Chapter5-2 クラブ活動(6)
ここで一度、
このゲームは五対五のチーム戦で行われる。定められた舞台を駆け回り、相手メンバーを倒していくのが基本コンセプトだ。
それぞれの
戦闘系のゲームゆえに、普通に戦えば大ケガ必至になってしまうが、当然ながら対策は立ててある。
要するに、各々の
細かいレギュレーションや特殊ルールなどもあるんだけど、今回はベーシックルールらしいし、気にする必要はない。
「楽しみですね」
観戦席に腰を下ろすと、隣に座るシオンが声を掛けてきた。
元は背後に控えていた彼女だったけど、オレが無理に座らせた。授業中でもないんだし、これくらいは許されるはずだ。
周囲には見学に回った部員たちもいるけど、気にしない気にしない。
シオンの言葉に、オレは頷く。
「そうだな。カロンたちの圧勝は間違いないだろうけど、気になるのは誰がどの
現在、
一つは『赤魔法師』。遠距離魔法特化の役職で、魔法攻撃への制限がない代わり、移動力は低く、防御は薄く、HPゲージも低い。固定砲台としての役目が主だ。
一つは『青魔法師』で、支援魔法特化の役職。攻撃ではからっきしで射程も短めだが、
一つは『紫魔法師』。こちらも支援系だが、青とは真逆の
一つは『緑魔法師』。移動力が高く、防御もそれなりある代わり、魔法方面に制限が大きい。スピードアタッカーを担う役職だ。
一つは『茶魔法師』。こちらは赤の真逆と言えよう。防御力とHPゲージが高い代わり、魔法の射程がとても短い。魔法を使えたとしても、自己強化や防御が精々だ。主に
簡潔に表すと、魔法アタッカー、
通常ならば、ミネルヴァが赤、カロンが青、オルカが紫、ニナが緑と割り振り、あまった茶にマリナがつく。
でも、それではあまりにも強すぎるため、まったく異なる配役にしていると思われる。
「ミネルヴァさま、カロラインさま、オルカさまのうち二人が、前衛職につくでしょうね」
「おそらくな。ニナが後衛職は確定だ」
本職が分かり切っている面々は、それとは正反対の
「問題はマリナだよなぁ。活躍させる風なことは言ってたけど」
修行中の身であるマリナがどの
ショートゲームかつ素人の対戦のため、どんどん試合が始まっては終わっていく。
そして、ついにカロンたちの出番がやってきた。
「うわ、マジか」
「思い切りましたね」
誰がどの
まさかの、マリナ以外前衛である。カロンとミネルヴァが『緑魔法師』でオルカとニナが『茶魔法師』。肝心のマリナは『赤魔法師』という配役だった。
確かに、同じ
とはいえ、彼女らの思惑は察しがつく。
発展途上のマリナを活躍させようとなれば、どうしても他のメンバーが邪魔になるんだ。前衛寄りのニナでさえ、現時点ではマリナよりも魔法の腕が達者だから。
加えて、マリナは実戦経験も少ない。敵の前衛職に距離を詰められると対処できない確率は高かった。
ゆえに、マリナのみを後衛に配置し、他全員で守ることにしたんだろう。圧倒的実力を持つからこそ、多少の不利を無視できるからこその陣形だった。
これを見て、対戦相手はどう対応するか見物だなぁ。
オレは、少し間を置いて登場した対戦相手へ目を向ける。そして、天を仰いだ。
「何て引きしてるんだよ……」
ステージの反対側に現れた連中は、よりにもよって聖女一行だった。
主人公である聖女、グレイ第二王子、本の虫のジグラルド、騎士バカのエリックという、そうそうたる顔ぶれがそろっていた。最後の一人は見覚えがないため、数合わせのメンバーだろう。
彼女たちがこのクラブに訪れていたことは知っていたが、あれだけの人数がいて当たるとは思わなんだ。聖女とカロンは戦い合う運命だというのか。
「止めますか?」
オレの陰鬱な表情を見て、シオンがそう提案してくる。
「……いや、様子を見よう」
数秒の逡巡した後、首を横に振った。
あまり良い巡り合わせとは言えないが、たかがゲームで敵対しただけである。楽しみにしていた彼女たちの心情を考慮すると、無理に止めたくはない。
ただ、いざという時は行動に移せるよう備えておこう。
オレたちは、先程まで以上に集中して、舞台の方を観察する。
お互いのスタート地点はかなり離れているため、対戦相手が誰なのかは判明していない。だから、今のところ何も起きていない。問題は、試合中に激突してからだな。
聖女側の
型通りの聖女陣営と型破りのカロンたち。さてはて、どういったゲーム展開が待っているのやら。
いよいよ、
最初に動いたのはカロンたちだった。
というか、ほぼ前衛の彼女たちは先手を取るしかない。遠距離攻撃手段がマリナしかいない以上、一気に距離を詰めて相手の後衛を潰すのが最善手だ。
移動特化の『緑魔法師』であるカロンとミネルヴァが【身体強化】に任せてダッシュ。山林に入り込んだ。
