51.やっと娘を取り戻せるわ

 私の可愛い娘が戻って来る。それもパトリスのお嫁さんとして。私と同じブラウンの髪に、優しい緑の瞳だと聞いたわ。間違いなく私の娘よ。


 ――母上そっくりの愛らしいご令嬢で、ひと目見てだと分かりました。ですが伯爵家で暮らして来られた方なので、僕の妻として来ていただく予定です――


 何度も教えてもらったわ。パトリスが大切にするルーナ、私の娘になってくれるの。手を離した経緯は覚えていないけれど、パトリスは「を魔の手から守ろうと逃したのですよ」と言った。


 そうね、私は毒を盛られたから。あのハーブティで、可愛いルーナを奪われてしまうところだった。あの子が無事に成長できるよう、伯爵家に預けて……あら、どうしてお兄様に預けなかったのかしら。


「母上、お忘れですか? 侯爵家は実家なので、バレてしまうからですよ」


 答えはいつもパトリスが。ええ、それが正しいの。可愛いルーナは、身分を隠すために「ナタリア」と名乗っているのよね。きちんと覚えました。


「私のはまだ?」


は明日到着しますよ」


 穏やかに微笑むパトリスは、離れの手配を終えたらしい。ルーナを迎える部屋も整えたというので、後で見せてもらわなくちゃ。足りない宝石やドレスは、私が買い足してあげなくてはね。


「ええ、ナタリアは傷つきやすいので、優しく愛してください」


「わかったわ。繊細な子なのね」


 微笑んで息子に頷く。パトリスは私を大切にする優しい子だわ。息の詰まる王宮から実家へ戻れるよう手配して、大嫌いな夫から離した。何より、大切な私のルーナに会う機会を与えてくれる。


 一晩寝たら、あの子を抱き締めることが叶う。望んでも届かなった手が、ようやく娘に触れるのだわ。気持ちが昂って眠れそうにないわね。


「いいですか? 姉上をナタリアと呼んでください。ルーナはですから」


「ええ。間違わないようにしなくては、泣かせてしまうわね」


 弟と姉は結婚できたかしら? ふとそんな疑問が口をつくけれど、すぐに吹き飛んでしまった。大丈夫よ、すべてパトリスに任せておけばいい。


 微笑む私をみて、兄は複雑そうな顔をした。悲しみを堪えるようで、諦めを含んだような。もしかしたら、私が離縁したせいかしら?


「お兄様、ごめんなさいね。私、出戻ってしまったけど」


「ああ、問題ない。リーディアが幸せなら、何も心配しなくていいんだ。この屋敷で昔のように暮らそう」


 お母様やお父様はすでにお亡くなりになったけれど、お兄様がいてくれて良かったわ。懐かしい実家の自室で、私は笑顔を振りまいた。だって、この家での私の役割はもう……このくらいしかないのだもの。










**********************

新作【愛してないなら触れないで】22:10更新

 「前世」で夫に殺された。結婚式当日に戻った花嫁ローザは初夜に花婿を拒む。

 だが記憶を持ってタイムリープしたのは、ローザだけではなかった!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る