Interlude-Caron 弟子の成長(後)
「絶対に、イルネは離しません!」
【
スキアの身だしなみを整えてすぐ、
といっても、
……正直、不安で仕方がありません。道理を考えるとスキアに任せるしかないのですが、彼女の性質を知る身としては、不安で不安で堪りませんでした。
しかし、お兄さまが任せるよう仰った以上は、従う他にありません。
それに、転移前に「頑張ります」と口にしたスキアは、いつもよりも覚悟を決めた面持ちでした。師匠として、弟子の覚悟を信じましょう。
公爵家側には、転移前に【念話】で伝達済み。
「あ、あなたたちは!? あなたたちに、イルネは絶対渡しませんからねッ!」
全員の先頭に躍り出たスキアは、何度も深呼吸を重ねました。彼女の性格からして、こうやって矢面に立つだけでも緊張してしまうのでしょう。
程なくして、スキアは口を開きます。
「あ、あの――」
「あなたに、この子は渡さないわ!」
「えっと――」
「多少取り繕ったって騙されませんよ。子爵家の恨みを、この子にぶつけるつもりでしょう!」
「そのような――」
「絶対に、絶対に渡しません!」
取り付く島もないとは、まさにこのことでしょう。スキアが少しでも口を開こうものなら、それを潰すが如く叫声を上げるイルネの御母堂。彼女の必死さが窺えた。
これが母親というものなのでしょうか?
言い知れぬ違和感を覚えます。
きっと、イルネの御母堂が正しい姿なのでしょう。ここまで失礼な態度を取られているのに、お兄さまもスキアも「仕方ないなぁ」という呆れの空気をまとっておられます。怒りは皆無といって良いのです。
親というものへの認識を、真面目に改めないといけませんね。将来、
「イルネさまのお母さま!」
何と、スキアが大声を張り上げました。普段はボソボソとしか喋らない彼女が、です。
魔力を乗せたのか、彼女の声はよく通りました。軽い威圧効果をもたらしたようで、あれだけヒステリックだったイルネの御母堂も黙りこくります。
それを認めたスキアは、ゴホゴホと咳き込んだ後、言葉を続けました。
「あ、あなたさまの心配は理解できます。あ、あたしは決してキレイな格好ではありませんし、こ、公爵家にまったく恨みがないと言えば、う、嘘になります」
「なら――」
「ですが!」
吠えようとした御母堂を、スキアは再び大声で制しました。
「あ、あたしは光魔法師です。『陽光の聖女』を師とする医療従事者です。だ、誰かの命を預かる者として、譲れない誇りを持っております。そ、そのプライドにかけて、か、患者に無体なマネなどいたしません。あ、あなたさまの大切なご息女は、こ、公平に診察いたします。ど、どうか、ご息女の未来を守る、お、お手伝いをさせていただけませんか?」
どこまでも真っすぐな言葉でした。前いる彼女の顔を窺うことは叶いませんが、澄んだ瞳をしているに違いありません。
はたして、
スキアの力強いセリフの後、僅かに訪れる沈黙。それを破り、御母堂は震える唇を動かしました。
「……分かりました。診察を許しましょう。ただし、私の監視下で行いなさい。そこは譲れません」
「あ、ありがとうございます!」
どうやら、丸く収まったようですね。
光魔法師として、スキアは立派に成長しているようです。それがとても嬉しく思います。
その後、スキアによる治療が開始されました。
結果、治療不可として有名な先天性の病気と発覚しましたが、心配は無用です。何せ、光魔法ならば完治可能と判明していたものでしたから。しばらくは定期的に診察する必要はありますが、一年程度でそれも終わるでしょう。
その内容をスキアが公爵家側に伝えると、彼らは一斉に頭を下げました。公爵も、あれだけ拒絶していた御母堂も。泣きながら感謝しておりました。
あわあわとスキアは慌てていましたが、嫌そうな顔はしておりません。彼女も嬉しかったのでしょう。
色々とゴタゴタしましたけれど、終わり良ければ総て良し。ハンダールーグ家での一件は一段落です。めでたしめでたし。
余談。
今回の治療費は、公爵が迷惑をかけたと言って増額されました。その額は、
当然、それを聞いたスキアは引っくり返りましたよ。まだまだ、そそっかしさの抜けない弟子です。
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