エピローグ Crow Crown








◆清水家・凶一郎の部屋






 暖かな夏の日差しにつられて目を覚ますと、そこには当然のように遥さんが横たわっていた。


 シルクのネグリジェに身を包んだその姿は、大変扇情的エッチであり、ついつい視線が良からぬ方へと行ってしまう。



 というかぶっちゃけ、つま先から髪の毛の一本に至るまで全部が愛おしくって仕方がない。



 なんだこのパーフェクトルッキングガールは。


 寝息まで可愛いとか、さすがにあざとすぎてキスしたくなってくる。



「あっ、凶さんだぁ」



 しかし、俺の欲求が臨界点に達するよりも早く彼女が目覚め、そして極々自然に唇を奪われてしまった。



「おはよう、あたしのねぼすけさん」



 数分のイチャイチャを経てかわされた朝の挨拶に、得も言えぬ嬉しさがこみ上げてくる。





「おはよう、遥。……俺、どれくらい寝てた?」

「大体一日半ってとこ。一応、大事をとってお医者様に来てもらったけど、特に問題はないってさ」

「そりゃあ良かった」



 傷や腫れも引いてるし、机の上に置いてある万能快癒薬エリクサーも姉さんに使った分量以上の消費はされていない。



 これは百点満点といっても差支えないだろう。



「……そんなことより、なんであたしがここにいるのか気にならない?」



 少しだけ悪戯っぽく微笑みながら、恒星系が問いかけてくる。



 確かに普通に考えれば、少々おかしな話である。


 ここは借り家ではなく清水家で、しかも俺の部屋だ。



 きっと一昨日までの俺だったら、激しく狼狽してた事だろう。



「決まってんだろ」



 だけど今は違う。



 だってこの至高の少女は、



「お前さんは俺の彼女だ。だから俺のベッドで一緒に寝ていても、何もおかしくはないさ。……えっと、これで合ってる?」

「やんっ、せいかい!」



 正解のご褒美にまた唇を奪われた。

 おまけに二つの柔らかいものが俺の身体をふにふにと包み込み、それはもう桃源郷という他なく――――



「このまま朝ごはんができるまで、ずっとイチャイチャしてよーね」




 それから約一時間、俺達はタガが外れたように求め合った。


 きっと防具コンドームを持っていたら、最後まで致してたんじゃないかってくらい、そりゃあ激しくバカップルさせて頂きましたよ、えぇ。









 朝の二人っきりタイムを終えて、居間に降りてみると、そこにはホテルバイキングと見紛う程の大量の朝食が並んでいた。



 鮭の切り身やほうれん草のおひたしといった和の定番から、目玉焼きやウインナーといった洋風たんぱく質の数々、それにカレーにパスタにドリアまで……。



 ウチの朝ごはんはいつだって豪勢だが、今日は輪をかけてすごい。


 快気祝い? いや、俺が降りてきたのはついさっきのことだ。


 とてもじゃないが、このクオリティのモーニングを作る時間などなかったはず。


 一体何の為にこんな手の込んだモノを……。





「おはようございます、キョウ君。お加減の方はいかがですか?」



 思考の渦を回しかけていた俺の脳に柔らかな声音が響く。


 振り返るとそこには、我らが大天使文香お姉さまがエプロン姿で立っておられた。


 足取りも軽く、顔色も良好。


 すっかりいつもの姉さんである。


 どうやら万能快癒薬エリクサーは、ちゃんと効いているらしい。



 姉さんを蝕んでいた最悪の呪いは、最早見る影もない。



 良かった、と心の中で小さくため息を漏らす。


 これならもう、安心だろう。



 姉さんは今度こそ本当に、自由になったのだ。




「おはよう、姉さん。うん、もう全然元気。やっぱ疲れた時は寝るに限るね」



 おかげで肩とかバキバキだけど、なんだか妙に心地が良い。


 こんなに寝覚めの良い朝は、こっちに来てから初めてかもしれない。



「それよりも、今日はいつにも増して朝食が……スゴイね。……なんかあった?」

「それはもちろん、遥ちゃんがいるからですよ。人数が増えたら、食べるご飯も増えますからね。だからちょっとだけ大目に作ってあるんです」




 ? コレが?




