喧嘩が絶えないが、そんな日々を彼は心の底では少しだけ楽しんでいる。


 そして(彼の主観では)自分達を救ってくれた清水凶一郎を、目標にすべき真の益荒男ますらおと認め、人知れず惚れこんだ。




ひいらぎ昊空そら



 黒沢パーティ―メインの話であるにもかかわらず、唯一出番のなかった空気オブ空気。


 この作品二大空気要素である“異界不可侵の法則バリアルール”、《遅延術式》に並ぶ空気っぷりを発揮した事から、今回めでたく三大空気の一角入りを果たした。




( *・ω・)ノ……





以下、真のネタバレ&後日談












蚩尤しゆう紅令くれい



 今シリーズにおける真の元凶にして、ぶっちぎりの邪悪。


 自覚なく男を狂わせ腐らせる真正の傾国あくじょ


 断わっておくが、彼女自身に悪意はない。


 彼女の愛は本物であり、常に愛した男を褒め称え、かしづき、どこまでも都合の良い女として振舞うのである。


 しかし彼女の愛は、際限のない全肯定で満ちており、一度ときめいた『輝き』を徹底的に愛でては腐らせる。



 被害者は主に黒沢と


 そう、かつては円城もまた彼女に愛されていたのだ。


 前話で彼女が語っていた話の半分は嘘。


 彼女は一時、確かに彼の『男らしさ』を愛していて、だからこそ「ありがとう」と言ったのである。


 その『男らしさ』を行きすぎた域まで腐らせて、そしてその恋心が別の男へと移った瞬間、彼女の中で「男らしい円城に惚れていた」という記憶はなかったことにされたのだ。(つまり円城の語る「寝取られた」という妄言は、のである。(実際は、寝取られたというよりも鞍替えされたというべきだろうが))





 そして卓越した『紳士性やさしさ』を持つ黒沢は、その『輝き』を際限なく伸ばされた結果、『女に言い寄られたら、断る事のできないハーレム野郎』へと腐敗せいちょうした。



 円城カイルと黒沢明影。

 彼らが至らない人間である事は無論彼ら自身の責任であり、その業は彼らが背負うべき咎である。



 しかし、そんな彼らを作り上げたのは彼女であり、愛したのも彼女なのだ。


恐るべきはその依存性とキープ力。


子供の頃の約束とはいえ、将来を誓い合ったはずの円城カイルをバッサリ捨てておきながら、今回の一件に至るまで延々とキープし続けた(なお、本人に自覚はない)その籠絡スキルは、最早魔性の域。



本来、これだけのビ●チっぷりを働けば、刺されてもおかしくはないのだが、彼女を心底から愛していたモヒカンエルフは、あろうことかそれに耐え、幼い頃の「わたくしを守ってくださいね」という約束を愚直に守り続けていた。




ここまでの事をやっておきながら、本人は一途のつもりでいるのだから最早救いようがない。




 そして、そんな彼女の毒牙が、また新たな男に向けられようとしていた。



 『小賢しさ』だけが取り柄の男に惚れこんだ彼女は、どこまでも都合の良い女として振舞い、愛そう腐らせようと迫る。





 だが…………





「うーん……。それはちょっと、あんまりじゃない?」






・蒼乃遥




 ここに最強にして絶対無敵のまもり手がいた。



 ねてより蚩尤しゆう紅令くれいに嫌な予感を抱いていた遥さんは、それでも愛する男を信じ、傍観ぼうかんを選択。


 そしてその信頼アイに百パーセントの誠実さで応えるべく、ゴリラはメスブタに迫られた事を速攻でチクり、事件が発覚。



 今回の一件で、誰よりも心を折り、そして傷ついた彼を更なる泥沼トラブルへと引きずりこもうとした蚩尤しゆう紅令くれいに対し、遥さんは、静かに、けれども果てしない程ブチギレた。



「辛かったね、怖かったね。でも、もう大丈夫だよ」



 最愛の彼を、傷つけられた想い人を優しく介抱しながら、天元の剣術使いは静かな決意を固める。



「……これはちょっと、おしおきが必要だね」






――――好感度数値 -4444京。許容値限界突破。悪性敵対者メスブタ認定、完了。




 その後、遥さんが勘違いしたメスブタを二万回にも及ぶ模擬戦せっとくで徹底的に分からせ、二度と彼にちょっかいをかけないようにと優しくさとすのだが、それはまた別の話。



そしてこの一件が、黒沢と円城にバレて、メスブタがかなり気まずい立場に陥るのもまた別の話。



 メスブタの敗因はただ一つ。


 あまりにも相手正妻つよすぎたのである。





・ゴリラ



 最大の功労者にして被害者。間違いなくMVP

 メスブタの仕打ちには、結構割とマジで応えたが、遥さんの献身的な介抱おっぱいのおかげで回復した。



ちなみに槍◯ンとモヒカンハーフエルフにそれぞれ別のクランを作らせなかったのは、当然嫌がらせの側面も多分にあるが、片方だけでは“神々の黄昏”の下部団体として認められない可能性があった為。


真相はどうあれ、仲違いをした二人が和解し、再び一つのチームとしてまとまったという表向きのカバーストーリーが必要だったのだ。



これは“神々の黄昏”が裏で描いていたグランドデザインと完全に一致しており、彼らのなかで清水凶一郎という男の評価が爆上がりすることとなる。





・“神々の黄昏”


今回の一件で、我らがゴリラの評価がドチャ糞上がった。これが後に、思わぬ形で“烏合の王冠”への追い風となるのだが、それはまた、別の機会に。




次回、第一部ラストエピソード、お楽しみにっ














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