様子が見えなくなるけど、心配はいらない。そういった目の届きにくい場所には【遠視】系の魔道具が設置されているようで、観客席からはシッカリ確認できた。設備費の文字が頭を過るけど、オレは
木々の間を駆け抜ける二人の姿は、生粋の後衛魔法師とは思えぬ動きだ。軽やかに身を躍らせ、目にも留まらぬ速さで聖女陣営へと接近していく。
この辺も修行のたまものだろう。後衛だからと言って、立体機動の訓練を妥協したりはしなかったからな。お陰で、運動がやや苦手な部類であるミネルヴァも、立派に戦士らしく動けている。
他の三人も前進していた。
一方の聖女たちは定石通りだな。
だが、それは前衛特化のカロンたちには悪手だろう。
何せ――
「
突然、一つのアナウンスが流れた。
見れば、カロンがその拳でグレイを殴り飛ばしたところだった。ラッシュをまともに食らってしまい、一瞬で彼のHPゲージは削り切られていた。
相当恐怖を感じたようで、グレイは腰を抜かして涙目になっていた。
また、相手がカロンと気づいたせいか、キョロキョロと周囲を見渡している。たぶん、オレを捜しているんだと思う。あいつ、六年前の決闘以来、オレを怖がって避けていたもの。教室でも、絶対に目を合わせようとしなかった。
話を戻そう。一連の流れで理解できただろうが、斥候を単独で出せば、前衛過多のカロンたちに集団でボコボコにされるに決まっていた。
彼女たちを攻略するなら遠距離攻撃でチマチマ削るか、チームで一塊となって突撃をかますかの二通りがベスト。
っと、カロンがグレイを相手している間に、ミネルヴァが聖女たちに接敵したな。
今回のミネルヴァは、オーソドックスな片手剣を装備していた。【身体強化】に加えて、風魔法による加速も付与している模様。文字通り、風となって聖女たちに突撃した。
彼女は一番厄介な
カキンという甲高い音を鳴らし、ミネルヴァの剣とエリックの盾が衝突する。
接触は一瞬だった。ミネルヴァは、本職ではない自分に鍔迫り合いは不利だと判断し、すぐさま踵を返す。そこから、ヒットアンドアウェイを繰り返した。
無論、我に返った他の面々も加勢に入った。聖女が各々へ適した強化を施し、『紫魔法師』がミネルヴァへ弱体を付与し、ジグラルドが速射性能の高い魔法で応戦する。特に聖女とジグラルドの練度は、同学年の中では上位に入るものだろう。
しかし、その程度で止まる彼女ではない。多少速度は落ちたものの、十二分に驚異的なキレある動きで彼らを翻弄した。
とはいえ、攻め切れていないのも事実か。近接戦闘が不得手ゆえに、本来の実力では圧倒していようと持ち堪えられてしまっていた。
エリックの動きがとても良く、上手く攻撃を往なされてしまっているのも一つの要因だな。彼は彼で、後衛を守らなくてはいけないから、万全に動けているわけではないが。
【身体強化】のギアをもう少し上げられれば突破も容易いだろうけど、
まぁ、その均衡も
ジリ貧かと思われた戦場は、次の瞬間には激変した。木々の間より突撃してきたカロンによって、エリックが遠く殴り飛ばされてしまったために。
ギリギリ盾で防いだらしく、彼自身は脱落していない。だが、守るべき対象から大きく離されたのは致命的だった。
前衛のいない後衛ほど、もろい存在はない。その隙を見過ごすカロンとミネルヴァではなく、二人は瞬く間に残る三人のゲージを削った。一瞬すぎて、全員がボケっと呆けてしまうくらい。
最後のエリックも――
「【アクアフォール】、【アクアフォール】、【アクアフォール】、【アクアフォール】、【アクアフォール】!!!」
突如として降り注いできた大量の水に圧し潰され、反撃の暇なく脱落した。
今のはマリナの中級水魔法だ。最後の最後で射程範囲まで辿り着き、エリックに攻撃を仕掛けたんだ。
というより、マリナたちの方へ吹き飛ぶように調整して殴ったっぽいな、カロンの奴。
そういうわけで、見事な連係プレイによってカロンたちが大勝利を収めた。聖女とジグラルド、紫魔法師の彼は、あっという間すぎて現実を受け止め切れていないみたいだけども。
「……律儀な奴だな」
ふと視線を感じれば、水たまりの中央に立つエリックが、こちらへ一礼していた。
彼の家は、少し前まで当主不在によってゴタゴタしていたんだが、エリックが潰れるのを避けたかったオレは、仲裁をウィームレイに任せたんだ。
その甲斐もあり、エリックは今も学園生活を謳歌できている。加えて、ウィームレイ派閥にも引き込めた。まさに一石二鳥である。
こちらへ感謝の念を送ってきているエリックを見るに、ウィームレイが何かを吹き込んだな。十中八九、オレが仲裁を頼んだことを教えたんだろう。まぁ、こちらに不都合がないのなら構わないけどさ。
波乱を予想した
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