チュートリアルが始まる前に~ボスキャラ達を破滅させない為に俺ができる幾つかの事
第八十四話 幼馴染を寝取られた重装戦士は、新天地に想いを馳せる~今更戻ってこいと言われても、もう遅い! ボクは真の仲間達と共に最高のクランを作ります!3
第八十四話 幼馴染を寝取られた重装戦士は、新天地に想いを馳せる~今更戻ってこいと言われても、もう遅い! ボクは真の仲間達と共に最高のクランを作ります!3
◆炭火焼ハンバーグレストラン『すこやか』
「ダメ男に引っかかったダメ女はまだこない?」
お店の人が目の前で切り分けてくれた鉄板焼きハンバーグを、いつもの無表情フェイスで
「間違っても
「そのくらいのじょーしきは、ワタシもわきまえてる。だから今の内に吐き出してみた」
もぐもぐと、肉厚なハンバーグを咀嚼しながらお行儀悪く会話を行うチビちゃん。
今更ながらにこの人選で良かったのかとざわめく脳内を、無理やりチキンステーキの旨味で黙らせながら、俺は待ち人を待った。
十二時五十分。ピークタイム只中の店内で、忙しなく動き回る店員達。
料理して、サーブして、おまけに鉄板焼きハンバーグを切り分けて……ほんと、ここの店の人達は良く働くなぁと思う。
桜花にしか店舗を展開していないにも関わらず、他の都市からこぞってお客さんがやって来る気持ちも良く分かる。
味だけじゃなく、店員の心遣いまで美味いのだこの店は。
そんな風にのほほんと店の居心地を楽しんでいると、入口から
サングラスを外し、控えめに手を振る。
俺達の姿を確認した
「あっ、どうもこんにちは。清水凶一郎で」
「この度は、ウチのメンバーが多大なるご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
開口一番、渾身の
震える声、泣き疲れたの跡が残るまなじり、絹糸のような黒髪も良く見ればところどころ痛んでいる。
……こりゃあ、相当参ってるな。
「あーっと、ひとまずそこにおかけ下さい。大丈夫、悪いようにはしませんから、ね」
今にも崩れ落ちそうな
「とりあえず何か頼みましょう。腹が減っていては良い話もできません」
「しかし」
「いいから。俺の顔を立てると思って、ね」
「でも」
思わず漏れるため息。
ったく、このままじゃ埒が明かない。
だったら――――
「その感じ、アンタしばらく何にも食ってねぇだろ」
サングラスをかけ直しながら、少しだけ乱語気を強める。
「……はい」
「ここ数日の過労とそれに伴う心労のダブルパンチが祟ってそうなってるんだろうけど、ハッキリ言って相当失礼だぜ、アンタ」
「えっ……?」
思わぬところから飛んできた火の粉に驚いたのか、整った紅の瞳を丸める
あぁ、罪悪感が暴れ出す。
こりゃあ家に帰ったら一人反省会だな。
「呼び出しておいてこんな難癖つけたかないんだけどさ、まともに話し合いもできないようなコンディションで会合に臨むってのは、私はあなたを舐めてますって表明しているようにしか見えないんだが……そこんとこどうよ、
「……っ、申し訳ありません! 直ちに改めますので、どうかわたくしめにそこのメニューをお見せ下さい」
青ざめた顔で渡されたメニューを覗きこむ和装女学生。
ページをめくる手が小刻みに震えていて、大変痛々しい。
悪いな、
だけど今回のキーパーソンであるアンタがそのザマだと話にならないんだよ。
◆
「先程は取り乱してしまい申し訳ありませんでした」
ステーキセットとカレードリアを平らげ、ついでに食後のイチゴパフェまで平らげた
「キョウイチロウ、この人良く食べ――――」
「いえいえ、こちらこそ先程は語気を荒げてしまい申し訳ありませんでした」
余計なことをチビちゃんが言いだすよりも先に、大きな声で謝りの言葉を入れる。
「改めまして自己紹介させていただきます。清水凶一郎と申します。普段はしがない冒険者などをやらせて頂いております。今回は黒沢さんのご依頼により、円城カイルさんとの間にできた溝を埋めるお仕事をさせて頂く運びとなりました。若輩者の身ではありますが、みなさんのお力になれるよう精いっぱい努めますので、
