Chapter12-1 留学生(6)
教室では、予想通りの展開が待ち受けていた。ざわざわと騒がしい室内には、クラスメイトではない二人がいたんだ。
一人は
もう一人も予想通り。お尻まで届く長さの
彼女の名は、
何が特殊なのかというと、未来が視える――予知ができるのだと言う。しかも、かの国の女性の王族、その大半が有する能力なんだとか。
実に眉唾な話だ。そんな力を持つなら、とっくの昔に都市国家群をまとめ上げ、聖王国や帝国に並ぶ大国になっていても不思議ではない。
――と、少し前までのオレは考えていた。
だが、
銀髪はあり得ないんだよ。五属性以上を持つ黒と無属性の白が混ざり合う色なんて、普通なら実現できないものだ。魔力の方も、既存の属性とは異なる何かが感じ取れる。
未来を見通せるかは分からないが、少なくとも、
話を戻そう。
感情も同様。穏やかな波であり、何か裏がある風には窺えない。
歓迎パーティーで挨拶をした時と同様だ。穏やかで落ち着いた女性というのが、彼女より受け取れる印象だろう。漂ってくる香水と思しき爽やかな香りも、そのイメージを強くしている。
しかし、この場にいる時点で油断はできない。強かな面も持ち合わせていることは、ここまでの状況が物語っていた。
オレは内心でゲンナリしつつ、
「ご無沙汰しております、
「こちらこそお久しぶりです、フォラナーダ侯爵。ミネルヴァさまも、先日の歓迎会以来ですね」
「はい。お久しぶりでございます、殿下。こうして再びお会いできたこと、とても嬉しく感じております」
水の先を向けられたミネルヴァも、慇懃に挨拶をこなす。
すると、
「ふふっ、それは私も同じ気持ちです。ただ、フォラナーダ侯爵にも当てはまりますけれど、もう少し肩の力を抜いても構いませんよ。私たちは学友で、学園内は公の場とは些か異なりますから」
「ご厚意、感謝いたします」
「ありがとうございます、
「まだ固いですが……立場上、仕方ありませんね」
こちらの返答に若干の不満を溢しながらも、彼女は納得したようだった。
通常なら、ここから世間話に興じるものだが、
そういった事情を考慮し、多少のマナー違反は目をつぶって本題を問う。
「
向こうも、無理に長引かせるつもりはないらしい。気分を害した様子もなく、言葉を返す。
「すでに察しがついていると存じますが、『
予想通りの回答だった。
金銭を用意した上で王族が自ら申し出くることから、どうしても二人を戦わせたいんだと理解できる。
ワガママを聞き入れるほど
理由は定かではないけど、やはり断るのは難しいな。フォラナーダの権力でゴリ押しも可能だが、そこまでする必要はないだろう。無論、ニナが拒絶するなら、その限りではない。
チラリとニナへ視線を向ける。
彼女はコクリと首を縦に振った。事前の打ち合わせと変わらず、試合の申し出を受け入れるよう。
オレは小さく頷き返し、
「分かりました。その申し出を受けましょう。日時や場所は
「ありがとうございます。本日の放課後に第四訓練場ではどうでしょう?」
「問題ありません」
「では、こちらで場所を押さえておきます」
こちらの了承を受け、
その後、おもむろに立ち上がる。
「用事も無事に済みましたので、私たちは撤退いたしますね。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました」
彼女が去ると同時に、室内の空気が幾許か弛緩したように感じられた。
いや、実際に緩んだんだろう。方々でクラスメイトたちが大きく息を吐いている。他国の王族がいたんだから無理もないか。
「どう?」
不意に、ミネルヴァが短く尋ねてきた。
極限まで装飾を省いたそれは、まったく意味の分からない質問だ。だが、オレはキッチリ理解していた。
「あれは愉快犯だな」
彼女が問うたのは、
その回答が前述したもの。
というのも、オレと話している最中の
「まだ断言はできないけど、結構性格は悪そうだよ」
「たしかに、そういう気配はあったかもねぇ」
「マリナちゃんに同感」
対人能力の高いマリナやオルカも同意するのであれば、ほぼ確定だな。
この調子だと、模擬戦でも何か仕掛けているかもしれない。
「油断しないように」
「当然」
念のために警戒を促すと、ニナは『問題ない』と力強く返した。
まぁ、割と何でもアリの彼女なら、そこまで心配する必要もないか。
そんな風にオレたちが話し合う中、ふとカロンが溢す。
「女性の王族は、クセの強い方が多いですね」
想起されるのは、我が国の第一王女。
……うん、その言説は否定できそうにない。
ちなみに、そのアリアノートはギリギリになって教室へ到着していた。監視していた部下の話では、生徒会の仕事に忙殺されていたらしい。
『魔王の終末』後は、自分の処遇への対処に忙しく、生徒会の方は手が回っていなかったみたいだからな。
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