Chapter13-4 色の衝突(1)
お兄さまたちが神殿へ突撃してから三十分ほど。
街を巻き込んだ騒動なのも、難儀している一因ですね。広範囲魔法を撃てませんし、火魔法なんて放てば、大炎上は間違いないでしょう。木造建築が主の環境は、
ゆえに、スタンピードへの対処は、各個撃破がメインでした。ミネルヴァやマリナ、部下の皆が街中を走り回っております。
いえ、ミネルヴァとマリナは走ってはいませんね。マリナが感知し、ミネルヴァが彼女の指定したポイントに目掛けて射撃するという、固定砲台を担っていますから。間断なく正確無比に魔獣を倒すところは、さすがの二人と申しましょう。
オルカとシオンは全体指揮とその副官です。各個撃破という選択をしている状況では、司令部の判断がかなり重要となります。その点、あの二人なら安心できました。
スキアとユリィカさんは、一部隊を連れて国境線の防衛を担っております。自国の問題を他国へ押しつけるわけには参りません。
ダンさんたち三人と新入生のお二方には、築島の住民と一緒に避難していただきました。彼らはあくまでも一般人です。フォラナーダの所属ではない以上、今回のトラブルに巻き込めません。実力的にも、些か危険ですからね。
そして最後に、
前者は、手の空いている火魔法師の部下の皆にも手伝っていただいております。というより、彼らがメインですね。魔力にも限りがあるので交代制です。
後者の仕事にこそ、
魔獣の中には、ヒト型やそれに準ずるサイズも存在します。つまり、『転移門』を潜り抜けることが可能なのです。そうなったら最後、聖王国王都でもスタンピードが発生してしまいます。そのような事態を許すわけにはいきませんでした。
また、ここは疲弊した皆の休憩所でもあります。メインは司令部の置かれているフォラナーダの屋敷ですが、距離的にこちらを選択する方も多いです。
ちなみに、休息を取る皆の世話は、セイラさんに一任しております。
彼女が参加しているのは、本人の強い希望があったためでした。ダンさんたちと同様に実力不足ではありますが、光魔法師の手が欲しかったのも事実。建物外へ出ないことを条件に許可を出しました。
魔力回復は難しいものの、体力方面はセイラさんの魔法で補えました。お陰で、絶え間なく湧き出る魔獣の群れにも、対応が追いついています。
「カロラインさま、新手です!」
施設防衛を担う一人の騎士が、
彼の示した方向は施設の正面。ゾロゾロと大量の魔獣が後進しておりました。ご丁寧に、すべて二メートルに収まる体長です。門を潜るのも容易いでしょう。
お兄さまが『ゴブリン』や『オーク』と呼称を決定した連中。容姿の美醜を評価するのは好きではないのですが、あの魔獣はあまりに醜悪すぎます。ヒトの嫌悪感をあおる形をしていると申せば良いでしょうか。視界に収めているだけで、胸のうちがムカムカしてくるのです。
それに、あれらが瞳に湛える感情も宜しくありません。獣のような情欲が透けて見えました。あからさまな感情は、いっそ清々しいほどです。全然嬉しくない清々しさですが。
数は概算百くらいですね。相変わらず多い。
ゴブリンやオークは部下の皆でも対処可能な強さですが、彼らは先程戦闘を終えたばかり。ここは
――【ブレイズボルテックス】
火の上級魔法によって、敵の中心から巨大な炎の渦が出現しました。まるで竜巻の如き
延焼の心配はいりません。『転移門』の施設はレンガ造りの上、強固な耐性が付与されておりますもの。
「……この臭い、慣れませんね」
敵を殲滅した直後、
オークは脂が多いようで、燃やすと凄まじい臭いを巻き散らすのです。悪臭というほどではありませんが、鼻を刺す代物なのは間違いありませんでした。
炎の火力を上げれば良いのでしょうが、敵の数に際限がない現状、魔力の無駄遣いは避けたいところです。この程度の臭い、我慢すれば済む話ですから。
真っ黒な炭と化した魔獣たちは、潮風によって完全に崩れ去りました。黒いカケラはサラサラと宙を舞い、最終的には跡形もなく消滅します。
さて、次の魔獣が襲来するまでは休憩ですね。それほど猶予はないでしょうが、休める時に休んでおかないと、最後まで立っていられません。
ふぅと一息吐き、肩の力を抜く
ですが、その脱力は数秒と持ちませんでした。
「敵しゅ――」
「ッ!?」
探知を担当していた部下が叫ぶよりも早く、何者かが
想像を絶する速さでした。この
回避は間に合いません。魔法もギリギリ。
必死に思考を回して術式を構築。何とか刃の接触前に発動が叶いました。
ところが、その思惑は即座に破綻しました。何故なら、敵の刃は、【ライトウォール】を一切の抵抗なく砕いてしまったのですから。
「しまっ!?」
ここに来て、ようやく
黒い刃を放つのは
かつて敵対した輩とは異なり、だいぶスマートな外見をしていましたが、間違いありません。首がなく、禍々しい呪いを内包した騎士など、
「ぐっ」
「カロラインさま、ご無事ですか!?」
とっさに騎士の一人が後ろへ引っ張ってくださったお陰で、致命傷は避けられました。胸元を深く抉られましたが、心臓は無事です。
「ありがとうございます」
その間、部下たちが
今回のアレは速度特化のようで、こちらの攻撃はことごとく回避され、あちらの攻撃はすべてクリーンヒットしていました。早々に、ここを任されていた部下全員が戦闘不能に
とはいえ、伊達にフォラナーダの鍛錬を積んでいません。皆、即死は免れていました。それならば回復させられます。
「全員を連れて、セイラさんの元まで下がりなさいッ」
彼女の腕であれば、残る治療も完璧に行ってくれるでしょう。
そのためにも、この場は
「ッ。承知いたしました!」
自分たちが足手まといなのは理解しているよう。大人しく引き下がる彼ら。
はてさて、ここからが本番ですね。
一応、火魔法で牽制はしていたのですが、まったくの無傷です。すべてを避けられていました。まぁ、反撃に転じさせなかっただけでも良しとしましょう。
一連の攻防で、大雑把に力量は把握できました。
ただ、圧倒的に相性が悪い。光魔法を封じられているのもそうですが、敵がスピードファイターであるところが厳しいです。
そう。
最善は他方より助力を乞うことですが、あまり選びたくないですね。現状、どこも手いっぱいです。苦戦するからといって、他の誰かを頼りたくありません。
「節約などと、気を遣ってはいられませんか」
火魔法を乱れ撃ちして足止めしていますが、徐々に動きを合わせられている気配がありました。この均衡も長くは続かないでしょう。
であれば、切札を切るしかありません。魔力消費を無視してでも、この
紡がれるは、火魔法における最高峰。
「【天炎の檻】」
滑らかな光沢を湛える赤い炎。それが敵を囲って檻を形成しました。
敵の足を奪えたのなら、あとは簡単。身動きが取れないほど檻を狭め、トドメを刺すだけです。
「【天炎の鉄槌】」
巨大なハンマーを模した炎を上空に出現させ、
役目を終えた赤魔法は延焼など起こさずに消えますが、鉄槌の下った場所には塵一つ残っていませんでした。
念のために探知を行いましたが、怪しい気配は引っかかりません。敵は葬れたようです。
ただ、反省点も多い戦いでしたね。色々腑抜けていると自覚はありましたが、改めて実感しました。今後、いっそう励まないといけません。
そのように、心のうちで反省会を開く
一度不甲斐なさを覚えたのが良かったのでしょう。この時、
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