そんでもってこちらが、とユピテルの紹介に移ろうとしたタイミングで
「あの、清水さん。無理をなさらなくて結構ですよ。わたくしには話しやすい語調でお話し下さいませ」
……あっ、
わっかりました了解デース。堪らなくやるせない気持ちでいっぱいですが、タメ口モードでいかせていただきやーす。
「で、こっちがウチのパーティメンバーの清水ユピテル。今日は付添人として来てもらった。ほら、このご時世に同世代の男女が二人っきりで食事ってのは色々とまずいだろ」
今の俺達は何かと目立つ身の上だ。
二人っきりでこそこそと話している所を週刊誌に取られて――――なんて展開は絶対に避けたいところだし、何よりそんなことになれば黒沢達のパーティは本当に終わってしまう。
だからこうして
ウチのチビちゃんが隣にいるだけで、そういう雰囲気は大分緩和されるからな。
雇い料として諭吉が数枚ぬかれたことにさえ目を
「これが、パパ活……!」
違うから、お願いだから変な方面に目覚めないで。
「清水さんは、本当にお優しい方なんですね」
「あっ、いや、そんなことねーですよ。さっきもあんなに失礼な態度を取っちまいましたし――――なんか、本当にすいません」
照れる俺に
「いえ、アレは完全にわたくしの不作法でした。脳に栄養の行き届いていない状態で善き話し合いができるはずがないというのに。己の未熟を恥じるばかりです」
ここで「いやいや、そんなそんな。
伊達にはーたんと毎日イチャコラしてないのだよ。
今の俺は、ちょびっとだけ女心が読めるのだ。
まぁ、あくまでちょびっとだけなので、さっきのようにすぐ地がでてしまうんだけれども。
「
「お気遣いありがとうございます。ですが今のわたくしの辞書に“えぬじー”はございません。どのような質問であろうと誠心誠意答えさせて頂きます」
互いに礼を交わし、対談スタート。
まず切り出すべきは、やはりあの話題についてだろう。
「率直に尋ねたい。円城カイルがアンタに抱いている想いについて心当たりはあるか?」
「異性として愛されている、という答えで合っていますでしょうか」
語り口こそ曖昧ではあったものの、その文言からは強い確信の音色が感じられた。
「知ってたんだな」
「幼い頃に彼からプロポーズを受けましたから」
脳裏に浮かぶダンマギのワンシーン。
メロディアスなBGMに
そこで幼いカイル少年が在りし日の
“
「それでアンタは、了承したのかい?」
「いえ。ただ、ありがとうとだけ伝えて有耶無耶に……」
「しっかりしてたんだな。ガキの頃のプロポーズなんて、つい受けちまいそうなもんなのに」
「両親の教育の
とても柔らかい表現で包まれているが、つまり円城カイルは
「タイプじゃなかったってことで
突然ブッ込んで来たチビちゃんの
「えぇ、有り体に言えばそうです。わたくしはどうしてもカイルをそのような対象として見ることができなかった」
……なんだろう。他人事のはずなのに、すっげー胸が痛い。
報われない片思いってのはどうしてこんなに切ないんだろうか。
「誤解して欲しくはないのですが、カイルはとても魅力的な人です。勇気があり、責任感も強く、容姿もとても優れている」
「でもアンタの好みではなかった」
「はい。どうしても受けつけられなかったのです。あの人の考え方が……」
彼女曰く、円城カイルという男は、亭主関白然とした考え方を良しとするタイプの人間なのだそうだ。
男が稼ぎ、女が家庭を守る。
直接的な明言こそなかったものの、彼の言動の端々には「ボクがか弱い君を守ってあげる」という傲慢性が常に滲み出ていたのだという。
「あの人に悪気がないことは分かっておりました。彼は心の底からわたくしを案じ、守りたかったのでしょう」
けれどその優しさが幼い
「わたくしの薙刀や霊術を馬鹿にされた気がしたのです。お前は戦わなくていいんだと笑顔で言える彼の独善的な考え方が嫌だったのです」
強い者が弱い者を守る。
お前は弱くて、俺は強い。
だから、助ける。
この論理を、誰もが認めるはるか格上なスーパーヒーロー様が使う分にはまだいいんだが
「必死に武術を磨いてきたアンタからすれば、たまったもんじゃねぇよな」
