第一話「リアを呼ぶもの」

「ああ……生まれて初めてじゃ……こんな快感……!」

 ピクピクと痙攣しながら地面に転がるロリコンドラゴンは、満身創痍ながらも、美幼女に殺され掛けるというめくるめく甘美な感覚に酔い痴れていた。

「あんた、生まれて初めてて。そんなの、記憶無いんだったら分からんだろうが」

 と突っ込んだ後、リアは、

「ところで、あんたが目覚めた時、あたしとあんた以外には、誰もいなかったんだよな?」

 と、真剣な表情で聞いた。

 ロリコンドラゴンは、今にも死にそうな羽虫のような動きで羽ばたき、空中に浮かぶと、

「そうじゃ。儂らだけじゃったのう」

 と、頷いた。

 リアは、

「そうか……」

 と呟くと、改めて、周囲を見回してみた。

 広大な荒野の中。人も、モンスターもいない。

 更に集中して、誰かいないかと、リアが気配を探ると――

「!」

 ――誰かが呼んでいる気がした。

 それは、声――ではなく、〝意識〟のようなものであるように思えた。

 リアは、

「誰かが、あたしを呼んでる!」

 と呟くと、西に向かって凄まじいスピードで走り出した。

 突如高速で移動し始めたリアに、ロリコンドラゴンは慌てて、

「待つのじゃ!」

 と言うと、飛びながら追い掛けて行った。

 あれだけボロボロにされながらも、まだこれだけ飛べるとは、小さな見た目と違い、ロリコンドラゴンはかなり打たれ強いらしい。

 すると、走りながら、直ぐ横に並んで飛んでいるロリコンドラゴンを見たリアは、

「あんたのそれ、良いな」

 と言った。

 ロリコンドラゴンが、

「お主も飛べば良いじゃろうが」

 と言うと、リアは、

「あたしが飛べる訳ないじゃん」

 と、突っ込んだ。

 その言葉に、ロリコンドラゴンは、

「そうじゃな。まぁ、見ての通り可愛らしい見た目をした儂の可愛らしい冗談じゃ」

 と言ったが、次の瞬間――

「何じゃと!?」

 ――驚愕の声を上げた。

 リアは――

「あれ!? あたし、飛んでる!?」

 ――空を飛んでいた。

 見ると、リアの背中には、一対の黒い翼が生えていた。

「どういう事じゃ……!?」

 と、混乱するロリコンドラゴンを尻目に、リアは、

「これ便利ー!」

 と、一気に加速して行った。

「は、速過ぎじゃ! この姿の儂に、そのスピードは酷じゃと思わんかのう!?」

 と、必死に追い縋ろうとするロリコンドラゴンを置き去りにして、リアは、自分を呼ぶ気配のする方へと、一気に飛翔して行った。


 少しして。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……や、やっと追い付いたのじゃ……」

 小さな翼で必死に追い掛けて、地上に降り立ったリア――黒翼は消えている――を漸く見付けたロリコンドラゴンが、舞い降りて来た。

 じっと地面を見詰めていたリアは、

「ここだ!」

 と叫ぶと、突如、その剛腕によって、地面を掘り始めた。

 ロリコンドラゴンは、

「何をしとるんじゃ?」

 と聞くが、作業に夢中になっているリアは答えない。

 リアは黙々と作業を続ける。

 轟音と共に地面は大きく窪んで行く。

 両拳の連撃によるそれは、掘るというよりもむしろ、〝地面を破壊する〟と言った方が適切に思える程の威力を持っており、その人間離れしたパワーに、まるで魔法でも使っているかのように思ってしまったのか、リアの身体が何度か光ったように、ロリコンドラゴンは錯覚してしまった。

 リアの連打により、クレーターのような巨大な穴が着々と出来上がっていく。

 そのまま、暫くロリコンドラゴンが見守っていると――

「あった!」

 ――地下数十メートルに達したリアが、何かを掘り当てた。

 驚愕に目を剥くロリコンドラゴンが見たのは――

「聖剣……じゃと!?」

 ――聖剣だった。厳かな装飾が施された鞘の中に納まっており、御丁寧に腰に括り付けるための紐までついている。

 それを聞いたリアは、再び黒翼を生やした上で飛び上がって地上に舞い戻ると、

「聖剣!? じゃあ、あたし、聖なる存在って事だな! 勇者とかか!? さすがあたし!」

 と、紐を使って自身の腰の左側に固定した聖剣をポンポンと叩きながら自画自賛するが、ロリコンドラゴンは、

「漆黒の翼を背中から生やした勇者など、聞いた事が無いがのう」

 と、冷静に突っ込んだ。

 リアは、

「ロリコンドラゴンの癖に、うるさいなぁ。またボコボコに――」

 と言い掛けた後、

「そうだ! 試し斬りしよう!」

 と、明るい表情で、鞘から聖剣を抜くと、ロリコンドラゴンに向けた。

「ああ! 聖剣で斬られたら、今度こそ間違いなく死ぬのじゃ! じゃが、幼女に聖剣で斬られたら、一体どんな快感が!? でも、死んだら、もう快感を味わえないのじゃ! わ、儂は一体どうすれば良いのじゃ!?」

 これ以上無いほどにどうでも良い懊悩を口にするロリコンドラゴンに向かって、笑顔のリアが、上段に構えた聖剣を一気に振り下ろした。

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