Chapter8-3 歪な力関係(3)
頭を抱える彼女に、魔法を投げる。
「【
魔力を分け与える術を行使したところ、見る見るうちにガルナのケガは治った。魔法司は魔力体のため、魔力が増えるとケガも治るんだ。こういう時は便利と言える。
「ハァ!?」
ケガが一瞬で治ったガルナは、何やら
「な、何をしたんですか、ゼクスさま!?」
「何って、ただの【
何を驚いているんだろうか。【
「そこじゃないですよ! 何で【
「嗚呼、そこね」
得心した。
魔力とは、個人差の大きいエネルギーだ。属性の違いは当然、密度や魔質という遺伝性質もある。規格の異なるものを譲渡する以上、どうしても与えた分が100パーセント相手のモノになるわけではないんだ。たしか、従来の【
ただし、オレの場合は違う。ノマへ魔力を渡すノウハウを活かし、独自に【
その辺りを伝えると、ガルナはワナワナと肩を震わせる。
「化け物っスか!?」
「失礼な。オレは人間だよ」
「そうですよ、ガルナ。人間を辞めているのは、あなたの方でしょうに」
「そうですけどぉ、そうなんですけどぉ。この釈然としない気持ちを理解してほしいッ」
ガックリとその場で四つん這いになる彼女。
悪いな。同情はするけど、諦めてくれ。
「さて、感想戦やるか」
話が一区切りしたのでオレがそう口にすると、ガルナが半眼を向けてくる。
「切り替え早すぎないですか?」
「時間は有限だからな」
「はぁ。分かりました」
彼女は水筒――シオンが用意したもの――を一飲みしてから、姿勢を正す。
「ゼクスさまがお聞きしたいのは、無効耐性の貫通能力の程度でしたっけ?」
「そうだ。万が一、金の魔法司が封印を破った場合、対処できるのがオレしかいないからな。有効な手札を増やしておかないといけない」
――そう。もしも原作通りに聖女が魔王の封印を補強し直せなかった場合、面と向かって戦うのはオレしかいなかった。
元々は、無効耐性の関係ない光魔法師たちが適役だと考えていた。特に、魔王のレベルに追いすがれるだろうカロン辺りが有力候補だった。
しかし、それもダンジョンを攻略する前の話。魔法司の詳細をダンジョンやガルナより仕入れた今、その選択が最悪だと知ってしまった。
というのも、魔法司は、担当する色のバランス調整を行う権利を有しているんだ。具体的に言うと、自在に魔法適性を付与したり奪ったりできる。つまり、
インチキすぎるだろう。他属性は無効にしつつ、無効にならない自属性は自由自在にコントロールできるなんて。魔法を司る存在と豪語するだけはある。
インチキ云々を愚痴に溢したところ、ガルナは呆れた声を上げる。
「あたしは、ゼクスさまのほうがインチキだと思いますけどね。何で無効耐性を突破できるんですか? 無効って言葉の意味を調べ直したくなりましたよ……」
「そりゃ、前々から対策を研究してたからな。封印中のアレを調べれば無効耐性の概要は掴めるし、今は目の前にも優秀なサンプルがある。これだけ揃っていて、何もできない方がおかしい」
「何かできる方がおかしいですよ」
「それは同意ですね」
即答で反論されてしまった。しかも、シオンまでも首肯する始末。
解せぬ。問題に対して策を立案し性能を向上させていくのは、人類の専売特許だと思うんだけどなぁ。
まぁ良い。今はガルナの批評の方が大事だ。
「で、実際のところ、どうなんだ?」
「十二分、魔法司を殺せるレベルだと思いますよ」
「倒すのに要する時間は、どれくらいが想定される?」
「あ~……ゼクスさまの戦い方次第ですが、最低でも一時間は見積もるべきかと。グリュちゃん、あれでも金魔法の使い手ですから」
「……回復されることも考慮しなきゃダメか」
「はい。それに、グリュちゃんって、下僕を作り出して戦わせる戦闘スタイルなんですよ」
「壁を作って、後衛に徹するのか」
「そんな感じです」
「なるほどな……」
敵の手札を知れたのは大きいけど、問題は山積みだな。一時間も費やしてしまうと、いくら攻撃の余波を軽減しているとはいえ、何かしらの悪影響が世界に及ぶかもしれない。最低でも三十分は切りたいところだ。
課題点は、貫通能力の向上と余波の削減。あとは、ガルナの情報を元に、対・金の魔法司の戦術を組み立てることか。最悪、露払いはカロンたちに任せた方が効率良いまである。
オレが色々
「あの、もうあたしは戻っていいですかね?」
「んあ? 嗚呼、いいけど、用事でもあるのか?」
もう
ガルナは嬉しそうに頷く。
「はいッス! テリアやマロンとお食事なんですよ」
「へぇ、仲良くやってるんだな」
マロンはともかく、テリアにはずっとガルナの監視を命じていた。ただ様子を見るだけの仕事とはいえスパイには変わりなく、もしかしたら友情が崩れるかもしれないと罪悪感があったんだが、彼女の態度を見るに問題ないらしい。
「テリアが監視員だったってのには驚きましたけど、それとこれとは別ですよ。彼女が友だちとして接してくれてたのは本当でしたし」
「大人なんだな」
「これでも長生きですから!」
そう胸を張るガルナ。
だが、それはすぐに崩れ去る。
「大人なら、普段の仕事も真面目に取り組んでほしいものですね」
「そ、それとこれとは別ッスよ、先輩」
「口調!」
「は、はい!」
シオンには頭が上がらないようで、ぺこぺこと弱腰になる彼女だった。
どこか憎めないヒョウキン者なところが、彼女たちの友情を保っているんだろうな。
「魔法司全員が、ガルナみたいな奴だったら楽なのに」
いや、それはそれで大変か、とオレは苦笑いを浮かべた。
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