「はい」
仲のいい幼馴染二人が夢見たものは、同じ冒険者。
けれど二人のライフプランは決定的にズレていて、それが円城の恋路に歯止めをかけたのだ。
最愛の人を守りたいナイトと、己の力を認めて欲しかった女武者。
噛み合わねぇもんだな、本当に。
「それでも、いずれは彼の想いを受け入れられるようになりたいと考えていた時期もありました」
彼女も円城のことが嫌いなわけではなかったのだ。
一途に自分のことを愛してくれる幼馴染。
少しでも運命の歯車がズレていれば、彼と結ばれる未来もあったのかもしれない。
しかし。けれども。残念ながら。その時は永遠に来なかったのだ。
あの褐色イケメンが、
「初めて明影の姿を見た時、すぐに分かったんです。あぁ、この人が私の運命のお相手だったんだなって」
そこからしばらくの間、
黒沢が主人公の無双ラブコメなんて、耳が腐るだけだっての。ペッペッ。
「要するに」
このままでは
「黒沢はアンタにとって理想の男だったってわけだ」
「はい。彼以上の殿方はこの世にいないと自負しております」
その一言を聞いたユピテルがそっと俺に視線を向けた。
「ハルカみたいなこと言ってる」
「オーケー。お口にチャックしようか、おチビちゃん」
なんてわんぱくガールなんだ。
隙あらば、すかさずブッ込んで来る。
「すいません、悪気はないんです」
「いえ、ユピテルさんの言う通りだと思います。わたくしの
「アンタだけの責任じゃないさ。
嘘です。一番悪いのはどう考えてもあの褐色ヤリ○ンです。他に大差をつけての単独トップでございます。
「なぁ、
「理想を言えばまた以前のような活動ができれば、と思っております」
「現実的な妥協点としては?」
しばしの沈黙の後、
「明影と共に冒険者を続けられるならば、それで」
◆
「オンナはこわい」
「たとえ下半身がサルのようなうわき野郎でも愛していれば傍にいたがる一方で、興味がないオトコはようしゃなく切り捨てる」
「主語がデカすぎるぜユピテルさんよ、世の中の女性が全員
「つまり総じて人間はクソ?」
主語が更に大きくなりやがった。
「その辺は
と言いかけた所で慌てて言葉を止めた。
あぶねぇ、あぶねぇ。
あと少しでとんでもない言葉の汚物を爆誕させるところだった。
「
強引に話を切りかえる。
「
一途でなくても、幼馴染でなくても、どれだけ周囲に迷惑をかけたとしても、
残酷な話だが、こればかりは仕方がない。
だって人間は、正しさや合理性で恋をしているわけじゃないのだから……あっ、ごめん。訂正。今のはさすがに格好つけすぎたわ。なしなしなしなし。
「まぁそのおかげで今後の進行が大分やりやすくなったわけだしさ、俺ちゃん的にはこれで大満足ですよ」
円城じゃなくて、黒沢を選んでくれて本当にありがとう。
おかげでパズルのピースが完全に揃いました。
「毎度毎度よくもそれだけ悪知恵が働く」
「みんなの為に進んで汚れ役を買ってるだけさ。高尚なる自己犠牲精神ってやつ?」
「くせぇ、くせぇ、しゃらくせぇ」
ブンブンとツインテールを振りまわしながら、己の気持ちを表現する我らがチビちゃん。
その様子がとてもコミカルだったものだから、俺はスマホのカメラで撮影し姉さん達に送ってやった。
◆ダンジョン都市桜花・第百十六番ダンジョン『泥岩』シミュレーションバトルルームVIPエリア
「どういうことか説明してくれるかな、清水クン」
明くる日、俺は『泥岩』のVIPエリアでモヒカンハーフエルフに詰められていた。
いや、円城だけじゃない。
この場所に呼び寄せられた奴らの大半が、俺を怪訝そうな目つきで見ている。
「なぜ、ここに明影とその仲間達が来ているんだ。ボクは」
「
その一言を聞くや否や円城の顔がトマトのように真っ赤に染まり、今にも掴みかかりそうな勢いで俺のパーソナルスペースを侵略した。
だが――――
「ごめんねぇ、円城さん。この人あたしの彼氏なんだぁ」
言葉が告げられるよりも早く、円城の大柄な身体が吹き飛ばされる。
多分、合気道的なサムシングであしらったのだろうが、彼女の動きがあまりにも速すぎて、誰も事の詳細を把握することはできなかった。
