第十二話 ダンジョンの死神と六花の剣4
◆ダンジョン都市桜花・第二十七番ダンジョン『月蝕』第一層
変化は直後に訪れた。
身体に満ちていた霊力がすべて消え去り、同時にアルからの供給がはたりと止まる。
理由はもちろんさっきの
強力な能力の代償として莫大な霊力を要求してくる必殺スキル――――なんていう風に言えば異能バトルものの定番みたいでカッコいいんだが、コイツの
まずコスト。これが尋常じゃなく重いのよ。
どれくらい重いかというと俺の保有する全霊力を挨拶代わりに喰らい尽くし、その上でアルからの供給を
そしてそれに伴うリスクが輪をかけてきついんだ。
考えてもみて欲しい。霊力を全て消費し、供給も途絶えた精霊使いはどうなるか。
うん、そうだよ。スキルがまったく使えなくなるんだ。
フィクションの中のヒーローが全力の必殺技を使った後、燃え尽きたように疲弊するシーンあるだろ? MPとか魔力とかそういった不思議パワーを全部使って放つフィニッシュブロー、その後に一人佇むヒーローの姿は精も魂も尽き果てた満身創痍の完全燃焼――――そう、まさしく今の俺の様な状態さ。
……ただし、俺の場合は技を放つ前にガス欠になっている訳だが。
必殺技撃ったら逆にピンチになるとか、ほんと
「どうしようもねぇよなぁっ!」
渾身の叫びと共に支給用の大剣を振り降ろす。
勢い任せの大振り攻撃、こんなもん本来であれば軽くいなされるのが関の山だろう。
だが、俺の斬撃は轟音を奏でながら死神野郎の左腕部にクリーンヒットをかます。
そのまま胸骨付近を抉るように斬りまわしながら後方へ迂回しつつ、再び、大剣を宙空に構えて振り降ろし
「霊力なしでの耐久戦とか、普通に考えて無理ゲーだろクソッタレッ!」
魂からの叫びを吠え散らかしながら、連打、連打、連打、連打。
様々な怒りと怨嗟に満ちた俺の連続攻撃は、その全てが奴の背骨に致命的なダメージを負わせていく。
絶好調と言っても良い滑り出し。
もちろん、この快進撃にはカラクリがある。
一つは俺の必殺技の仕様。
さっきから散々
完成までの間、全てのスキルが使用不可になるという重過ぎるコストと、それに伴う戦力低下という致命的リスク。
一見すると救いのない糞仕様に見えるかもしれないし、事実その通りなんだがしかし――――このぽんこつモードには抜け道があるんだよ。
「っらぁ!」
気勢を上げた振り降ろしを更に一発叩き込む。
《腕力強化》の効能によって人間離れした剛力を得ている俺の一撃に、とうとう死神野郎がよろめいた。
そう。コイツが抜け道の正体だ。
霊力の枯渇によりスキルが使えなくなる。スキルが使えなければ戦闘能力が低下する。どちらも正しく真であり、まごう事なき現実だ。
しかし、既に発動していたスキルの効能まで切れるのかと問われれば、その答えは否である。
霊力とはエネルギーであり、強化とは結果だ。
そして時間でも巻き戻さない限り、結果というものは残り続けるものである。
リソースが切れても、バフ効果は継続する――――極めて
当たり前といえば当たり前なこの理屈。
だけどそのお陰で、俺がここに来る直前にかけておいた《腕力強化》、《脚力強化》、《装甲強化》の三重バフ(ついでにアルとの通信やシンクロモードも)は今も問題なく適用されているのだから、この仕様に少しばかりの感謝を送りたい。
地獄に仏? 不幸中の幸い? とにかくまぁ、仕様の神様ありがとう。
ちなみにこの三重強化の効能が切れたら、俺は今度こそパーフェクトポンコツモードに陥るわけだが、その展開は多分ない。
強化時に瞬発力じゃなくて持続性重視の方向性でかけてあるからな。後三十分程度の戦闘ならば、問題なく立ち回れるだろう。
これが俺側の理由。
そしてもう一つの理由は死神野郎と……彼女にある。
「だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだっ!」
