Chapter12-3 先回り(4)
合同練習は超スピードで開催された。どれくらい早かったかと言うと、二日で準備が整えられ、三日後の今日に実施されたほど。
提案した時点で、準備も同時に進めていたのは間違いない。モナルカは、こちらが断れないと確信していたらしい。当然か。この程度の機微を読めなければ、実力主義国家の皇族は生き残れないだろう。
実施場所は、学園内でも一番新しい
非公開も含めた場合?
二世代くらい劣っているかな。ここを建設したのは約二年前だもの。そんなに期間があれば、開発はかなり進むさ。技術漏洩は絶対に避けたいので、防衛問題がクリアしない限りは公開しないけど。
ロングゲームを想定して空間拡張を施しているため、この会場の収容可能人数は相当なものだった。たしか、限界まで詰めて七万人は入る。
だが、今や満員御礼だった。
何故なら、お互いの部員のみならず、部外者の学生たちへも公開しているからだ。しかも、学園長ディマの許可を得た者なら、学生外でも観戦可能と来ている。お忍びでウィームレイも来ているらしい。頭が痛い。
一般公開を提案したのも、当然ながらモナルカである。『
本来なら拒否するところだったんだけど、三つの事情があって受け入れた。
一つは、たくさんの観客を動員した試合は、ウィームレイが計画しているプロリーグの構想に役立つと考えたため。今後の展開に際し、良い参考資料となるだろう。
二つ目は、幼馴染み組や新入生組の練習にちょうど良いと判断したから。鍛錬の方はともかく、数回ほど行われる予定の試合は、彼ら五人の経験値に打ってつけだ。衆人環視での戦いに慣れていない面子だし。
最後は、『スペース』側の部長に土下座で頼まれたから。彼の話では、地方出身の一年を中心にモナルカの派閥――親帝国派が部内で形成されつつあるそう。
それだけでも大問題なんだが、さらに質が悪いのは、その派閥所属の一年が好き勝手に行動していることだった。かなり素行が悪いようで、何度も注意しているんだとか。
しかし、彼らはまったく取り合わない。モナルカの派閥に属していることを盾に、暴走し続けているよう。まさしく、虎の威を借りる狐だな。
不幸中の幸いなのは、そのバカどもが“モナルカ個人の後ろ盾がある”とは発言していないことか。あくまでも『皇子の金魚のフンです』と語っているだけ。まぁ、それもグレーゾーンだが。
また、素行不良といっても、大それた悪事は働いていないのも一因だな。先輩の言うことを聞かないとか、口や態度が悪いとか、そういった可愛らしい程度らしい。
――結論を述べよう。現状はかろうじて問題ない。でも、それがいつ崩壊するか分からないから、ここでオレの実力を知らしめてほしい。そう頼まれたんだ。
暴走しているのは、オレの戦う姿を目の当たりにしていない一年。誰を敵に回すのがマズイのか認識させれば、今回の綱渡りも終息すると考えたようだった。
他力本願との苦言は、当然伝えた。
そもそも、部長が負けなければ、問題は発生しなかった。相手が悪いという言いわけは通用しない。勝ち方はいくらでも考えられたはずだし、それがトップを預かる者の責務だ。
とはいえ、すべての責任を押し付けるのが酷なのも理解している。
だから、頼みを引き受けた。元々、他国の牽制は行いたかったので、渡りに船だったんだ。
長々と語ったけど、結局のところ、『オレの実力を改めて知らしめ、増長した連中の鼻を圧し折る』と言う話。難しいことではない。
大衆に技を見せてしまうデメリットもあるけど、そんなの合同練習相手にモナルカがいる時点で大差ない。元より本気で戦うつもりはないから、何の問題もなかった。
強いて難点を挙げるとすれば、
そして、その予想は正しかった。
開会式を終え、いよいよ合同練習が始まろうとした時。唐突にモナルカが演説用のステージに上がり、大声を上げた。
「ご機嫌よう、諸君。私はモナルカ・アルマハト・フォール・アンプラード第三皇子である!」
名乗りによって衆目を集めた彼は、そのまま胸を張って続けた。
「今回の企画が始まる日を、私は心待ちにしていた。トップを争うクラブ同士の交流は、お互いにとって実に良い刺激になると胸を躍らせていた。しかし、それだけでは、少々物足りないとは思わないだろうか?」
彼の派閥の人間だろう。『そうだ、そうだ』といった肯定の野次が聞こえてくる。
さらにモナルカは続けた。右手を強く握り締めて宣言する。
「ゆえに私は、合同練習の前に、エキシビションマッチの開催を提案する。対戦札は、私とフォラナーダ卿だ。帝国屈指と聖王国最強のマッチングは、必ずや諸君らを白熱させるだろう!」
予想外の展開に、観客たちと『スペース』の一部部員は多いに困惑していた。ざわざわと騒めきが広がっていく。
しかし、モナルカはその反応を一顧だにしなかった。彼の派閥組が熱烈に後押しし、トントン拍子でエキシビションマッチの準備が進められる。
まぁ、後押しがなくても、不足なく準備されたが。
「予定通りね。向こうが提案しなかった場合の対策もあったけれど、必要なかったみたい」
「ゼクス
「彼の性格なら、当然の流れだろう」
両隣に座るミネルヴァとオルカに、オレは肩を竦めて返す。
オレたちが座るのは、『アルヴム』側に確保された観客席だ。そこで、開会式から今までの流れを眺めていた。
他のメンバーは運営を頑張っている。オレたちだけお留守番なのは、爵位が高すぎるせい。裏方の仕事なんてさせられないと、『スペース』の部員に頭を下げられてしまったんだ。
補足しておくと、カロンは部長なので例外だ。
話を戻そう。
一連の会話より察しがつく通り、モナルカが模擬戦を申し込んでくることは、あらかじめ予期できていた。ゆえに、座して待っていたんだ。これこそ、相手の不遜を叩きのめす良い機会だから。
自ら自信満々に用意した舞台で、無様になす術なく負ける。もっとも惨めな敗北に違いない。
さーて、どう料理してあげようかな。
模擬戦の準備が整うまで色々考えていたら、何故か隣の二人がドン引きしていた。
二人だって『政治的に正しい』と賛同していたはずなのに、その反応はとても解せないぞ。
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