Chapter11-4 光魔法(8)
またもや、こちらが不利な状況での邂逅でした。何と運の悪い……いえ、もしかしなくとも、あちらの仕組んだ状況なのかもしれません。敵の良いように踊らされるなど、何とも不甲斐ない。
しかし、反省は後回しです。敵が目前に現れた以上、余計なことに思考を割いている場合ではありません。今考えるべきはグリューエンを退ける、または
現時点のまともな戦力は
本当はユリィカさんも戦力としては不十分なのですが、人手が足りないので仕方ありません。彼女の場合、グリューエン以外を相手にさせれば大丈夫でしょう。
そう。グリューエンとの邂逅イコール多対一とはならないのです。
「私が欲しいのは一人だけだから、他の子はこいつらと遊んでね」
グリューエンが指を鳴らすと同時、石切り場を囲むように
こちらには有効打がないにも関わらず、敵は延々と湧き出てきます。ジリ貧が確定している以上、正面衝突は避けるべきですね。
他の皆も、
『ボク、シオン
オルカの【念話】による指示のお陰で、全員の意志が統一されました。漠然としたイメージが明確化したため、より動きやすくなるでしょう。
こちらが闘志を燃やすのに対し、グリューエンはドン引きした態度を見せます。
「何それ。状況分かってんの? あ~、嫌だ嫌だ。これだから、無知な人間は下らないのよ」
呆れた風に
「まぁ、いいわ。あの下僕のお陰で全盛期の力は取り戻せたから、肩慣らしをしたかったのよ。相手としては十分すぎるわね」
それから、グリューエンは「行け」と短く告げました。
そのセリフに合わせ、周囲の
これらはスキアたちに任せる予定ですが、さすがに数が多すぎるため、
といっても、支障はありません。お兄さまの特訓の初期メンバーである
少しだけ、スキアたちの方が気になりました。
想定していたことですけれど、やはり
まぁ、杞憂に終わるでしょう。スキアの師は
身内の贔屓目を抜きにしても、スキアは魔法の天才です。天性のモノのみを考慮するなら、ミネルヴァに匹敵する逸材でしょう。
そのような彼女が、
察してはいましたが、彼女の狙いは
ともすれば、絶対に捕まるわけにはいきませんね。相手の思惑を達成させるなど、言語道断です。それに、お兄さまと会えなくなるのも許せないことです!
「【七星】」
先手はグリューエンでした。詠唱と同時に七つの光球が生まれ、彼女の周囲を飛び回ります。
指先ほどの大きさの球は、五秒程度経過すると爆ぜました。パチパチと線香花火のように、儚く煌めいて。
直後、
――【
とっさに最上級火魔法を発動します。
本来なら敵を捕縛するための術ですが、あれこれ考える余裕はありませんでした。一番強度の高い札を切るべきだと、
一瞬にして、高密度の炎が
困惑した様子を見せるシオンとオルカですけれど、それも僅かの間だけ。檻の展開とほぼ同時に、炎檻の一部が消滅したのです。
それは七つの小さな穴でした。数も大きさも、先程の光球と酷似しております。
要するに、【七星】という魔法が【
最上級魔法を容易く貫く威力とは驚きました。術の発動が少しでも遅れていれば、今頃
さすがは金の魔法司、と言ったところでしょうか。光魔法の特性を深く理解していらっしゃいます。速度と一点火力は、光魔法の最大の長所ですからね。
だからこそ、厄介な敵と言えましょう。速度において彼女には絶対勝てません。防御に関しても、全力で当たらなければ、あっさりと抜かれてしまいます。
ですから、この作戦を選ぶ他ありません。
『オルカ、シオン。
今いるメンバーで、もっとも防御に優れているのは
この事実は、他二人も理解していらっしゃるよう。こちらの【念話】に反論はなく、すぐさま行動を開始されました。
前衛としてシオンが突貫し、それをサポートするためにオルカが魔法を唱えます。
しかし、
「無駄だって」
グリューエンは嘲笑いました。
シオンやオルカの攻撃を無防備に受け入れたにも関わらず、その身には一切の傷が尽きません。無効耐性は依然健在でした。
それどころか、ノーダメージなのを良いことに、食い気味のカウンターを放ってきたのです。十本の光槍が即座に生成され、接近していたシオンに殺到しました。
とはいえ、敵へのダメージが通らないことは、こちらも承知していました。反撃も想定済みだったため、シオンは光槍をすべて回避してみせます。
その後も攻防は続きました。いえ、防御しているのは
結局、打開策は見出せていません。シオンとオルカが攻撃しながら隙を窺っているものの、敵は一向に油断する様子を見せませんでした。
一度逃亡を許してしまったので、いっそうの警戒をしているのかもしれません。登場時にも、『今度こそ逃がさない』と発言していましたし。
正直、このまま戦闘を続けても決着はつかないでしょう。どちらにも決定打が存在しないのです。
ですが、魔力には限界があります。呪いによって消耗が激しいため、長期戦が不利なのはコチラでした。討伐は無理にしても、この場からの離脱を目指さなくてはいけません。
シオンとオルカが攻撃し、グリューエンが一顧だにせずカウンターし、それを
すると、グリューエンが苛立たしげに叫びました。
「あー、もう! うっとうしいったらありゃしないッ。遊ぼうと思ったけど、全然つまんないじゃん。いいや、次で終わらせる」
現状維持を続ければ勝てるというのに、彼女は戦闘の流れを変えるつもりのようでした。あまり気が長いヒトではないみたいです。
これをチャンスと取るべきか、危機と捉えるべきか、難しいところですね。グリューエンが何を仕出かすのか、まったく想像ができません。
彼女の動きを警戒しつつも、攻撃を続行する
こちらの行動を全然意識せず、グリューエンは両腕を大きく広げました。そして、勢い良く腕を折り、パンと両手を叩き合わせます。
「【破滅の光】」
ゾッと、背筋が凍るような声音の詠唱でした。
直後、グリューエンを中心に光が発生し、周囲へ広がっていきます。尋常ではない速度で拡散していきます。
あの魔法が何なのか、
オルカやシオンも、同じ感想を抱いたのでしょう。焦った様相でこちらに合流し、そのままスキアたちの方へ駆けます。全力の【身体強化】のお陰で、何とか光が到達する前に集合できました。
何事かと驚いているスキアたちですが、説明している暇はありません。すでに光は目前まで迫っており、その向こう側は見通せませんでした。
「全力で防御魔法!」
オルカの大声とともに、
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