 四人分が五人分になったくらいでこんな…………いや、待て。そういえば、俺とユピテル以外の三人って――――









「「「いただきます」」」




 そして俺の前で、大怪獣バトルが勃発した。



 桜花三大大食い娘達による普通の朝ごはんエキシビジョンマッチは、熾烈ながらも絢爛としていて、見ている分にはとても楽しかった。




「せいちょうきって怖いね」

「お前さんは、あんな風になってくれるなよユピテル」


 

 もそもそと、二人並んでトーストをかじる。

 姉さんや遥には悪いが、ご飯時はウチのチビちゃんと並んで食べるのが一番落ち着く。


 あぁ、人間とご飯食べてるなって気がして、落ち着くんだ。



「そういえばキョウイチロウ、ニュースみた?」

「ニュース?」



 こっくりとユピテルの首が縦に揺れる。



「その様子だと何も知らないみたいだね」

「えっ? あぁ、さっき起きたばっかでさ。スマホをいじる暇もなかったんだよ」



 本当は遥と存分に彼氏彼女イチャイチャしていたのだが、そんな赤裸々なことまでお子様に話すのはどうかと思い咄嗟とっさに嘘をつく。




「けっこうスゴいことになってるよ、ワタシ達」



 そう言って、ユピテルはおもむろにテレビのリモコンを手に取った。







『歴史的快挙。スーパールーキー、エビルドラゴンを討伐』



『新たな英雄の誕生。エクストラリミテッドロールを手に入れた少女の素顔に迫る』



『本人証言! スーパールーキーパーティーの清水凶一郎さんと蒼乃遥さんの熱愛発覚』



『柊探索卿も思わずニッコリ。“いやー、最近の若者はスゴいね。まだデビューしたばっかなんでしょ、彼ら。我々おじさん世代も頑張らないといけないなぁ”』




『八天に昇格した黒騎士、今後の展望を語る。“近い内にクランを興します。……いえ、クランマスターは私ではありません。清水凶一郎氏が就任する予定です”』








 ……………………は?





「なぁ、ユピテル」

「ん?」

「これ、お前が仕掛けたイタズラなんだろ。だってテレ皇が日曜アニメを延期して特番組むとか、……そんなのあり得ない」

「残念ながら、現実」



 ポン、と肩を叩きながらチビちゃんが大手呟き投稿サイトを見せてくれた。




「くたばれゴリラ、百年に一人の美少女を射止めたエクストラリミテッドゴリラ、日曜ゴリラ特番…………ねぇ、このゴリラってさ」

「よかったな、全国区ゴリラ。トレンド独占してるぞ」



 

 何もよくはない。何一つとしてよくはない。

 俺が一日ちょっと寝てる間に、変わりすぎだろ、世界。







「すまないな、リーダー。だが、クラン設立を謳うのならば、このタイミングがベストだと思ってね」



 電話越しに聞こえてくる黒騎士の激渋ボイス。



 あー、やっぱりこの声聞いてると落ち着く。もう、大人の色気ムンムンって感じで俺の乙女心がキュンキュンしちゃう!


 ……って、そうじゃなくて



「いや、クラン設立の話をしてくれた事自体は、すっごいありがたいんだけどさ、その、良いのかい旦那? アンタのパートナーが俺達みたいな若年組で」




 旦那程の御仁であれば、“神々の黄昏ラグナロク”だろうが他の五大クランだろうがどこへだっていける。



「あぁ。お前達が良い。お前達にならば、私の背中を預けられる」




 だというのに、彼は俺達を選んでくれた。

 戦闘能力や設立メンバー入りすることで得られる立場、あるいは俺のゲーム知識を勘案かんあんした上での総合評価なのだろうが、それでもあの黒騎士が俺達を仲間として認めてくれたのだ。


 


「ありがとう、旦那。アンタのかけてくれた期待に応えられるよう、精いっぱい頑張らさせて頂きます」

「フッ、そうかしこまらなくていい。我々の長がいつまでも平身低頭では、格好がつかん」

「まぁ、その辺はおいおい――――あっ」



 そこで俺はふと気づいた。


 誰ともつるまず、伝説の傭兵として名を馳せてきた旦那が初めて拠点ホームクランを持つんだ。

 ってことは……。



「孤高の黒騎士は、もう卒業だな」

「あぁ、そうだな。その通り名は近く死語となるだろう。これからは――――ふむ。なぁ、リーダー、我々のクラン名は既に決めてあるのかね?」

「いや、まだ何にも」


 

 最後に決めれば良いやと思って、残してある。


 正直、ネーミングセンスには自信がないので、そういうのが得意な人に任せたいのだが



「名は組織の顔だ。我々の活動に見合うものを期待しているぞ」

「ハハッ、責任重大だなぁ」 

 


 等と笑ってはいたが、この時俺の胃腸は「そんなのムリムリ耐えらんないよー」と悲鳴を上げていた。



 クラン名か。……どうしよ。




「参考までに聞きたいんだけど、旦那だったらどんな名前にする?」

「そうだな」



 僅かな思案を経て黒騎士が告げたその名前は



「†滅神暗黒騎士団†というのは、どうだろうか」



 なんというか、とても思春期だった。







 とりあえず居間で寛いでいたウチの子達にも尋ねてみる。



 あなたなら、どんなクラン名をつけますか?




「凶一郎と遥のワクワクカップルクラブ!」

「FIRE目指し隊」




 想定していたよりも数倍ひどい答えが返ってきた。



 前者は個人の名前が全面に出ちゃってて、なんか痛いカップルチャンネルみたいになってるし、後者に至っては、ただの願望だ。



 しかも二人ともほんのりドヤ顔である。



 その自信は、一体どこから湧き出てくるのだろうか。




「ありがとう。二人とも。とってもさんこうになったよ」



 心の中のモヤモヤを押し殺して、ニッコリスマイル。



 これはもう、いよいよ俺が頑張らなきゃいけないのかもしれない。






「――――凶さんは、相変わらず嘘がつけないねぇ」

「目は口ほどにもない」

「ユピちゃん。それを言うなら“目は口ほどにものを言う”、だよ?」

「……そういう捉え方もある」






◆再び凶一郎の部屋




 貯まりに貯まったメールやら電話やらを、スマホとパソコンとタブレットをフル活用しながら処理していく。

 その片手間で何か良いクラン名はないものかとあれやこれやと考えてみたが、さっぱり思い浮かばない。


 黒騎士の旦那の言う通り、名前ってのは組織の顔だ。


 だから、出来る限り良い名前をつけてやりたいんだけど、考えれば考える程深みにはまってしまって息苦しさだけが募っていく。

 


 まるであの時のようだな、とふと思う。



 異世界に転移してきた始まりの日、姉さんにかけられた呪いを解く方法を必死になって模索してさ。


 それで、ようやくひねりだした結論が――――




「失礼します」




 ノックもせずに部屋に入ってきた白い少女を見やる。



 あぁ、そうだ。


 俺達の物語は、こいつと出会う所から始まったんだ。




「どうした? 俺に何か用事でも……ってお前」



 驚くべき事に、アルは食べ物を口にしていなかった。



 いつもなにか食べているこの暴食ガールが、まさかの手ぶら。



「おい、アル。お前一体どうしちまったんだよ。……もしかして、どっか悪いのか? だとしたら、早急に対策を――――」

「失礼な。私だって食事を摂らない時ぐらいあります」



 その台詞も大概トチ狂ってはいたけれど、ともあれモノを食っていないアルさんが激レアであることは間違いない。


 思わず俺がスマホのカメラで写そうとすると、邪神は気前よく能面ダブルピースを決めてくれた。


 この裏ボス、中々どうしてノリがいい。



「私なりのケジメというやつですよ。今回は色々とやり過ぎましたから」

「……………………」


 

 やり過ぎたという言葉の中に、一体どれだけのものが含まれているのかは正直分からない。



 断言できるのは姉さんにかけられた封印を解いたあの一件だけだ。


 未来視なんかは十中八九こいつの仕業だと俺は睨んでいるんだけど、問い詰める為の決め手にかけるし、他の件に関してはこいつが関与しているかどうかさえあやふやだ。



 もしかしたら、こいつは俺の知らない所で何かとんでもない事を企んでいたのかもしれない。



 ここ最近俺の周りで起きたいくつかの変化に関わる重要な秘密を握っているのかもしれない。


 だけど全てはやぶの中だ。


 だって、素直に問いかけたところで、この秘密主義者のひねくれ者が。素直に答えるはずがないのだから。



「その色々について詳しく聞きたいんだが」

「それは言いません。私の胸の保管庫に厳重なロックをかけてしまっておきます」

「……だろうよ」



 こいつは、こういう奴だ。今更驚きもしないし、怒りも湧かない。



 だから俺が抱いたのは、純粋な疑問だけだった。




「えっ? じゃあ、お前一体何しに来たの?」

「こんなに反省していますというアピールを見せに参りました。要するに自己満足です」

「……………………」



 流石すぎて開いた口が塞がらない。



 自分が気持ち良くなるためだけに謝る奴ってのは、どこのコミュニティにも往々としているが、それをここまで明け透けに言えるのは、この女くらいのものである。



「そうかい。うわー、すごーい。感動した。お前の誠意の深さに涙が止まらねぇよ。なんて良くできた精霊なんだ。契約者として鼻が高いぜパチパチパチパチ…………こんなもんで良いか」

「誠意が足りません。もっと遥に接する時のように優しさと熱情を込めてください」



 図々しいにも程があるぜ。

 なんで最愛の彼女と、最悪の邪神を同列に扱わねばならんのだ。



「悪いけど、俺の股間を蹴り上げるような女に優しくする趣味はないんだ。その辺を改めるところから――――」

「仕方がありません。とても残念ですが諦めましょう」



 即答だった。

 簡単に折れやがった。

 やはりこの女は邪神である。

 最悪という他ない。



「悪いんだけど、満足したんなら出てってくれよ。今結構立て込んでるんだわ」

「何か困り事ですか?」

「…………」



 どうしよう、相談してみるか?



 茶化される可能性も多分にあるが、こいつの技名って結構マトモなんだよな。



 少なくとも、凶一郎と遥のワクワクカップルクラブよりかは良い案がもらえる気がする。




「クラン名を考えてるんだよ」



 結局俺は正直に話すことにした。

 藁にもすがる思いというやつである。


 まぁ、変なのが来たら却下すればいいだけだし聞くだけ聞いてみるかくらいの感覚で問うてみたのだが――――




「ではまず、マスターの理想とするクランのコンセプトデザインを教えて下さい」



 想像の斜め上をいく真面目な答えが返ってきた。



「コンセプトデザイン……すまん、アル。漠然としすぎてて良く分からん」

「難しく考えなくていいんです。クランの共通目的、あるいは掲げる主義や理念を言葉にしてみてください」

「うーん」



 そう言われても、そんなものはないというのが本音だった。


 目的といっても全員バラバラだし、特に御大層な主義主張があるわけでもない。




 クランを作る理由は、言ってしまえば戦力の拡充の為であり、それ以上でもそれ以下でもないのだ。



 ただ、あえて挙げるとするならば




「ボスキャラをさ、集めたいと思ってるんだ」

「ほう」



 ボスキャラ。

 主人公達と敵対する宿命を負った悪しき難関達。


 例えば剣獄羅刹、例えば瞋恚の黒雷、例えば孤高の黒騎士――――彼らは皆、精霊大戦ダンジョンマギアという物語における敵だった。


 そしてゲームのボスキャラは、たとえ強くても、どれだけ魅力的であっても倒される運命さだめにある。



 そりゃそうさ。倒すことのできないボスキャラのいるゲームなんてクソゲー以外の何物でもないからな。



 適正レベル、何らかの弱点、大技の後の隙、回復アイテムや復活系スキルの存在にあつらえたような特攻装備ピンポイントメタの数々。

 そういった倒す為の救済措置は必ず用意されているし、今の時代ならチョロっとネットをいじるだけでそれらの情報がタダで簡単に手に入る。



 悪い事じゃない。むしろ、とても健全で極めてゲーム的だ。



 主人公がいて、敵がいて、その敵には、必ずつけいる隙ってやつが用意されている。


 それはシナリオ上でも同様だ。


 ボスキャラってのは、往々にしてどこかが歪んでいたり、極端な奴が多い。


 ものすごく乱暴に言うと、何かが間違っているキャラクターなのさ。




 だって、そうだろ?


