Chapter7-4 少女たちの献身(2)
宿に戻ったのは
「全員そろったし、対策会議を始めたいと思います」
新入りのスキアさん以外は、オルカの心情を察している様子。ですが、指摘するような野暮なマネはしません。オルカはオルカで、前へ進もうと努めているのでしょうから。
彼は肩を竦められます。
「対策会議なんて物々しい表現はしたけど、現段階で新たな情報も指令もないんだよね。ゼクス
「この街はアリアノート殿下や勇者、聖女たちに任せて、私たちは残りの二万を殲滅するのね?」
ミネルヴァが改めて確認を取ると、オルカは深く頷かれました。
「うん、他の街を見殺しにはできないからね」
彼らの言うように、
「ただ、フェイベルンの一部はあっちに貸し出すから、その分だけボクたちの負担は増えると思う。その点は留意してね」
まぁ、そこは仕方のないことでしょう。一騎当千の
すると、オルカが「嗚呼、もう一つ」と続けます。
「魔獣の群れは、想定よりも早い段階で散ってしまってるんだ。だから、グループを複数に分けて、各個撃破してもらうよ。組み合わせは今から教えるね」
ディジョットを除く戦地は三ヵ所。それらを
そこへ、スキアさんが控えめに挙手します。
「あ、あああ、あの、あ、あたしは、どど、どうすれば?」
この場にいる者で、唯一名を呼ばれなかった彼女は
「スキアさんはまだ修行中の身だから、さすがに前線へは出せないよ。今回は、ディジョットの救護施設で光魔法師の腕を振舞ってほしい」
「わ、分かりました」
「他に質問はあるかな?」
オルカの問いかけに対して、皆は沈黙で返しました。
それを受け、彼は大きく頷かれます。
「よし。時間も限られていることだし、早速繰り出そうか。何なら、ゼクス
さぁ、蹂躙の時間の開始です。
○●○●○●○●
学園の宿を後にし、
スタンピードのせいで街中は大混乱でした。老若男女すべての住民が、避難所へ我先に向かおうと押し合っています。一部では暴力を含むケンカも発生しており、非常に治安の悪い状態でした。
普段なら止めに入るところですが、今の
しかし、何ごとも、思った通りに進むとは限りません。
地上の大渋滞を避け、民家の屋根屋根を飛び移っている最中でした。不意に、
――幼い少年少女が路上で転んでしまい、そこへ無理やり人混みを突破しようとする馬車が飛び込んできたのです。このまま放置すれば、まず間違いなく幼い二人は死んでしまうでしょう。
先程、
逡巡は微塵もありませんでした。
ギリギリでした。あと少しでも判断が遅れていたら、救助が間に合わなかったでしょう。
安堵に胸を撫で下ろし、抱きかかえて回収した幼子二人を地面へ下ろします。
何が起きたのか判然としていないようで、少年少女はポッカーンと間の抜けた表情を浮かべていました。
無理もありませんね。あれほどの速度で動ける人類は、【身体強化】を十全に扱えるフォラナーダの面子だけでしょうから。
慌ててコチラへ駆けつけるシオンの気配を感じながら、
「お二人とも、ケガはありませんか?」
「えっ、う、うん。大丈夫」
「わ、わたしも」
コクコクと首を縦に振る二人。念のために【診察】の魔法も行使してみましたが、本当にケガは負っていないようです。良かった。
「カロラインさま。飛び出す際は、お声をかけてくださらないと……」
子どもたちの無事を確認し終えた頃、背後へ降り立ったシオンが苦言を呈してきました。
「申しわけありません。ですが、一刻を争う事態だったのですよ」
「それは存じておりますが、カロラインさまに万が一があっては困ります」
「以後気をつけます」
「本当に気をつけてくださいね?」
これは信用されていない感じですね。いえ、日頃の行いからして、致し方のない反応ではありますが。
苦笑を溢した後、
質素な服装ながら解れや破れがないところから、おそらく孤児院出身の子たちなのでしょう。背格好より、少年の方が兄で少女が妹だと判断できました。
ただ、驚いたことに、その妹の方が金髪だったのです。神々しく目映い金色をしており、思わず目を細めてしまうほどでした。直感ではありますが、彼女には大きな光魔法の才能がある気がします。
「街中は危ないですから、お家に帰りなさい」
「でも、魔獣が街を襲うってッ」
少年が怯えた様子で叫びますが、
「魔獣の牙や爪が、あなたたちに届くことはありません。そのために、
「おねえちゃんたちが戦うの?」
今度は少女が口を開きました。不思議そうに小首を傾げていますね。
まぁ、無理もありませんか。パッと見ただけだと、
「ええ、
胸を張って答えると、それが心に響いたのか、少女は一際瞳を輝かせました。
「おねえちゃん、わたしと同じ色だよね。わたしも強い魔法使いになれる?」
嗚呼。同じ光適性持ちのため、興味を持ったみたいですね。
「優しい心を持って、努力を欠かさなければ、きっと強くなれますよ。頑張ってください!」
「うん、がんばる!」
両の拳を握り締める少女の姿はとても頬笑ましいものでした。
「ほら、早くお家に帰りなさい。
子どもたちには【ライトコクーン】を付与したので、魔法の直撃を受けない限りは安全でしょう。
二人は「ありがとう!」と異口同音に謝意を示し、人混みの奥へと消えていきました。
「さて、先を急ぎましょうか」
「はい」
どうやら、行軍が些か遅れたことについては、あまり怒っていないみたいです。小言を言われるくらいは覚悟していたので、安心しました。
その後は一切のトラブルなく、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます