第六十九話 常闇の邪龍と烏合の王冠2










◆ダンジョン都市桜花・第三百三十六番ダンジョン『常闇』最終層・邪龍王域




 肌にまとわりつく不快な霊力。むせ返るようよな空気の匂い。

 舌がざらつき、霊覚が警報を鳴らす。



 最早この世界に安息はない。

 

 常闇の最終ボス“邪龍”アジ・ダハーカ。


 奴の御前で気など抜こうものなら死亡フラグが立つ暇もない程のスピードでこの世を卒業することになるだろう。




「行くぞ遥。ドラゴン狩りの幕開けじゃ」



 空元気をブレンドした気勢を張り上げながら、大剣形態のエッケザックスを構える。


 刃を闇天に向けて手は高く。これは攻めではなく守りを重視した型だ。



 まずは様子を見ながら、足腰へのダメージを狙う。


 怪獣映画の主役級のタッパを持った相手に正面突破はあまりにも無謀だからな。

 俺達地上組は堅実に「崩し」から入らせてもらうよ。



「……って遥さん、聞いてます?」



 いつまで経っても返事が来ないので、バックステップで後退しながら恒星系の横顔を覗く。



 視界に映った遥のかんばせは相も変わらず美しく、そしてなぜだか若干放心していた。

 


「おい遥。なにボケッと突っ立ってんだ。もう戦いはとっくに」

「……いや、凶さんアレみてよ」



 躊躇いがちに天を指す恒星系。


 そこにあるのは闇に覆われた大気と煌めく星々、つまりは普通の夜空である。



 ……普通の夜空? 

 いや、待て。おかしい。おかしすぎる。 

 この常闇の世界に星なんて小洒落たものがあってたまるか。



 であれば空に輝く無数の煌めきの正体はなんだ?



 外周を覆う紫光柱か? 違う。

 現在進行形で天を疾駆している旦那達の馬車か? 違う。



 光る柱は外側から動くことはないし、旦那の馬車であるとするならば、あまりにも数が多すぎる。


 決戦場めがけて飛んでくる数多の煌めき達。その正体とは即ち――――




「……隕石だ」



 驚異度A+ 【天災カラミティ



 天より無数の隕石を降ろし、戦場全体に壊滅的な打撃を与える広域殲滅スキルである。



 その数、その規模、その威力、どれを取っても初手でぶっ放していい類の技ではない。



 初手隕石落下メテオドライブとか犯罪ム―ヴにも程があるだろうが!



 ていうか、邪龍はいつこんな大規模術式を唱えたんだ? 


 始まってからこの方、それらしい素振りは一切見受けられなかったはずだが



「多分、出てきた時の叫び声だよ。あれが隕石を降らせるための呼び水だったんだ」

「んなアホな」


 だって奴が叫んだのは決戦フェイズ以降のアナウンスが流れる前の事だぞ。



 そんな防ぎようのない騙し討ち――――いや、落ち着け凶一郎。これはゲームじゃないんだ。命を賭けた戦いで、ヨーイドンの合図を待つ馬鹿がどこにいる?



 本質を見誤るな。

 これはインチキでもなんでもない。

 ただ敵の方が覚悟がキマッていたというだけの話。



 ならば……。



「まぁこうして唱えられちゃった以上は、受け入れて対処していく他ないよ。……それで? 一体凶さんはこっからどうするつもりなのかにゃ?」

「どうするもこうするもないさ」



 高揚する気持ちをため息と共に流し、冷えた喉元から指示を飛ばす。



「予定通りいく。奴の先制パンチには多少面食らったが、スキル自体は旦那のリーク通りだ。だったら何の問題もない。俺達は俺達に課せられた役割を果たすだけだ」

「そうこなくっちゃ!」 



 わはーっと満足げに目尻を下げながら、パパッと六本の『蒼窮』を宙に展開する遥さん。



「行こう凶一郎! 最高のワクワクを求めて!」

「あぁ、望むところだ!」



 そうして俺達は笑いながらすみれ色の地面を蹴りあげた。



 本日の天気は闇天、ところに隕石。


 絶好のドラゴン狩り日和となるでしょう。




「ヒャッハァー!」

 


 空が焦げる。

 邪龍が吠える。

 だから何だと馬鹿達が笑う。



 あぁ、最高だよ。地獄みたいな状況のはずなのに、なぜだか楽しくて仕方がない。



『それがワクワク魂ってやつだよ、凶さん』



 空気ではなく、霊力を媒介として発せられた遥の言葉が俺の霊覚を刺激する。

 


『どんなに苦しくて辛い時でもね、そこにワクワクを見出だすことさえできれば人はハッピーになれるの』

『それは俗にいう“狂ってる”って状態なのでは?』

『あはっ』



 なにをいまさらと微笑みながら、夜のとばりを駆け抜ける恒星系。


 宙を舞う彼女の愛刀達が鶴翼かくよくの陣を取り、数十メートル先の邪龍目がけて羽ばたこうとしたその時――――




 轟ッ。


 天より出づる破壊の流星に漆黒の雷が喰らいつく。


 向こうが大量広域先制MAP攻撃で来るというのならこちらもその流儀に合わせるまでだ。


 メラメラと燃え盛る巨大な隕石群を、渦を巻いた黒雷の奔流ほんりゅうが呑みこんでいく様は、まさに終末の日ドゥームズデイ



 眩しくて、うるさくて、そして何より最高にロックである。




『さっすがユピちゃん。絶好調だね』

『あいつもいい加減人間離れしてるよな』



 降り注ぐ隕石の全てをマルチタスクで処理できる術師なんて世界広しと言えどそうはいないだろう。



 加えて今のユピテルは、弱点であるフィジカル面の問題を気に留める必要がない。


 黒騎士の旦那が保有する七つの天啓レガリアが一つ、<歪み泣くコシュタ夜闇の教誨者バワー>。



 その能力は知っての通り、空を飛ぶ首なし馬車の召喚だ。


 頑強な上に超高速で移動できる飛行マウントと、石破天驚せきはてんきょうのMAP兵器系ガール。


 この二つが組み合わさったらそりゃあもう、無敵ですよ。


 シナジーの高さが半端じゃない。空を超高速で移動するMAP兵器とか敵からしたら悪夢でしかないだろう。



 ……だが、同情はしないぜアジ・ダハーカ。


 恨みもつらみも因縁もないが、お前を越えなきゃ万能快癒薬エリクサーが手に入らない。



 だから倒す。ゆえに殺す。



 正義の為でもなく、理想の為でもなく、俺の我欲の為に死んでくれ。




『仕掛けるぞ遥。まずは右脚の親指部分から伐採していく』

『あの斬り応えのありそうな親指さんねー。まっかせて』



 霊覚を介してコンタクトを取り合いながら、俺達は走る速度を更に上げた。



 紅い熱を帯びた隕石と螺旋状に旋回する黒雷の砲撃を背景に、地上のありんこは巨躯の邪龍目がけてひたすら進む。



 前へ、前へ、とにかく前へ。



 奴の巨体は長所であると同時に付け入る隙でもある。

 ゲーム風に言うならば、体力HP防御力DEFが高い代わりに敏捷性AGIを捨てているようなステータスなのだ。


 更にいえばアジ・ダハーカの骨格は直立二足歩行の哺乳類ベース。

 懐深くに潜り込んで右脚の重心を崩してやれば、戦況を大きく動かすことが叶うだろう



 ――――だが。




「「「■■■■■■■■――――!」」」



 そうは問屋が卸さない。

 大した奴だ。これだけの体格差がありながら、おごる素振りがまるでない。


 呼吸。混成。放出。


 三つのアクションを数秒の内に済ませた三つ首の邪龍の口から、迎撃の闇炎が解き放たれる。




 驚異度B 【昏黒の禍炎エクリプス



 闇属性のボスご用達の汎用ブレス攻撃だ。


 純粋に火力のみを追求したタイプのスキルで、威力の高さ以外に特筆すべき点は特にない。



 その威力にしても上級ボスの専用技に比べたら見劣りする程度の倍率なので、回復や耐性に気をつけてさえいれば問題ない――――というのがこのスキルに対する向こうの世界の評価だったのだが、はっきり言って過小評価もはなはだしい。



 だってそれは、




 三つの頭を持つアジ・ダハーカが一斉にブレスを放てば、その威力は三倍以上に跳ね上がる。



 龍種はただでさえステータスお化けだというのに、アジ・ダハーカは三つ首なのだ。



 そんな奴が放つブレス攻撃が脅威でないはずがない。


 悠長ゆうちょうに味方の回復なんて待っていたら、癒される前にバーベキューになって終いだろう。



 だからこいつは対策必須の大技で――――




『遥』

『んい!』



 ゆえに対策を取っていた俺達が勝つのは必然だった。



 鶴翼形態から三手に分かれ、各々おのおの炎を破断していく蒼穹のコピー達。



 

 蒼穹の持つ霊体並びにエネルギー体への干渉&特攻能力と、加護の力すら完コピする『布都御魂フツノミタマ』の刀剣複製能力が織りなすスーパー犯罪コンボは、邪龍のブレスすらねじ伏せる。



 闇の炎を切り裂く六花の剣。


 それはまさに神話の世界の具現だった。


 絢爛かつ苛烈で、そしてなにより幻想的。



 天では隕石と雷が戦争を、大地では闇の炎と剣の嵐が激突を。



 龍と人が紡ぐ最新の神話は、戦場に破壊と混沌を撒き散らしながら次の段階へと進んでいく。




『目標確認。近接戦闘に入るぞ』

『了解!』



 瞬間、アジ・ダハーカの腰回りが横向きに揺れた。




 炎の襲撃を抜け、邪龍の懐へと至らんと前進する俺達に対して奴が繰り出す次の一手は、十中八九物理攻撃だろう。

 あるいは翼を広げて逃げ出すというパターンも考えられるが、それを加味したとしても取り得るパターンはおよそ四つ。




 ①翼を広げて空へと逃げる。

 ②龍の膂力りょりょくと屈強な手爪を駆使した斬撃攻撃

 ③恵まれた体躯を活かした踏みつけ

 


 そして――――




『! 側面警戒! 対回転攻撃用の迎撃フォーメーションに移行する』

『分かった! それじゃあ頼むよ、凶さん!』




 うなずきの代わりにエッケザックスのブレード部分を天に構えることで、コミュニケーションの成立を示す。



 アジ・ダハーカは尋常ならざる巨体の持ち主であると同時に、骨格が直立二足歩行型の哺乳類ベースである。



 直立二足歩行型の利点は、頭を安全に支えられる事と腕を自由に使える事。


 有翼の邪龍が我々と同じような器用性を獲得してるだなんて、普通に考えて現実逃避したくなるレベルの厄介案件である。


 しかし物事は往々にして短所と長所が表裏一体。


 人間のように器用な立ち回りができるということは、裏を返せば非常に挙動が読みやすいということだ。



 腕部からの攻撃ならば、腰に斜めの回転がかかる。

 思いっきり踏みつけるつもりならば一度腰を上げなければならないし、飛行アクションを取るつもりならば必ず羽ばたく為の予備動作が必要になるだろう。



 だが、アジ・ダハーカの腰が動いた先は横。

 縦や斜めではなく、下半身全体を駆使した横ベクトルの旋回動作。



 であれば、答えは明白だ。



 邪龍の次の一手は、その長い尾を用いた回転攻撃。

 

 

 甲殻と鱗に覆われた紫黒の身体が鳴動する。



 驚異度A 【螺旋龍尾】




 大地が揺れたのかと誤認するほどの衝撃と共に繰り出される尾っぽの回転攻撃は、ありとあらゆる生命を蹂躙する大量破壊兵器に他ならない。



 まともに食らえばミンチになるのは当たり前。

 回避しようにも技の射程範囲が広すぎて安全域まで逃げ切れない。



 唯一の抜け道は――――



「せーのっ!」



 大地を削りながら迫り来る紫黒の龍尾の接近を確認した俺は、ブレードを水平に構えたエッケザックスを力の限り振り上げた。



 刹那、剣の腹に人間一人分の重みが加わり、そしてすぐさま元に戻る。



「かんっぺき!」


 

 恒星系のご機嫌ボイスがはるか上空から聞こえてくる。



 どうやら無事に跳べたらしい。

 平面がダメならZ軸方向に跳べばいいじゃない作戦は無事成功。



 これで遥が尻尾攻撃に巻き込まれる心配はなくなった。

 


