Chapter11-5 妹(2)
黄金化の排除後、ノマは【
やることは終えた。残る敵はグリューエン一人。
オレは【
「ミネルヴァ」
東の果てにいた婚約者の迎えへと赴いた。
彼女は魔力回復のために瞑想をしており、その護衛として勇者ユーダイとリナも傍に立っていた。
オレの登場に目を瞬かせる二人だったが、ミネルヴァのみは即座に再起動を果たす。
「遅い」
「すまない」
道草を食っていたのは事実なので、素直に謝罪した。
ただ、彼女は即座に謝られるとは想定しなかったようで、若干目を見開く。その後、フンと鼻を鳴らしてソッポを向いた。
「ちゃんと間に合ったのだし、今回は許しましょう」
言葉こそ偉そうだけど、内側の感情はとても嬉しそうだった。これでこそミネルヴァだなと安心すると同時に、結構心配をかけてしまったことを申しわけなく思う。
まぁ、反省は後にしよう。さっさと問題を解決した方が良い。
オレは「ありがとう」と礼を言ってから、現状整理を始めた。
「カロンたちは、絶賛グリューエンと交戦中だ。光魔法師が三人もいるお陰で、戦況はやや優勢を維持してる。少なくとも、負ける心配はいらない」
「ニナは間に合ったの?」
「ニナ? ……嗚呼、そういうことか。ちゃんと合流できてるぞ」
「なら、良かったわ」
ホッと胸を撫で下ろすミネルヴァ。仲間想う彼女の姿は、見ているコチラも心が温まる。
ちなみに、背後のユーダイとリナが『マジで間に合ったの?』みたいな驚愕の表情を浮かべていた。気持ちは分かるけど、偽神化もできるニナなら、これくらい余裕だ。黄金化していたお陰で、全力疾走による周辺被害を気にしなくて良かっただろうし。
閑話休題。
「今からカロンたちの元に向かう。ここに寄ったのは、キミたちを回収するためだ」
「良かったわ。最後の最後に置いてけぼりだって、残念に思ってたのよ」
オレが今後の予定を語ると、ミネルヴァはそう
よく言うよ。未だ、総魔力量の半分しか回復できていないくせに。
それだけカロンたちが心配なんだろうが、もう少し自分を労わってほしいところだ。えっ、ブーメランだって? オレは良いんだよ、最強なんだから。
とはいえ、決戦前に回収しに来たオレも大概か。彼女がこう答えると分かっていたため、足を運んだんだし。
「じゃあ、行くか」
了承は得られたので、早速【
しかし、それは遮られた。
「ま、待ってくれ! 俺たちはどうすればいい?」
「……」
ユーダイが大声を上げ、リナがこちらをジッと見つめていた。
これは意外。彼らのことだから、てっきり有無も言わさず付いてくると考えていた。
そんなオレの内心を察したんだろう。ユーダイは僅かに唇を噛む。
「自分たちが足手まといなことくらい、今回の件で嫌ってほど痛感した。俺はみんなの平和のために戦ってるんだ。最後の最後で邪魔はしたくない」
「ふーん」
殊勝な勇者とか、ちょっと気色悪いな。いや、酷い感想なのは自覚しているけど、これまでの態度を知っているだけに、ギャップが激しいんだよ。
どういう心境の変化なのか。気にならないと言えば嘘になるが、結局は気にしないことにした。
だって、勇者だもの。東の魔王が消えた今、わざわざ面倒を見る義理はない。もっと仲良くなったら別だが、現状だとクラスメイト以上の関係ではない。
ゆえに、端的に答える。
「一緒に来い。結界は張ってやるから、その中で大人しくしておけば問題ない」
もう一度迎えに来る方が手間だ。というか、黄金化を解いた影響で、眠っていた人々も起き始めている。そんな場所に
これ以上の異論はなさそうだったので、オレはようやく【
転移先は世紀末の様相を呈していた。黄金化を解除したせいで、戦闘の余波に周囲が耐えきれなくなったんだ。元々石切り場だったそこは、更地へと変貌を遂げていた。
あれだけ大量にいた
現在は、カロンたち全員とグリューエンが直接戦っていた。
いや、カロン、マリナ、ユリィカ、聖女、アリアノートの五人は後方で待機しているみたいだ。実力不足のユリィカや聖女、アリアノートはともかく、何故に他の二人が? ……嗚呼、魔力が切れているのか。それなら仕方ない。
残るディマのみでは、攻め手として力不足らしい。総合戦力的にはみんなの方が高いけど、敵はほぼ無傷だった。
といっても、グリューエンも攻めあぐねている様子。オルカやシオン、ニナ、スキアの実力が圧倒的すぎるお陰で、防御以外の行動を起こさせていない。ノックバックや拘束を主軸に仕掛けている成果だな。無効耐性が貫けなくとも、戦い方は色々ある。
