Interlude-ViewOfReader 神は覗いている。

本日より幕間を投稿いたします。

Chapter12の開始は2月14日の予定です。ご容赦ください。


――――――――――――――



 どこまでも広がる藍色の空間に、大小さまざまの白い立方体が無数に浮かんでいる。そして、あちこちの虚空に、A4サイズほどの透明な板が浮かんでいた。


 見ようによっては幻想的にも映るこの場所の名は『神座』。一つの世界群・・・の情報すべてが集まり、それら管理するために存在する超常の世界。世界群の中心と言い換えても良い。


 そんな人智の及ばぬ世界に、四つの人影があった。


 一人は黒髪黒目を有する美男子。名をダルクという。この世のモノとは思えないほどの美貌を持ち、凛とした雰囲気も相まって、惚れ惚れするほどの気高さが感じられた。


 一人は茶の髪と瞳を持つ美少年、ディナト。こちらもダルクに迫る美貌で、その顔に湛える穏やかな笑みは、すべての女性の心をワシ掴みにするだろう。


 一人はラビエルという、黄色の長髪と瞳の美女。その美しさは前述した二人と並ぶが、どこか気だるげな空気をまとっていた。


 一人は粗暴な雰囲気を感じさせる美女。ラディウスという名で、容姿のレベルは言をまたない。緑の短髪と瞳を有し、肉体は誰よりも引き絞られている。まさに、武人という言葉が適確だろう。


 彼らは神の使徒だ。この『神座』の主たる神に仕える者たちであり、その頂点に立つ四人。つまりは、神を除けば世界群におけるトップ4の強者だった。


 気が付けば現れていた円卓に、使徒たちは座る。それから、進行役であるダルクが口を開いた。


「定例会議を始める。まずは、以前に発生した第×××××××世界線での次元震について。担当はラビエルだったな」


「問題なーし。銀河一つが消滅したけどー、世界線自体はもう安定してるー」


「そうか。ならば、放置で良いな。次は、第××××××世界線の△△△△銀河と○○○○銀河を繋げるワームホールが発生した件」


「おれの担当か。△△△△銀河の連中がワームホール使って○○○○の方を侵略したっぽいけど、世界線に影響ねぇよ」


「分かった。そちらも放置で良いな。次は――」


「ぼくの担当案件ですね。第××××××××世界線で発生した新星爆発ですが、無事に終息しました。これから、新たな星々が生まれるでしょう」


「再生の見込みがあるなら、これも気に留める必要はないか。では、次の議題」


 ――と言った感じで、トントン拍子で会議は進められていく。


 しかし、その内容は途方もなかった。大体が世界規模の災害であり、小さくとも銀河単位。神の使徒ともなると、事件として扱うスケールの大きさが違った。


 また、そのほとんどが『放置』という結論に落ち着いているのも凄まじい。銀河が消えたり、世界全体が更地になっているのに、何もしないのだ。


 まぁ、それも当然と言えよう。彼らにとって大事なのは、世界群の運行に支障がないかどうか。世界線が一つ消えようと、他世界線へ悪影響が波及しなければ問題ないわけである。