珍妙な掛け声を上げながら、三メートル近い死神と大立ち回りを演じる蒼乃遥。
もうね。ヤバい。
何がヤバいって三メートル近い体躯の化け物が中学生の少女に圧倒されてる絵面の酷さよ。
得物のスペックも、元々の膂力もおそらく死神野郎の方が上だ。
にも関わらず、打ち合う両者の軍配は蒼乃遥に傾いている。
何故か。
『マスター、私は今少々
今のアルの呟きに全てが集約されている。
ワザマエなんて随分古めかしい言い方だが、要するに技量がスゴいと褒め
『激しく同感だ。ありゃあ素人目で見てもイカれてる。ていうか今、太刀筋が分裂してなかった?』
『残像です』
『は?』
『ですから、残像です。人間離れした斬撃速度に急激な緩急をつける事で錯覚を引き起こしているのでしょう』
『うわぁ……』
『
『……待って。アレって支給品の装備だよね』
『ですね』
『残像出してるよね』
『出してますね』
『なのになんで壊れないの?』
『霊力で幾らかの耐久性は付与しているかとは思いますが、何よりも彼女のワザマエが突出しているからでしょう』
『……うわぁ』
俺は軽く引きながら死神野郎の脊椎に大剣をぶつけた。
ロリコン骸骨は、全身をビクリと仰け反らせながらも決して俺の方へと振り返らない。
奴が蒼乃遥の魂を執拗に求めている変態ゴミ野郎という側面も勿論あるのだが、それ以上に眼前の中学生の少女が危険だとみなしているからだろう。
俺にタコ殴りにされるダメージよりも、俺に反応することで発生する僅かな隙の方が致命的だと判断したのだ。
その判断は、概ね正しい。
今の俺は霊力ゼロのスキル使えないマンだ。
残っているバフのおかげで戦いについていく事こそ出来るものの、奴に有効打を与えるスキルを放つことは出来ない。
加えて奴の突然変異体としての特性が、状況をややこしくしている。
背中の傷口から噴出する蒼い焔。
それは攻撃の為に発生したものではなく死神野郎の負ったダメージを修繕する為のものだ。
ダンマギでは『各ターン毎の終わりに、その時受けたダメージの半分を回復する
ゲーム時代でも舌打ちしたくなる程の厄介さだったが、こうして現実的に立ちはだかるとインチキにも程があるなコレ。
「じり貧、だよねぇ」
蒼乃遥が困ったような顔で笑う。機関銃のような速度で斬撃を浴びせながら会話を挟む余裕すらあるとは、恐れ入る。
「こっちがどれだけ攻撃しても片っ端から回復しちゃってさー、もうどんだけカルシウム足りてんのーって感じだよ」
「多分カルシウムは関係ないが、奴の再生能力が厄介な事には同意する」
俺のレスポンスを聞いた蒼乃遥は、何故か「おーっ!」と目を丸くして驚いた。
「すごいね清水君、この状況を打破する作戦があるんだ」
「…………え? なんで分かるの?」
普通に怖いんだけど。
「いやいや、そんな大した事じゃないってー」と照れたようにはにかみながら死神野郎に斬撃乱舞を浴びせる黒髪JC。
もうこの時点で大したカオスっぷりなんだが突っ込むのはきっと野暮なんだろう。
「別に私はただ、清水君の息遣いと攻撃間隔を計測してそこからコイツの再生能力を自覚しているにも関わらずどうして一定のリズムを保っていられるのかなって不思議に思っただけ。だって妙じゃない? 自分の攻撃が通じないって分かっているなら普通、威力とか速度を弄るでしょ。なのに清水君は同じような力の踏み込みで同じような攻撃を繰り返している。しかも攻撃箇所もまばら。背中付近が多いけど、決して一点集中じゃないし、何より霊力が目に見えて減ってるよね。再生能力持ち相手に霊力を大量消費して、無駄だと分かっている攻撃を根気強く打ちこんでいるって事は要するに――――――――」
「お前こえーよ!!」
突っ込まずにはいられなかった。
なに達人クラスの剣戟披露しながら名探偵並みの観察眼でこっちの意図見抜いちゃってるわけ? もう理解が早いとかそういう次元越えちゃってるよね!?