よし。状況の確認も終わったし、オレも動くとしよう。
ユーダイたちに結界を施した後、ミネルヴァを抱きかかえて、カロンたちの元へ跳ぶ。
「お兄さま!」
「王子さま!」
「ゼクスさま!」
「えっ、ゼクスさん!?」
「お待ちしておりました」
オレが傍に降り立つと、全員が各々の反応を示した。フォラナーダ組は『待っていました!』という感じ、聖女は驚愕一色、アリアノートは冷静沈着。
オレの存在を認めるや否や、カロンはすぐさま抱き着こうとした。
しかし、
「……何でミネルヴァが抱っこされているのですか? ズルイです!」
両腕に収まる人物を見て、地団太を踏む彼女。
対し、ミネルヴァは顔を真っ赤に染めて返した。
「し、知らないわよ。急に彼が抱えたんだもの」
「それをズルイって申しているのですッ。お兄さま、
「いいえ、ゼクス。しばらくはこのままよ。婚約者とのスキンシップが優先だわ」
「ッ!? ミネルヴァはもう良いでしょう? 交代してください!」
「お断りします。今は私の番」
何故か口論を始めてしまう二人。
カロンはともかく、ミネルヴァがストレートに欲望を言うなんて珍しい。……あっ、これはテンパっているだけか。急にオレが抱っこしたもんだから、めちゃくちゃ動揺しているんだ。
日常の一幕なら頬笑ましいんだけど、残念ながら今は戦闘中。オレは、二人の頭を軽く叩いて正気に戻した。
「「痛っ」」
「落ち着け。抱っこは、また今度だ。これからグリューエンを倒さなくちゃいけないんだから」
「も、申しわけございません、お兄さま」
「情けないところを見せたわね……」
シュンと落ち込む彼女たち。この様子なら、再度暴走する心配はいらないだろう。
「ハハハ。二人は相変わらずだね」
「それでこそ、とは思いますけど」
マリナとユリィカは、目を丸くしつつも苦笑を溢した。二人とも、カロンたちのケンカには慣れているからな。
一方の聖女は「本当に仲がいいんですね」と呆然と呟いていた。空気を読めない二人で申しわけない。
そこへ、アリアノートが声を掛けてきた。
「任されましたのに、何もできず申しわけございません」
どうやら、戦闘に参加できていないことを悔やんでいるらしい。色々引っ掻き回した責任を、少なからず感じているようだ。
オレは、ミネルヴァをその場に下ろしながら答える。
「気にしないでください。あのレベルの戦いなら、手を出せなくても仕方ありませんよ」
ディマでもギリギリの戦況。術式構築以外の能力が伴っていないアリアノートでは、歯が立たなくて当然だった。
元より、言い方は悪いが、彼女に戦力としての期待はしていない。オレが望むのは、ずば抜けた頭脳の方だ。
「それよりも、現状に対して違和感等はありますか?」
「……いえ、特には。グリューエンが何かしようとしているようですが、ことごとくオルカさんたちが阻止していらっしゃいますので」
「なるほど」
オレは交戦中の面々を眺めた。
確かに、所々でグリューエンの魔力が乱れている。それをみんなが逸早く察知し、妨げているのは間違いなかった。
オルカたちとの戦闘中にも関わらず、意識を逸らしてまで行うこととは?
深く考えるまでもない。自身の脅威を排除するために決まっている。それすなわち、光魔法の奪取だ。グリューエンは、魔法司の権能を行使しようとしているんだろう。
あの調子なら何も心配はいらないとは思うが、いつまでも様子見とはいかない。お互いに決定打不足なのは変わらないからな。
オレは、傍に立つミネルヴァに願う。
「ミネルヴァはみんなの護衛を頼む。あり得ないとは思うが、伏兵や漁夫の利は避けたい」
この場でまともに戦えるのはユリィカ、アリアノート、聖女セイラの三人。彼女たちには悪いが、少し物足りない戦力だ。
「まぁ、そうなるわよね。今の私じゃ、あの戦いに加われないわ」
悔しげな表情を浮かべるものの、ミネルヴァは反論しなかった。自己分析がしっかりできている証拠だ。魔力が全快していない彼女では、魔法司相手は荷が重い。
彼女の応諾を認めたオレは、いよいよグリューエンへと立ち向かう。
その一歩を踏み出す直前、カロンが声を上げた。
「お兄さまッ」
「どうした?」
怪訝に振り返ると、彼女は満面の笑顔で告げてきた。
「頑張ってください!」
最愛の妹による渾身の応援。これで燃えない兄がいるだろうか? いや、いない。
「任せておけ」
乱舞する心を抑え込み、オレは親指を立てた。
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