Interlude-Seira ルナティック(前)
私の名前はセイラ・イセンテ・ホーライト。聖王国王都にある孤児院出身で、好きなものは読書と恋バナ。でも、運動はちょっと苦手。そんな普通の女の子ッ!
……と、某魔法少女みたいな自己紹介をしてみたけど、虫唾が走るわね。こういうキャピキャピしたの、私には向いてないわ。
まぁ、内容に
――私には前世の記憶がある。魔法技術が発展したこの世界ではない、科学の発展した日本という国で暮らしていた記憶が。
とはいえ、あまり楽しい前世じゃなかったから、思い出すことも少ないのよね。誰が好き好んで、根暗な社畜OLの思い出を掘り起こすのかしら。
私が利用する前世の知識は、もっぱらこの世界に関するものだった。何せ、ここは前世の私がプレイしたゲーム――『東西の
オタク趣味のあった私は、勇聖記を何周もしたわ。レベル99まで上げるなんて序の口。縛りプレイも何のそのってね。
だから、ここが勇聖記の中で、主人公である聖女に転生した知った時は歓喜したわ。憧れのキャラたちと直に触れ合えるどころか、結婚まで目指せるんだもん。当然よね。
しかも、ゲームの主人公とは違い、私にはこの先の未来が分かる。それを活かさない理由はなかったわ。
五歳くらいまで成長した頃、私は早速動いた。転生といえば、知識チートよね!
といっても、孤児院育ちの子どもが手を出せる選択肢は、極端に絞られてしまう。あと、ゲーム世界だからか、マヨネーズを筆頭とした調味料系はすでに存在するし。まぁ、マヨネーズって意外と作るのが難しいから、そもそも選択肢に入らいないけどさ。
諸々を考慮して私が打ち出したのは、クラフト・コーラを作ることだった。前に市場へ顔を出した時、材料がそろっているのは確認済みよ。この世界、ソーダはあってもコーラはないの。
試作品を孤児院のみんなに振舞ったところ、大好評だったわ。これならいけると踏み、近日中に商人にでも売り込む計画を立てた。
ところが、現実はそう上手く運ばないみたい。孤児院にいた年上の女の子が、私よりも先に貴族へ売り込んでしまったのよ。どうにも、調理の様子を盗み見ていたらしい。
その事実に気が付いた時は手遅れだった。レシピを盗んだ子は、私を嘲笑いながら孤児院を出ていったわ。
悔しくて悔しくて、当時は数日ほど何も手がつかなかった。
しかし、しばらくして、ふと気づいたの。『あれ、コーラが市井に普及していない?』って。
さすがに不自然さを覚えた私は、孤児院の院長先生に尋ねたわ。コーラはどうなったのと。
本来なら、子どもの私には黙っているつもりだったのでしょう。でも、当事者自らの質問ということで、答えてくれたわ。
……正直、聞かなければ良かったと、今でも後悔している。
クラフト・コーラのレシピは、買い取った貴族が独占してしまったらしい。徹底的に技術流出を防いでいるようで、売り込んだ女の子も監禁されているとか。
この時、初めて封建社会の恐ろしさを実感した。貴族には絶対逆らってはいけないことは理解していたけど、所詮は知識に過ぎなかったんだと痛感した。立場の弱い孤児が下手に動くと、あっという間に潰されてしまうんだと、私は悟ったわ。
というか、気づくのが遅すぎた。ゲームでも、奴隷にされるバッドエンドがあったもの。聖女の役割が終われば、私には何の後ろ盾もないんだ。
それ以来、私は自粛した。ゲーム開始前に監禁エンドとか冗談じゃない。
表立って動けないのは仕方ないと割り切り、別の知識チートのみに集中した。当然、自己研鑽である。物心ついてから、魔力の鍛錬を続けているのよ。せいぜい、瞑想するくらいだけどね。
聖女に選ばれるまで、私は土魔法しか使えない。だから、そちらの技術を伸ばすと同時に、魔力操作の技を磨いたわ。
地道な訓練はモチベーションの維持が大変だったけど、懸命に努力した。これも、学園で攻略対象と出会うため。あわよくば、知識を活かして逆ハーレムを狙うため! 頑張るぞ、私ッ。
○●○●○●○●
月日が流れ、ようやくゲームのオープニング――学園入学を迎えた。入学前の試験はバッチリだ。これでも、前世では名門オセーダ大学法学部出身だったのよ。筆記テストの方は予想以上に難しかったけど、あの感触ならトップも狙えそう。
ゲームの光景が目前に広がっていることに興奮しつつも、無事に私は聖女に選ばれた。光魔法が覚醒し、髪の色も変化したわ。凝った演出なのはゲームで知っていたけど、自らの身に発生するのは妙な気分ね。
ただ、懸念事項が一つ。この世界には勇者も存在したことが気掛かりだった。ゲームでは両ルートは関わり合いがなかったから、どう影響するか読めない。
そも、私は勇者サイドを攻略したことがないのよ。ちょっと慎重に動かないといけなさそう。
まぁ、その辺は今考えても仕方ない。この後には、いよいよ入学時の成績順位を確認する時。そして、いよいよグレイ第二王子と、我が宿敵である悪役令嬢カロラインとのご対面。初イベントがとっても楽しみだわ。
……あれ? なんか、順位がめっちゃ低い。総合七位? 何で??
上位陣を慌てて確認する。その内容は混沌と化していた。何故か、悪役令嬢と私の親友キャラと攻略対象がベスト5入りしていた。どうして?
いえ、親友キャラ――ミネルヴァがランクインするのは良いのよ。ゲーム通りだわ。でも、他はおかしい。カロラインはギリギリでベスト10だったし、オルカきゅんも虐待生活のせいで成績は悪かったはず。この成績表は、意味が分からなかった。
何より、筆記も実技も総合も、すべての一位を総ナメしているゼクスという存在が異質すぎた。
どこから出てきたのよ、こいつ。フォラナーダってことは、カロラインの関係者? ……あー、そういえば、悪役令嬢には兄がいたような?
何周もやり込んだ私がうろ覚えならば、ゲームでは端役にすぎなかったんでしょう。それがトップって、どういう状況よ。
そんな風に頭を悩ませていると、同じく成績表を確認していた周囲の声が聞こえてきた。
それによると、ゼクスという人物は現フォラナーダ伯爵で、フォラナーダを一大都市まで盛り上げた実績を持つらしい。しかも、八年前に剣聖を下したなんて噂まで存在するとか。
「?????」
混乱の境地だったわ。フォラナーダ伯爵って、あの無能なデブじゃないの? 廃都同然だった場所が一大都市? 国内最強を下す?? すべてが理解不能だった。
しかし、混乱しながらも、私の思考は回った。回りに回って、一つの仮説を閃いた。
――もしかして、カロラインも転生者なのでは?
悪役への転生は、今やウェブ小説の定番である。その場合、元の主人公が返り討ちに遭うパターンも存在した。
自分の立場が危うい可能性が生まれ、私は戦慄した。一気に血の気が引き、どうしたものかと悩み続けた。
気が付けば、私は学園敷地内のいずこかに迷い込んでいたわ。
当然の帰結でしょう。この学園は無駄に広いんだから、ボーッと歩き回れば迷うに決まっている。まぁ、学園のマップは頭に叩き込んであるし、遭難エンドはあり得ないけどね。
結局、カロライン関係の悩みは解決せず、夕暮れを迎えていた。
「帰りますか」
これ以上は考えても徒労に終わりそうなので、一旦学生寮へ帰還しようと決める。
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