 主人公達よりも言っている事もやっている事も正しかったら、もうお前が主人公やればいいじゃんさって話になる。



 主人公と敵対するキャラクターっていうのは、完全に主人公を上回っちゃ駄目なんだよ。


 言っている事は正しくてもやっている事が極端だとか、一見良い事やっている風に見せかけて、実は滅茶苦茶悪い事を企んでいるだとか、そういうマイナス点をつけてやんないと物語が成立しなくなっちまうからな。



 だからボスキャラは間違わなくちゃいけないし、倒されなければならないし、劣っていなければならない。





 だけど。



「だったら、ボスキャラにならなきゃ良くね、って思うワケよ」

「また元も子もないことを」



 そう、元を断てばいいのだ。



 間違わなくちゃいけない要因を排除し、世界の敵が世界と戦わなくても済むような居場所を提供するクラン。


 そんな組織に育てばいいなと、俺は考えている。



「まぁ、聞けよ。何も誰かれ構わず助けたいと言っているわけじゃないんだ。既に堕ちきっている奴にまで手を差し伸べてたら、こっちが破滅しちまうからな。人も選ぶし、無理もしない。俺の手に収まる範囲内の理想論で済ますつもりだよ」



 それにこの企ては、世の中の為、つまりみんな大好き「善き事」でもあるんだ。



「世界の敵から敵対理由を奪っちまえば、そいつが世界と戦う必要もなくなる。そうすれば、みんなが得するじゃんいか」

「こちらは強力な戦力を得ることが叶い、主人公様達の負担も減る、そして当のボスキャラは世界の敵という宿業から解放される。――――ふむ。いい着眼点だとは思います」



 けれど、と釘を刺すかのような声音でアルが言う。




「そのようにして集めたボスキャラ達が、果たして一つの組織に収まるでしょうか。主義や主張もバラバラな世界の敵予備軍をまとめるようなカリスマ性が、マスターに備わっているとは到底思えません。たとえ優れた逸材を集めたとしても、それを指揮する者がボンクラでは烏合の集団になってしまいます」

「……いや、烏合の衆でいいんだよ」




 俺達が作ろうとしているのは冒険者クランである。

 国を興そうとしているわけでも、組織立った軍隊を立ち上げるわけでもないのだ。

 


「そりゃあ最低限のルールや規律は設けるつもりだし、俺も限界まで組織作りに努めようとは思う」




 だけど俺のクランに所属するメンバーに掲げて欲しいのは、立派で煌びやかな錦の旗なんかじゃなくて、もっとこう、なんて言えばいいのかな。



「要するにマスターは、個人が主体的に活動できる組織を作りたいと、そういうことですね」

「そうそう。自分の都合の為に気軽に利用できる寄り合い? 組合? とにかく、自分てめぇを大事にできるクランに育てばいいなって」



 

 人種とか、種族とか、思想とか、趣味とか嗜好とか、そんなものに縛られる事なく、所属するメンバーが当たり前に自分の都合を優先できる組織。



 王様なんていなくていいし、信仰や忠誠も必要ない。



 掲げるべき王冠は、各々の内にあればそれでいいのだから――――




「あっ」



 脳髄に電流が走る。


 それはまるで、天啓のように急に降りてきた。



 うん、これはいい。これなら――――




 白紙だったメモ帳にスラスラと並べられていく文字の羅列。


 書けば書く程にこれ以外の名前はないという想いが強まっていく。




「――――烏合の王冠Crow Crown、成る程。いい名前じゃないですか」




 そうして出来あがった俺達の名前を見て、時の女神はほんの少しだけ微笑んだのだった。






―――――――――――――――――――――――




 第三章 了

 サブクエスト3に続く 

 











 











 

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