Interlude-Gluhen 様子見
時系列は「遭遇(3)」~「遭遇(4)」の間くらいです。
――――――――――――――
王城内に存在する秘密の部屋。私――グリューエンの力によって隠蔽されたココには、私の許可を得た者しか足を踏み入れることは叶わない。
そこに一つの大声が響いた。
「あなたは何をやっているんだッ!!!」
「何だよ、もう。怒鳴らなくても聞こえてるってば。まったく、私が何をしたって言うんだ」
私は耳の残響に不快感を覚えつつも、億劫に返す。
しかし、この態度は、彼にとって宜しくないものだったらしい。さらに気炎を揚げてしまう。
「事態を悪化させることしかしてないだろうが! 僕は頼んだよな、あの化け物には会うなって。舌の根が乾かぬうちに戦闘しただなんて、いったいどうしてくれるんだ!!」
「うるさいなぁ」
声音の調子が崩れるほど叫ぶ少年には、さすがの私もドン引きだ。両手で耳をふさぎ、不愉快な戯言の遮断を試みる。いくら強い私でも、遮音の魔法は使えないんだよねぇ。正確には使えるんだけど、音以外も遮る結界になっちゃうし。
というか、彼の怒っている原因はそれか。『あの化け物』というセリフで、ようやく状況を把握できた。
化け物ことゼクス少年は、私の器候補の兄だ。これまでに私の配下たちの作戦をことごとく邪魔し、目の前のうるさい少年も警戒している相手。
そんな話を聞いて、私が大人しくしていると考える方がおかしいよ。私が好奇心の塊であることは、部下の誰もが知ってることだもんね。
……嗚呼、そっか。彼とは、出会ってから半年も経ってないんだっけ。それなら納得だ。
「ごめんね、忘れてたよ」
「何を――」
口うるさい少年に謝罪し、その額を人差し指で小突く。
指先がピカッと一瞬だけ光り、気がつけば少年は沈黙していた。目を虚ろにし、ポッカーンと中空へ視線をさまよわせている。
もっと早くこうしていれば良かった。少年がずいぶんと馴れ馴れしいものだから、昔からの共犯者と勘違いしちゃってたよ。認識に潜り込む魔法は便利だけど、こういったところは不便だよなぁ。しっかり他人との関係を覚えているなら苦労しないんだろうけど、私って自分以外にほとんど興味ないし。
「この子、どうしよっかなぁ」
私の部下たちが、時間をかけて仕立て上げた
ポイっと捨てたいんだけど、もったいなくも思う。国を滅ぼしたいなんて願う憎悪は、なかなか手に入らないもん。彼を使えば簡単に復活できるだろうし、安易には捨てたくないよね。
とはいえ、こんな口うるさいのを、いつまでも傍には置いておきたくないし。うーん。
「正直、
少年が暗躍してくれたお陰で、この大陸の呪詛が増えたのは確か。彼の一旦手放した研究が、多くの混乱を生んでいるのは喜ばしいこと。
でも、もはや少年は動きようがない。
要するに、少年は詰んでいるんだ。前後左右上下、どこへも向かえない。ただただ立ち尽くすしかない。無理に動けば、それこそ彼の恐れていた化け物に捕捉される。
「うん、潮時だね」
改めて考えると、彼と共にいるのは泥船に乗って心中するのと同義だろう。何も、ずっと一緒に行動しなくても良いんだ。必要になった時、美味しくいただけば良い。
それに、暗躍したくなったら
やっぱり、どう考えても、少年とは離れるべきだと判断できた。
であれば、早速調整しよう。
「【
未だ呆然とする少年の額を再度小突き、私の認識を消し去る魔法を唱えた。途端、彼は床に崩れ落ちる。
次起きた時、私のことは一切覚えていないだろう。
「【光還】」
転移の魔法で少年の体を移動させ、後始末はすべて終わった。これで、私を知るのは彼女しかいなくなった。
ふふふ、と思わず笑声が漏れる。
我ながら完璧な仕事だ。私以外だと、こうはいかないと思う。さすがは最強の魔法司である私!
この調子で、復活までもトントン拍子で行きたいところ――なんだけど、
「しばらくは大人しくしていた方が良さそう」
少年の忠言を受け入れたわけではないけど、ゼクス少年の動向が気掛かりなんだよねぇ。何せ、独力で私を認識できた人間なんだから。
私の認識阻害が効かないのは、同レベルの耀きを持つカロラインだけだと思っていた。だのに、彼はズカズカとその領域を犯してきたんだ。しかも、不意を突かれたとはいえ、私を一度退けている。
ああいうタイプは、得てして何かしらの秘策を持っている。もしくは、あの邂逅によって、何か奥の手を作り上げたかもしれない。
私が封印された際も、あの類の輩が作戦を練っていたと知っている。だからこそ、ここは様子見した方が良いだろう。
光輝く私に裏方なんて似合わないけど、封印されている時点で今さらね。細々した作業は部下たちに任せて、ギリギリまで腰を据えて待ちましょう。……嗚呼、何か新しい術を開発するのも良いかもしれないわ。
なに。封印された数百年に比べたら一瞬よ。残された時間は一年もないと思う。それくらい、私でも我慢できるわ。
待っててね、私を否定した世界。今度は、私が
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