 代わりに腕や首を用いたカウンターの目が出てきたが、大丈夫、問題ないさ。



 だってこの距離ならば、俺が尻尾攻撃に巻き込まれる可能性の方がはるかに高い。



 そして首尾よく激突することが叶えば、事態は必ず好転する。



 だから、さぁ凶一郎。ここが最初の踏ん張りどころだ。




「ふっ――――」



 迫り来る死の予兆。


 地面を抉り空気を裂きながら、紫黒の龍尾が眼前の景色を破滅色に染め上げる。


 瀬戸際ギリギリだな、まったく。


 ここでしくじれば、何もかもがお陀仏だ。



「――――!」



 だというのに、心はやけに落ち着いていた。


 やるべき事をやるだけだ――――心の中の俺は凪のように穏やかな声で指示を送り、それを身体が迅速かつ的確にこなしていく。




 まずは霊力を込めた右腕で、エッケザックスの変形機能を起動。


 使用する着脱式戦闘論理カートリッジは大盾。時間が惜しいので霊力を用いた瞬間換装で形状を整える。



 そうして出来あがった巨大な円を地面に降ろして、前方に構えたら大方の準備は完了だ。



 後は待つだけ――――いや、どうもその必要はないらしい。



 五感どころか第六感までも震わせる桁はずれの存在感。



 頂点捕食者の尾は、矮小な人間の抵抗など意にも介さず進撃を続け




『マスター、今です』


 


 その驕りゆえに真っ二つに千切れ飛んだ。




 【四次元防御】



 自身の肉体の時を停める事であらゆるダメージを無効化する絶対防御スキル。



 この術は使い手側の都合ぽんこつにより、使用中は一切動けなくなるという致命的なデメリットがある。



 何も効かない代わりに、何もできない。


 一度使えば最後、解除するまで物言わぬ地蔵と化す防御性極振りスキル――――それが凶一郎版の【四次元防御】なのだ。



 

 しかし物事には往々おうおうにして抜け道というがあるものだ。



 動けず、喋れず、ただそこにあるだけの地蔵でも、ちょっと工夫をこらせばご覧の通り。



「「「■■■■■■■■■■■■――――!?」」」




 見事邪龍の尻尾を両断できるのでございます。





 術を解除し、色彩に満ちた世界へ戻ると、そこには叫喚きょうかんする邪龍の姿があった。



 泣き叫んでいるというよりも、ただただ納得できない理不尽に怒り狂っているといった感じ。



 そりゃあ、納得できないよな。


 わずわしい害虫を排除するべく自慢の尻尾を振るったら、逆に返り討ちにあうだなんて。



 気持ちは分かるぜアジ・ダハーカさんよ。


 もしも俺が逆の立場だったら、間違いなく「なにこのクソゲー、頭おかしいだろ!」と声高にわめき散らしてたと思うもの。



 でも、悪いな。

 こいつは明らかにお前さんの過失だよ。

 自分でまいた種ってやつさ。


 責任転嫁? 開き直り? 違う違う。


 俺は特別な事など何一つしちゃいない。


 ただ単に、道にそびえる壁として敵の進行方向に立っていただけである。



 だだ、この壁は世界一の硬さをウリにしている特注品でね。



 たとえ対消滅の閃光だろうが神威級の発狂砲撃だろうが傷一つ負わずに受け止めるし、どれだけ優れた刀剣に斬られようとも一方的に打ち負かすことができるインチキ仕様なのさ。



 そんな別次元の硬さを誇る強固な壁に、生身の肉体がぶつかればどうなると思う?



