Chapter12-1 留学生(7)
放課後。学園の第四訓練場にて、予定通り模擬戦が開催される運びとなった。
場内には試合を行う当人たちの他に、オレたち八人と
新たな護衛の方は、
教師は一学年担当の者だ。
「こちらの申し出を受けてくださり、ありがとうございます」
訓練場の外縁、臨時で作成された観戦席に座って幾許か。隣の
オレは小さく首を横に振る。
「礼ならニナに仰ってあげてください。報酬をいただいてる以上、これは彼女の依頼も同然ですから。私は何もしていません」
「もちろん、ニナ殿にもお礼はいたしますが、ゼクス殿にも感謝しているのです。あなたがいらっしゃらなければ、この対戦は叶いませんでしたもの」
「そこまで仰られるのでしたら、素直に受け取りましょう」
世辞の範疇であると理解しつつも、オレは
それから、いくつかの言葉を交わした後、オレたちはニナたちへ視線を向けた。そろそろ、試合が始まりそうだったためだ。
それぞれが得物を腰に差し、五メートルくらいの間隔を空けて対峙している。離れたココからでも張り詰めた空気が感じられた。
「こ、これより、ゴシラネ準男爵殿と
恐る恐る内容を発表する教師。
今回は、ダメージ変換系の魔道具は使用しない。
まぁ、
一応、ニナには注意するよう伝えていた。彼女の実力なら心配はいらないと思うが、相手は魔力ゼロの未知。何が起こっても不思議はない。
【鑑定】ではレベル50と表示されているけど、信用ならないし。
この魔法は、オレの原作知識をベースに開発した術。魔力ゼロなんて原作外の要素が存在する時点で、まったく当てにならなかった。
「は、はじめ!」
全員の注目が集まる中、いよいよ二人の模擬戦が始められる。
先に動きを見せたのはニナだった。【身体強化】を発動して即座に抜剣。その剣先を右下に下げながら、さらに後方へ流した。当然、彼女の体も右斜めに寄る。
「脇構えか」
オレは口内で言葉を転がした。
左半身をあえて無防備にし、敵の攻撃を誘導する姿勢だ。一方、剣先が相手から遠くなるので、即応性に欠ける難点を抱える。
とはいえ、ニナには関係ないデメリットか。【身体強化】の前では、剣の位置程度は誤差である。
一拍遅れて、
「「……」」
睨み合う両名。息が詰まるような重い空気が
だが、その緊迫した状態も長くは続かない。
すり足と小刻みなステップを組み合わせた独特の歩き方で、瞬時にお互いの距離をゼロにする彼。
真正面より突っ込んでいる風に見えるが、あれは視線誘導を狙った歩法だな。フェイベルンの有する秘技に近い。遠くのオレたちには何の効果もないけど、目前の相手からは一瞬消えて見えるんだろう。
魔法という、お手軽な遠距離攻撃が存在するからか。この世界で剣技を極める者は、フェイントの類も極める必要があるのかもしれない。純粋な剣士なんて、ほとんど見かけないので、サンプルが圧倒的に不足しているけどね。ニナも魔法剣士だし。
さて、突っ込んでくる
フェイントには惑わされていない模様。あの手の技術への対策は、重ね重ね訓練を積ませている。引っかかるわけがなかった。
ニナは
そして、とうとう
そんな生半可な攻撃が、彼女に通じるわけがない。体を僅かに逸らし、ミリ単位の紙一重で回避してみせる。その後、下ろされた彼の手首に向けて、高速の斬り上げを繰り出した。
本気で攻撃したら、間違いなく両腕を斬り落としていただろう見事なタイミングだが、さすがのニナも模擬戦でバイオレンスを生み出すつもりはないよう。手加減した速度だった。
ただ、その手加減は『フォラナーダにとっては』の注釈がつくもの。素の状態で戦っている
「ッ!?」
彼は慌てて得物ごと腕を引っ込めるものの、完全には間に合わなかった。刀と剣、両者の刃が不格好な形で交差し、嫌な金属音を奏でる。
中途半端な姿勢で攻撃を受け止めたら、踏ん張りが利くはずもない。【身体強化】したニナの剣なら尚更。
およそ二十メートルは飛んだか。浮遊中に冷静さを取り戻したらしい
あんな派手にぶつかったのに、刀には刃こぼれ一つない。
よほどの業物か……いや、違うな。衝突の瞬間、ニナが折れないように調節したんだろう。王族関係者の武器を壊すのは宜しくないと判断したのかもしれない。
器用なマネをするものだ。オレなら、ぶっつけ本番では必ず失敗すると思う。
今の攻防のみで、ニナは
油断ではない。目前へ全力で当たるのではなく、余力を作り、それを不測の事態への保険にしただけ。技量を測ったくらいで気を抜くほど、柔な鍛え方はしていない。そんな奴がフォラナーダにいたら、全力の説教だ。
その後もニナと
見応えある剣戟ではあったんだが、明らかにニナが場をコントロールしていたんだ。
結局、十分ほどの斬り合いを演じた後、ニナは
「素晴らしい勝負でした!」
護衛の一人に終了を伝えられた
彼女は近接職ではないし、試合内容も見えていないから、この反応でも仕方ない。
そも、ニナが圧倒したからと言って、二人の健闘を称えないわけでもないし。
ただ、ペコリとお辞儀をするニナは、どこか釈然としない面持ちだった。
彼女の心情は理解できる。きっと、
その点はオレも同感である。何か奥の手を持っていると踏んでいたので、些か拍子抜けだった。
こちらが深読みしすぎただけか、今回は披露しなかっただけか。真相は謎だな。
僅かなモヤモヤが残ったが、無傷でニナの模擬戦は終了したんだ。今は彼女の活躍を喜ぶとしよう。
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