 その後も粛々と進行していく使徒たちの会議。相変わらず人智を超えた問題を話し合っていたが、最後の最後でそのスケールが一気に小さくなった。


 というのも、


「では、最後。第×××××世界線・○○○○銀河・太陽系・地球における『黄金化問題』について」


 最低でも銀河単位で話していたにも関わらず、これだけは星単位の議題だった。心なしか、語るダルクの声音に渋いものが混じっている。


 対して、他三名の反応は様々だった。


「嗚呼。ついに終わったんですか」


「……」


「そんなもん、あったな」


 ディナトはやや興味深そうに、ラビエルは完全に無関心、ラディウスは問題自体を覚えていなかった様子。


 おおむね予想通りの反応だったため、ダルクは気にも留めず続けた。この案件は、彼の担当だったのだ。


「『特異点』の尽力により、ほぼ無傷で終わった」


「「へぇ」」


 実に簡潔な報告。だが、その内容は驚異的なものだった。少なくとも、神の使徒二名が強い関心を示すほどには。


「主の予知によると、魔法司なる世界システム干渉者が該当世界線を滅ぼし、周囲にも余波が広がるんでしたね」


「嗚呼。最初こそ星を滅ぼす程度の災害だが、徐々にその威力を上げていき、手が付けられなくなるはずだった」


「だから、その対策として、色々と小さな干渉をしたんですよね。たしか、第××××世界線に、疑似体験遊具をもたらしたとか?」


「加えて、転生者が誕生しやすいようにも調整した」


 ディナトの問いに、ダルクは淡々と返していった。


 ある程度の問答を終えた辺りで、ディナトは肩を竦める。


「遠回りな方法ですよねぇ。魔法司程度・・・・・、ぼくらの誰かが出張れば終わったでしょうに」


「基本的に、現地の生命に世界を委ねる。それが主の方針だ」


「分かっていますって」


 ギロリと視線を鋭くさせるダルクに、ディナトは両手を持ち上げて苦笑いを溢した。内心で『冗談が通じないなぁ』と愚痴を溢しつつ。


 それにしても、とディナトが続ける。


「『特異点』とやらは、よくもまぁ世界に損傷を与えず解決しましたね。事前に伺った資料では、ただの人間だと記載されていましたが」


「おれも興味あるな。人間でありながら、人外を圧倒する強さ。面白そうだ」


 追随したのはラディウスだった。茶の瞳を戦意でギラギラ輝かせている。


 彼女は戦闘狂だ。自分の本分を忘れるほどではないけれど、許容範囲内なら所構わず戦いを仕掛ける暴走娘である。人外を超える人間と聞けば、食いつくのも当然だった。


「私も詳細は知らないが、堕天使に師事をあおいだらしい」


「堕天使に? しかも、あなたでも詳細を把握できていないとなると……」


 ダルクの曖昧な表現に首を傾ぐディナトだったが、すぐに得心の表情を浮かべた。


 理解が及んだのは他二名も同じ。ラビエルは変わらず無関心だったものの、ラディウスは獰猛な笑みを浮かべた。


「『明星』かッ」


 嬉しそうに嗤う彼女は、その場より立ち上がる。そして、この場からも去ろうと踵を返した。


「待て」


 すぐさま、それを止めるダルクの声が響いた。神の使徒でなければ即死を免れないだろうプレッシャーを放ちながら、続けて問う。


「どこへ行く気だ?」


「『特異点』のところに決まってんだろ。腕試しだよ」


 ラディウスは怯まない。この程度で気を削ぐのなら、彼女は今日この日まで戦闘狂を維持していなかっただろう。


 この時点で、ダルクはラディウスを止めるのは不可能だと悟った。


 ゆえに、次善策を講じる。


「戦うなとは言わない。だが、もう少し待て。私が、最高のシチュエーションを用意してやる」


「……本当だろうな?」


 生真面目なダルクが、ラディウスの趣味に手を貸す。それは、大雑把な彼女でさえも疑いたくなる提案だった。


 ラディウスの半眼を受けても、ダルクは揺るがない。


「嘘は吐かない。お前が『特異点』と戦うのは、私にとっても都合が良いだけだ」


「何をしようってんだよ」


「――私は『特異点』を抹殺するために動く」


 ダルクの明かした内容は、この場の空気を一変させるには十分だった。曲がりなりにも穏当だったそれは、一気に殺伐としたものに変わる。


 それが顕著だったのは、今まで無関心を貫いていたラビエルだった。


「『特異点』は主のお気に入り。それを殺す? 本気で言ってるの?」


 のんびりした口調は鳴りを潜め、鋭く冷たい声音が響いた。


 対するダルクは、やはり揺るがない。いつも通りの冷めた無表情で、険の宿ったラビエルを見つめた。


「無論、本気だ。世界が安定した今、あれは新たな脅威に他ならない。放置など、言語道断だろう」


「でも――」


「安心しろ。主の許可はいただいている」


「……それを早く言ってよー」


 途端に、ラビエルの冷たい空気は霧散した。彼女にとって重要なのは、主の意思のみのようだ。


 それを見届けたダルクは、残る二名も見渡す。


「異論は?」


「ない」


 ラディウスは首を横に振った。彼女は、戦えれば満足なのだ。


 ディナトも『異論はない』と返す。ただ、言葉はそこで終わらなかった。


「『特異点』が危険分子だという意見は詭弁ですよね?」


「何?」


「『特異点』に嫉妬したから、滅ぼそうとしている。違いますか?」


 ここで嘲りが含まれるなら、ディナトの性格が悪いと判断できるだろう。


 しかし、彼はどこまでも笑顔だった。そこに余分な感情は見当たらず、そのせいで彼の真意はまったく読めない。


「……これにて定例会議を終わる。解散」


 ダルクは答えなかった。会議の終わりを告げ、即座に姿を消す。


 残されたのは三名――いや、二名か。ラビエルもいつの間にか消えていた。


 ラディウスは、気まずそうに溢す。


「あー……そういや、ダルクって『明星』にゾッコンだったんだっけ?」


 ディナトは頷く。


「ですね。子犬のように、後ろをついて回ってました」


「だから、嫉妬ね。ふーん」


「何かする気でも?」


「いや、全然。ダルクと敵対するのはゴメンだ」


「戦闘狂のあなたでも、ですか」


 そんなディナトの感想を受け、ラディウスは眉を曇らせる。


「言っとくが、おれは狂ってねぇ。戦いは好きだけど、ケンカを売っていい相手の見極めくらいはできる」


「やはり、最強の神の使徒は伊達ではありませんか」


「当たり前じゃねぇか。おれたち三人が一斉に襲い掛かっても、無傷で潜り抜ける奴だぞ。しかも、敵対者に容赦がない」


 とはいえ、『いつかは戦ってみたいけどな』と付け加える辺り、どう足掻いても彼女は戦闘狂だった。







 誰も与り知らぬところで、静かに脅威が動き出した。


 新たな展開に、世界は、神の使徒は、人々はどう動いてくのだろうか。


 ――その未来は、神さえも知らない。

 

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