 答えは目の前の光景を見れば瞭然りょうぜんだ。


 紫色の不健康な血を滝のように流し、グロテスクな断面を無防備にさらす尻尾だったもの。



 おうおう傑作だねぇ。


 こりゃあ見事に抉れてやがる。


 鱗も甲殻も貫通して、きっちり大盾と俺の容積分こじ開けられた肉の空洞。



「……グッロ」


 

 悪心おしんと共に飛び出す本音。【四次元防御】の反動も相まって、さっきから吐き気がきつくてしょうがない。



 道中の雑魚敵のように光の粒子でサラサラ~みたいな気遣いがないのは、おそらく最終階層守護者というその特異な立ち位置ゆえか。



 しかしそうはいっても、これはあまりにも酷すぎるってもんだ。



 骨とか肉とかはみ出しまくってるし、飛び散った残骸は「くたばれコンプライアンス」とばかりのゴアっぷり。



 そして何より超絶臭い。血と肉百パーセントのフレッシュジュースなんてそりゃあ良い匂いがするわけないんだけれど、これはちょっと耐えられない。普通に無理だ。NGだ。




「――――ぐっ、根性っ!」



 脊髄反射的にこの場を退散しようと動きかけた身体を意志の力で抑えつけてなんとかエッケザックスを大剣形態に戻す事に成功する。



 SAN値が削れようが鼻がもげようが、ここで逃げたら今までの全てが台無しになる。


 邪龍が半狂乱状態にある今がチャンスなのだ。ここで追い打ちをかけて更にダメージを――――



「……あぁ、そうか。こいつがあったな」



 血が動き、骨が分かれ、飛び散った肉の残骸達がひとりでに新たな生命を形成していく。



 パッシブスキル 《生死相合しょうしそうあい



 一定のダメージを負うごとに、その損傷個所から眷族を産み出すトークン生成スキルである。


 こいつの厄介な所は、生成できるトークンの多様性にある。


 リザードマンやチョンチョンといった常闇常連の雑魚敵を皮切りに、白鬼や黒鬼、場合によっては死魔やカマクが複数体産み出される可能性すらあるので、面倒くさい事この上ない。



 しかもこいつは常時発動型パッシブスキル。


 起動から生成操作までその全てがオートマチックの手間いらずなのだ。


 幸い本体は尻尾をぶち抜かれたショックで反狂乱状態にある。トークンの戦線が構築される前にさっさと潰すのがベターだろう。




「つーわけで任せた遥!」

「任された!」

 


 返事と共に上空から斬撃の倶風ぐふうが吹き荒れる。



 幾百幾千、あるいはもっと――――血河の戦場に飛び交う剣の術妓は、主の着地を待つまでもなく“起き上がり”共を片付けた。




「ただいま凶さん。ついでに依頼完了でっす」

「おつかれ遥。随分長い事飛んでいた気がするが」

「あー、それねー」



 恒星系の人差し指が暗黒のソラを差す。



 星の消えた無明の彼方かなた



 その先には、首なし馬を従えて飛翔する巨大馬車の姿があった。



「ジャンプした先でオジサマ達に拾われてさ。ほんのちょっと休ませてもらっちゃった」

「なるほど」



 相変わらず粋な真似をしてくれる御仁だぜ。


 いつの間にか隕石の雨も止んるし、どうやら向こうは向こうで絶好調なご様子。



 これは、またとないチャンスだ。


 パーティ全員の手が空いていて、敵は尻尾に負ったダメージの影響で半狂乱状態。



 一斉攻撃のタイミングは今しかない。




「よし、みんな行――――」




 しかし、その先を紡ぐことは叶わなかった。



 突如、肉体を襲う未曽有の重圧。


 身体が重い。四肢が軋む。


 世界の法則が切り替わった瞬間を、俺達は同時に感じ取った。



「凶さん、これ……」

「あぁ……このタイミングで切ってきやがった」



 痛みと重力に気合と根性で抗いながら、空を見上げる。





「「「■■■■■■■■――――!」」」




 発生源はすぐに見つかった。


 怒り狂う三つ首の邪龍の口から吐き出された闇色の霊力。



 視覚で拝む事が叶う程に濃縮されたその力は、奴らの頭上高くに集められ秒を追うごとにその容積を肥大化させていく。



 空間全域に押しつけられた重力波などただの予兆。



 天上のソレが完成に至った時、俺達の冒険は確実な死と共に終わりへと至るだろう。



 それほどの術式。

 それほどの災厄。


 天に開かれた暗黒の光球。


 奴の代名詞ともいえるその術の名は――――





「――――クワルナフ……っ!」





 脅威度SS 【光臨降世ドゥシュ悪禍繚乱クワルナフ




 邪龍が持ち得る最強最悪のスキルが決戦場にあらわれた。













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