Chapter13-5 王を称える者(3)
「魔法が、必ずしも魔力を必要とするとは限らないのだよ」
「それは……ッ!?」
そのセリフを聞き、ようやくオレは合点がいった。
こちらの反応を見て、レクスは意外そうに呟いた。
「ほぅ、心当たりがあるのか。
そう。まさしく彼の言う通り、類似した術があった。くしくも、スタンピード当初に予想していたモノが。
儀式魔法、または代価魔法と呼ばれるそれだ。現代では魔法の補助が主だけど、誕生期は“魔力を必要としない魔法”として扱われていた。
オレはとある仮説に思い至る。
“現代の属性魔法の誕生前に、一部の者たちが別大陸へ渡った。もしくは、大規模な地殻変動によって分断されたのではないか”
この説が当たっていれば、こちらの儀式魔法とあちらの召喚術が似通っていても不思議ではない。多少の差異は、独自の発展を遂げたと解釈できる。
歴史的な齟齬もないように思う。様々な資料より、魔法の誕生期前後に大混乱があったことは読み取れていた。混乱の原因は長らく不明だったけど、その正体が『人類を大陸ごと分断するほどの災害』と言われれば、納得できてしまう。
いやまぁ、かなり強引な推論なのは自覚しているさ。同じ人類が考案した術なんだから、偶然似たモノに辿り着いたという意見だって否定できない。それにしたって、根幹が似すぎている気もするが。
……結局のところ、答えの出せない問題だな。千年を超える大昔の出来事だ。ガルナたち魔法司が生まれるより前の話。真相を詳らかにするのは、それこそタイムスリップするしかない。
「お察しの通り、我が召喚術のベースは『魔力を使わない魔法』だ。今回のスタンピードでは神殿の魔力を拝借しているが、基本的には体力を消耗する術で間違いない」
レクスは大前提を示した上で、
「とはいえ、貴殿らほど使い勝手の良いものではなかったよ。発動には杖や魔法陣といった触媒が必要不可欠。一つの魔法を放つだけでも大量の体力を消費するため、どれほど強大な術者であっても、一度の戦闘に三十も撃てない。術の発動までに時間がかかりすぎるせいで、壁役ナシではタダのカカシと変わらない。
だろうな、と心のうちで頷くオレ。
かつての魔法は集団戦前提の性能だった。前衛が敵を抑え、複数の魔法師が乱れ撃ちにする。これが最適解だ。レクスの話を聞いても、その辺りの認識は変わらない。
「ゆえに、使い魔を壁役として使役する文化が生まれたのだが……これもその場しのぎにすぎない。一人につき使い魔は一体までしか契約できず、呼び寄せられるのは知性なき獣限定だ」
「あなたの術は違うようだが?」
「才能という奴だよ。僕はヒトを呼び出せる特別な力があった。そして、契約を交わさないなら無尽蔵に呼び出せた」
何て迷惑極まりない才能だろうか。無秩序の誘拐と破壊をもたらせる力なんて、厄介極まりない。
「こちらに逃れ、魔力の存在を知り、僕は笑ってしまったよ。このような便利な力があるのかと。自分は井の中の蛙に過ぎなかったのだと」
「だから、魔力を得る方法を模索したのか」
「うむ。とはいっても、その方策を見つけるまで、そう時間は要さなかったが」
「そうなのか?」
オレは首を傾ぐ。
レクスの発言は予想外だった。
魔力を得る方法を発見していたのなら、どうして外部の魔力を無理やり注ぎ込むなんて発想になったんだ? どう考えても、今行っている手段は負担が大きすぎる。
こちらの疑念を悟ったようで、レクスは「嗚呼」と声を漏らした。
「現在行っている手段は、当初見つけた方策とは違うぞ? 我らが確認したそれは、『世界と契約する』というものだ。この辺りをテリトリーにしておった先代の茶魔法司に遭遇してな。友好関係を築き、魔力の知識について授かれたのだ」
「はぁ?」
急に話がぶっ飛んだせいで、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
オレは眉間を指で抑えつつ、確認を取る。
「偶然、魔法司と遭遇して、仲良くなった記念に魔力の詳細を教えてもらったと?」
「その通りだ」
「……」
あっさり首肯され、絶句する他にない。
仕事やカロンたちとのプライベートの合間に、必死こいて世界各地の遺跡を巡ったオレの努力とは一体?
世の中の理不尽を目の当たりにした気がする。運と言われれば、それまでだけどさぁ。
「じゃあ、どうして契約しなかったんだ?」
「しなかったのではない。できなかったのだ」
微かな頭痛を感じつつ、オレは続けて問うた。
それに、レクスは誠に遺憾だといった様子で答える。
「僕には魔力を受け入れる器の余裕がなかった。召喚術への適性が高すぎる弊害らしく、契約以前の問題だった」
「そこの騎士……エリアルは?」
「僕に付き従ってくれた配下はエリアルも含め二人いたが、どちらも契約できなかった」
「何故?」
「子孫の繁栄する未来がないからだと、先代の茶魔法司は分析していた」
「あー」
彼の説明を受け、驚きとともに深く得心する。
言われてみれば、確かにその通りである。オレたちが世界と結んでいる契約の代価は、先祖から子孫にかけての血だ。時間を超越して、連綿と続く血脈を担保にしているゆえに、世界の法則を捻じ曲げるに至ったわけだ。決して、ヒト一人の血で為せるものではない。
子が続かないと世界が判断したのなら、契約できないのも道理だった。実際、彼らは海底に閉じこもり続け、繁栄どころの話ではない。
そも、レクスは神殿より出られる状態ではない。
「だから、神殿と己を繋げたのか?」
彼がどうやって神殿の魔力を受け取っているかといえば、物理的に体を繋いでいるんだ。あの椅子の後ろには太いパイプが生えており、それは座る彼にも突き刺さっていた。実にマッドである。
対するレクスは、気にした様子もなく、肩を竦める。
「これか? これを実行したのは、もう少し後だ。その前に、もっと別のことを試した」
「別のこと?」
「未来がないのなら、個人で完結している魔法司は、何で魔力を得ているのだ?」
「まさか……」
「そう。僕は無理だとしても、配下の二人には魔法司を目指してもらった。幸い、目指した直後に先代茶魔法司は消滅していたため、席は空いていた」
何とメチャクチャな……。現代魔法の下地がない彼らだからこそ、何もかも素っ飛ばして目標にできるのか? いや、それでも、簡単に出せる結論ではないだろうに。
オレが呆れていると、レクスは「そうだ」と思い出したように補足する。
「言っておくが、先代を誅したのは我らではないぞ? 失踪前に、たしか『最強の存在と出会ったから挑んでくる』と言っていたな」
オレは心のうちで思いっきりツッコミを入れる。何故か、脳裏に『てへぺろ』と惚ける彼の姿が浮かんだ。ムカつく。
あいつは何をしているんだ? 元とはいえ、神の使徒が世界の柱を殺すなよ。バカなの? ……バカだったわ。
ノリと勢いが正義の男が、挑まれた勝負を断るはずない。どうせ、相手が予想以上に強いから、つい本気を出して、つい殺してしまったんだろう。
以前、魔法司とは会ったことがないとか言っていたし、先代土魔法司の素性を知らないまま戦ったんだと思う。
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