やべぇよ蒼乃遥。戦闘関連の才能が完全に宇宙だよ。
「uuUUUUUUUUUUUUUUURYUUUUAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaAAAAaaaaaa!!」
そんな風に俺が蒼乃遥の意外な一面に動揺していると、突然間でタコ殴りにされていた死神野郎が吠え出した。
蒼白い焔を全身から吐き出しながら、狂乱したかのように暴れ出すロリコン骸骨。
大変迫力のある姿なのだが、キレ始めたタイミングが俺と蒼乃遥が会話を挟んでいた時だったので、意中の相手が他の男と喋っているのを発見して暴れ始めたこじらせ童貞に見えなくもない。
哀れな奴だ。同情も容赦もしないが。
「清水君、一旦下がろう」
「そっちに鎖が飛んでくるぞ。捕まるなよ」
「分かってるって!」
その言葉通り、蒼乃遥は背後から強襲を仕掛けてきた鎖の群れをヒラリと交わし、返す刀で一掃した。
本当に大した奴だ。己の死因を完全に克服してやがる。
「捕まると厄介だけど、分かっていれば大したことないねコレ」
「通常攻撃と組み合わせられないのが残念だよな。操作はオートっぽいが、召喚に一手間かけてるから必ず予備動作で距離取ってくるし」
剣獄羅刹の時は普通に複数回行動で使ってきたが、どうも進化前のこいつは基本一ターン一行動らしい。
「それでさ、清水君。どうやってアイツ倒すのかにゃ?」
「下手な攻撃はすぐに再生されるからな。再生すらさせない高火力で叩き潰す」
我ながら簡潔な説明だ。
とはいえ実際の行程をぺらぺら説明している時間は無いからな。今はこれで納得してくれるといいのだが
「成る程。つまり今は大技をチャージ中って認識でおーけー?」
返ってきた答えは予想以上に聡かった。
「オーケーだ。その認識で動いてくれるとありがたい」
「了解。じゃあさじゃあさ」
と、蒼乃遥が何らかの提案を持ちかけようとした所で、奴の方に動きがあった
「umdgjを8*zmdakpォオオaaaAfnn77やklvーーーー」
こちらを睨みつけながら何やら念仏めいた言葉を唱え始める死神野郎。
何を言っているのかさっぱり分からないが、その行動の意図については心当たりがあった。
「新しいパターンだね。何してくるんだろ」
「さぁな。仲間でも呼ぶんじゃないか」
直後、俺の予想は的中した。
俺達の後方を塞ぐように召喚された無数の黒穴。
その中から、死神野郎を一回り小さくしたような骸骨達が隊列を組みながら現れる。
「おぉ! 清水君の予想が当たった!」
「感心してくれているところ悪いが、俺達絶賛囲まれ中だぜ」
「えー、清水君びびってるのー? だったら逃げる?」
蒼乃遥の軽口に俺は自然と口角を上げて答えた。
「まさか。あのゴミカス骸骨はここで必ずぶちのめす」
そうしたところよ。隣の黒髪少女が急に吹き出しやがったのだ。
「おい。どうした急に?」
「いや、くくっ。大した事じゃないよ。ただ今の清水君の顔、すっごく悪人面だなって。ぷっ、あははっ」
「てめぇ、人が気にしている事をよくも抜け抜けと」
「いや、馬鹿にしているわけじゃないよ。ただ、あまりにも悪人顔が似合ってたから。ぷっくくくっ」
なんだろう。俺はこいつを一発殴っても良い気がする。
「……まぁいい。その件については後でじっくり絞るとして、とりあえず目の前の問題から片付けよう。どうする? 俺としては二手に分かれるのが得策だと思うんだが」
「あぁ、それなんだけどね」
そう言って蒼乃遥は俺の耳元にごにょごにょと耳打ちをした。
