Chapter7-5 魔法司(3)

※2022/12/15

紫の魔法司の名前を変更しました。


――――――――――――――



 魔法司とは、魔法を司る者の総称である。各“色”ごとに一人が担当し、この世界に定着する知的生物の“色”の管理を行う。


 管理業務は多岐に渡る。世界を巡る“色”の運行管理およびバランス調整、知的生物への“色”の付与、“色”の過多による災害の鎮静、ダンジョンの整備などなど。


 魔の深淵を求めて世界に従属した彼らは、それらを実行する義務を背負うことになるのだ。


 その代わり、魔法司は“色”の支配者だ。担当する“色”の頂点ゆえに、世界の理の範疇であれば、あらゆる魔法を行使可能となる。知識欲の強い彼らにとって、何よりの褒美となろう。




 中略。




 魔法司に至る方法とは、肉体のすべてを世界に捧げることである。各自の定めた“色”へ己が全身を提供すれば、その者は魔法司と至る。


 ただし、定員は同色に一名のみ。すでに魔法司が座する席には、どう足掻いても座ることはできない。それが、この世界に決定された摂理である。


 関連項目 / 儀式魔法 魔眼




 中略。




 現魔法司一覧。


 赤:プラーミア・ヴェルデ


 青:レヴィアタン・ルーシュウェ


 茶:アイナ・ヒゥロント


 緑:アネモス・クローロン


 金:グリューエン・リヒト


 紫:メガロフィア・クラボ


 白:空位






◇◆◇◆◇◆◇◆






 システムメッセージ。


 エラー。金の魔法司が全世界の“金”を徴収。色のバランスが崩壊。


 エラー。紫の魔法司が世界中の“紫”を増大。色のバランス崩壊が重症化。


 対案。両名の封印。


 エラー。著しい“金”の低下。


 対案。金精霊の創造中断。


 エラー。全魔法司。業務放棄。


 対案。魔力の運行に支障なし。ダンジョンの稼働を省エネに移行。




 中略。




 エラー。魔素および魔力の純沌のバランス崩壊。金の魔法司の仕業と断定。


 対案。なし。




 中略。




 エラー。“白”の局所的増大を確認。


 エラー。“白”の増大止まらず。


 対案。『明星』による始末。ただし、こちらの指示に従わない可能性大のため、慎重に誘導されたし。


 エラー。“白”の増大止まらず。


 エラー。“白”の増大止まらず。


 エラー。“白”の増大止まらず。


 エラー。エラー。エラー。エラー――――








○●○●○●○●








「うわぁ」


 ザっと目を通した後、気まずい声を漏らした。


 最後のエラー、完全にオレが原因だよな。『明星』というのも、おそらくアカツキのことだろうし。知らないうちに世界のバランスを壊していただなんて、ゾッとしないよ。


 不幸中の幸いと言うべきか、ケガの功名と言うべきか。システムメッセージの最後の方に『対案。今後の“白”の供給停止』と記されていたので、おそらくバランス調整はされたんだと思われる。


 表現から察するに、今後、無属性の人類は生まれないという感じかな? 迫害される者が減るし、精神魔法の普及が遅れると考えれば、良い落としどころだったかもしれない。結果論にすぎないけどさ。


 いや、本当に、このダンジョンが優秀で良かった。でなければ、今頃世界がどうなっていたか分からない。


 自己強化をやりすぎた? うーん、でもなぁ。ここまで鍛えたからこその今だし、それこそ結果論な気がする。


 ……たらればの話をしても不毛だな。今は未来のことを考えるとしよう。


 ちょくちょく分かりにくい表現はあったけど、おおよそ魔法司が何たるかは理解できた。大雑把に言うなら、魔眼の上位互換といったところだろう。瞳以外――全身を代価に支払うことで至れる極致と予想できる。しかも、オレの魔眼のように一時的ではなく、永続的な代償だ。


 血を捧げて魔力を手に入れ、目を捧げて魔眼を手に入れ、すべてを捧げて魔法司へと至る。言葉にするとシンプルな流れだが、やっていることはハードだった。まさに、ヒトを辞めるわけなんだから。


 とはいえ、色々と納得もした。自分で言うのも何だけど、オレは結構魔法を極めている。それなのに、魔法司とやらに至れていないのが不思議だったんだ。単純に前提条件が違ったのなら、到達できないのも当然である。そも、人間を辞めるつもりはないし。


 アカツキが魔法司の情報を得ていないのも同様だ。彼は、この世界に定着した存在ではない。たぶん、世界と契約する資格もない気がする。だから、それらに関する知識とは無縁だったんだろう。


 当たったら嬉しい程度の期待だったが、想像以上の成果だった。すべてが判明したわけではないけど、今回得た情報は、今後の対策の糧になる。


 まぁ、いくつかの疑念も。同時に湧いてしまったのは難点か。


 一つ。属性魔法を“色”と表現していること。呼び方が変わっただけとも取れるけど……これに関しては、ミネルヴァの協力が必要かもしれない。帰ったら実験しよう。


 一つ。魔族セプテムは、西の魔王のことを『光の大魔法司』と呼称していた。しかし、大魔法司なんて単語は、ダンジョンの情報端末には一切存在しないんだ。“大”を頭につけている理由が不明なのは、些か不穏なモノが残る。


 一つ。他の魔法司の行方。アカツキ曰く、遥か昔に姿を消したらしいが、データを見る限り、未だ存命らしい。しかも、青の魔法司は、かの有名な魔女レヴィアタンと来た。


 アレがそんな昔から生きていることにも驚いたが……他の魔法司の動向にも注目しなくてはいけないだろう。原作で登場しなかったとはいえ、現実でも出張ってこないとは限らない。


 うーむ。解決した謎もあるけど、結果的に考察や対策すべき案件が増えたような? まだまだ、オレは休めないようだった。


 小さく溜息を吐きながら、端末を操作した。


 すると、すぐ隣の床が発光を始める。


 この光に乗れば、地上に帰れる仕組みだ。正確には、ダンジョンの出入り口に転移できるギミックだな。最奥へ到達した者は、ダンジョン内を自由に移動できるよう。


 やっと帰れる。


 オレは放置していたマリナたちを抱え、光る床に乗った。


 波乱のダンジョン探索は、様々な謎をもたらしながらも無事に達成した。

 

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