もちろん、俺もその一人である。
「ありがとう、遥。おかげで怖い思いをせずにすんだ」
「安心して、凶さん。君のことはあたしが絶対に守るから」
世界一美しい笑顔を浮かべながら、この上なく頼もしいことを言ってくれるマイスイートハート。
やべぇ、超嬉しい。強い彼女に守られてるこの安心感よ。
屈辱? 冒険者としての意地? そんなもんこの身体に転生した時点で捨てたわゲッゲッゲッ。
「おい清水、俺の仲間にあまり手荒な真似は」
「どの口でほざいてんだクソ槍チ○。元はといえば、てめぇのせいでここまでこじれたんだろうが」
勇ましく入って来た褐色野郎の口はロジハラで封殺。
いいねぇ、この場を支配している感じ。脳から変な汁がドパドパ
「とりあえぜ先に結論から言うぜ。今回の一件、傍から見ている分にはどっちもクソだ。後先考えず黒沢に
どいつもこいつも性欲とコンプレックスを爆発させやがって。
お前らの青春ごっこの尻拭いをさせられている周りの気持ちを考えやがれってんだ馬鹿が。
「そんなどうしようもないお前らが、大人な議論ができると思いますか? 仲良くおててつないで心の底から和解することができますか?」
「ちゃんと心を込めて話し合えば」
「はいっ、黒沢君ゼロてーん。惨めな敗者の気持ちを全く考えられないモテ男君は、黙っててくださーい」
それを聞いた黒沢ハーレムの面々が一斉に怒りだした。
しかし、遥さんが笑顔で
どうだいウチの可愛い彼女さんは。
ドラゴンを切り伏せるだけのことはあるだろう?
「いいですか、お前らみたいな性欲チンパンジーが学級会のノリで解決できる程この事件は甘くないんです。たとえ口先だけ取りつくろって『ごめんなさい』しても、いずれまたおんなじことを繰り返すだけです」
そしてその“また”を本編が始まった後に起こされたらたまったもんじゃない。
どいつもこいつも闇堕ちしてーの同士討ちしーのなんて見たかねぇんだよ俺ちゃんは。
「だから不肖この清水凶一郎考えました。一体どうすれば、お前らに後腐れなく折り合いをつけさせられるのかと」
「清水、お前まさか」
察しがついたようだな槍○ン野郎。
俺はサングラスの奥で優しく微笑みかけながら、奥のコクーンを指した。
「もうさ、一回派手にやり合おうぜ? そんで勝った方の陣営が今後の行く末を決める。これが一番手っとり早くて楽チンだろ、なっ?」
―――――――――――――――――――――――
Q:黒沢は、どうしてこんな窮地に陥っているんですか?
A:要因は複数あります。
①“神々の黄昏”でも無視できないレベルのクランに所属する女の子を(真実がどうあれ)誘惑して引き抜こうとした疑いがあるから。
②その女の子達が“神々の黄昏”が求める水準に微妙に達していない上に「彼と出会って真の愛を見つけた」等とほざき散らかし、噂に信憑性が出てしまったから。
③これまでも“神々の黄昏”内で、何人もの先輩女冒険者が黒沢に惚れ込み、その数だけ男冒険者がBSSを発生させていた為、組織内での(特に男連中の)評判が最悪だったから。
④その挙げ句、ホープフルカップで凶一郎達に惨敗し、あまつさえそこで知り合った女の子達とねんごろになり、今回の事件に発展させたから。
⑤黒沢パーティーの二番手である円城の離脱。ハーレムを管理できなかった監督責任。
⑥そもそも、他クランの女をベッドでヘッドハンティングとかスポンサー受け最悪だから。
(;・ω・)…………
まぁ、法律的には何にも悪いことしてないのと、黒沢ハーレムはなんだかんだいってみんな幸せなので(優秀なオスがハーレム囲うのはむしろ皇国的には推奨されている行為ですし)、そこだけは救いですね。
ちなみに、もしも押しかけた女の子達がシラードさんクラスの達人であれば、黒沢はむしろクランから評価されていました(まぁ、丸っきりお咎めなしとはいかなかったでしょうけど)。
良くも悪くも“神々の黄昏”とは、そういうクランです。
次回、解決編! お楽しみにっ!
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