今更あのロリコン骸骨が聞き耳を立ててくるとは思えないが、ここは彼女の好きにさせよう。
「――――して、――――で、――――って感じでいこうかなと思うんだけど良いかな?」
「分かった。その方針でいこう」
「あ、待って。もう一つ気になる事があるんだよね」
「なんだ?」
――――――――
そうして短い作戦会議を終えた俺達は、そのまま自分達の持ち場へ向かって走りだした。
分担は蒼乃遥が、骸骨軍団。
そして……
「よう糞野郎。少し俺と遊んでくれや」
詠唱を終えたばかりの死神に戯言を叩きながら接近する。
当然ロリコンは後ろの彼女を追おうとするが、そんなことはさせない。
「どんだけあいつにゾッコンなんだよ。骨の発情期なんて薄気味悪いだけだ――――ぜっ」
隙だらけな奴の顎に大剣の一撃をお見舞いする。
ふらつく骨の巨体に更なる追撃を仕掛けようとしたところで
「UUURYUUUUAAaaaaa!!」
死神野郎の大鎌が俺の頭上めがけて飛んできた。
おいおいあの体勢から即カウンターかよ。さっきまでそんな俊敏じゃなかったじゃねぇか。
ていうか、この位置って結構ヤバくね? 普通に当た――――
『緊急回避オペレーションを行います。マスター、出来るだけ全身の力を抜いて下さい』
刹那の瞬間、肉体の操作権限が俺からアルへと切り替わる。
奇妙な浮遊感と共に俺の身体が限界以上の瞬発力で死神の鎌を回避し、そのまま奴の射程圏内から半歩ずれた位置へと移動した。
『間一髪でしたねマスター。あの武器の一撃をまともに受けていたら、割と大変な事になっていましたよ?』
『すまん、助かった。いや、まさかあの体勢から叩き込んでくるとは思わなくってさ』
『腐っても突然変異体ですからね。耐久型の能力構築とはいえ、油断の出来る相手ではありません』
アルの忠言は、俺に大事な事を思い出させてくれた。
そう。目の前の死神野郎は、突然変異体なのだ。
マップ徘徊型の強襲型ボスエネミーに分類されるこいつが半端な相手じゃない事ぐらい分かっていた筈だったのに、いつの間にか緊張感が抜けていた。
いいか、勘違いをするなよ凶一郎。
色んなリミッターが外れている達人様ならばともかく、俺の様な
もう一度、気を引き締めよう。油断せず、けれど委縮もせずに堂々と。
『アル。サポート頼む』
『御意に』
肉体操作権限を俺に戻し、再び死地へと駆け抜ける。
初動は駆け引きなしの振り降ろし。
一番力の乗る角度から放たれた豪剣は、けれど死神野郎の大鎌によって相殺される。
「だらぁっ!」
そのまま更に一発撃ち込み、位置を変えて再び振り降ろし。
だが、それら全てを死神野郎は鎌で受け止め、防いでいく。
撃ってはいなされ、撃たれれば避け切り反撃を試みる。
圧倒できる程ではなく、さりとて圧倒される程でもなく…………俺達の攻防は完全に拮抗していた。
「うぉらぁっ!」
「URuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuaaaa!」
激しくぶつかり合う金属音が耳を騒がせる。
畜生め。埒が明かん。そして無性にイライラする。
千日手じみたこの状況は、こちらの作戦的内容を加味すれば有利だろう。
だがしかし、この糞という言葉を何千回煮詰めても足りないような性根のゲス野郎に一発も入れられないというシチュエーションは、どうしようもなく不快でストレスフルだ。
人を喰い、死ぬことすら許さず魂を冒涜し続けるこのゴミにタイマンで一発もぶちかませずにタイムアップ狙い?
そりゃあ、戦術的には正しいだろうよ。だけどな。
「一ゲーマーとして、いや、一人の男として――――お前みたいなゴミくず野郎に背を向けるわけにはいかねぇんだよ!」
敵への、そして己の不甲斐なさへの怒りを燃料にして何度目かの突撃を決行する。
攻撃スタイルは大きく振りかぶった横薙ぎ。筋肉にものをいわせた力任せの一撃だ。
当然、こんな
事実ストーカー骸骨は、直撃の瞬間にタイミング良く身体を反らして俺の渾身の一撃を避けやがった。
そうして、次の瞬間奴は大鎌をギロチンのような勢いで振り下ろし――――
「ようやく隙を見せたな!」
俺は大剣を宙空に放り投げると同時に、大地を蹴った。
時間にすれば刹那の間隙。
弾指にも満たない僅かな好機を全力で掴むべく、俺の身体は全力で躍動を始める。
短いバックステップを挟みつつの大ジャンプ。半歩先では死神の鎌が
思わず心臓が縮みそうになるが、なんとかこらえて上空へ。
これだ、これを待っていた。
ギリギリのチキンレースを踏み越え、『剣を上に投げる』というワンアクションを挟み込む。
リスクだけが高くって、ともすれば適当に避けていた方がマシだと
恐らく
非合理的で論理の外側をぶっちぎった、しかしそれ故に為し得た
筋肉と《脚力強化》のブーストをフル活用した我が肉体は、そのままものすごい勢いで、放り投げた大剣を掴み取り
「くらえやっ!」
そして即座に落下を利用した攻撃に転じた。
選ぶ構えは、当然振り降ろし。
重力と筋肉、そして少しの回転を加えながら俺の身体は死神の頭上へと落ちていく。
激突。そして轟音。
攻撃後の無防備を晒した骨野郎は、新たな鎖を召喚する間もなく俺の大剣とキスをした。
「URyuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
着地を決めつつ、ストーカー骸骨の様子を見る。
ははっ、こいつはひでェや。
髑髏の八割以上が破砕されている上に、喉元から胸部にかけてドチャクソ
うざったるい再生能力が早速稼働してやがるが、数秒で復元できる傷でもないんだろう。
死神野郎は全ての戦闘行動を停止して再生の蒼い焔に身を焦がしてやがる。
「取ったぜダウン」
そして巡って来た追加攻撃のチャンス。
さぁ、どうやって料理してやろうか。
『なりません』
そんな俺の闘争本能に水を差すような声が脳内に響く。
『どういうことだアル。おもっくそチャンスじゃねえか』
『いいえ。チャンスではありません。あれは
断言するアルに根拠を尋ねてみた。
『理由は明白です。アレはマスターと蒼乃遥による波状攻撃にすら耐え抜いた化物です。その化物が、何故このタイミングで目に見えるような隙を晒しているのでしょうか』
『視覚を潰されたから、とかじゃねえの。ほら、顔面完全に崩壊してるし』
『全身骨の化物のどこに眼球や視神経があるというのですか?』
『むっ』
ぐうの音も出ない正論が飛んできた。
確かにそうだ。
あいつは人外の化物。人間、というか生物の範疇で語っていい様な代物じゃない。
てっきり目が潰れたから再生に専念したのかと思っていたが、これはアルの言う通りきな臭いぞ。
『どの道、こちらの攻撃力では相手の再生能力を上回る事は出来ません。無茶な攻撃は出来うる限り避け、術の完成まで足止めに専念するのが適策でしょう』
『でもよぉ』
『無論、マスターの好戦的な性格、もとい性質は承知しております。ですから過度に止めるような事は致しませんが――――』
と、そこでアルの言葉が停止した。
『どうしたアル?』
『マスター、蒼乃遥の様子を見て下さい』
精霊は人間よりも霊覚に敏感だという。
アルはその鋭い霊覚で、感覚共有している俺には分からない何かを感じ取ったのだろうか。
そんな疑問を感じながら、俺は死神野郎に注視しつつも後ろの戦場を確認した。
「――――嘘だろ、オイ」
思わず息を飲む。
血と皮のない屍山血河。骨だらけの死屍累々。きっとこの状況を形容する言葉は捜せばいくらでもあるだろう。
でもきっと、一番簡潔で、そして本質を突いている一文はこれにおいて他にないだろう。
そう。即ち
「蒼乃遥、やりやがった」
俺はドン引きした。
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