Chapter4-3 誘拐犯(3)
学園長との話し合いを終えた後、当初の予定通りに寄り道を敢行した。【
はたして、その寄り道先とは――
「予定通りだね。待っていたよ」
「お邪魔します、ウィームレイ殿下」
ウィームレイ第一王子の私室だった。つまりは王城の中である。
オレの挨拶に、彼は若干眉をひそめた。
「殿下はやめてくれと言ったではないか。私とキミの仲だ。遠慮はいらない」
「そうもいきませ……分かりました、分かったよ。これでいいか?」
断ろうと口を開いたところ、ウィームレイに思い切り睨まれてしまったので、意見を翻す。
今のやり取りから察しがつく通り、オレとウィームレイは友人と呼べるまで仲良くなった。六年間も一蓮托生で他派閥と戦ってきたのだから、当然と言えば当然。オレに至っては、同年代の友だちさえいないからな。……自分で言っておいて悲しくなってきたよ。
「今日は何の用だい? キミのことだ、ただ遊びに来たわけではないのだろう」
軽い雑談を交えた後、ウィームレイが切り込んでくる。
さすがは我が友、オレの性格をよく理解している。
オレは頷いた。
「まあな。学園でのトラブルの報告がいくつか」
「おいおい。まだ入学して三日ではなかったか? 相変わらず、キミはトラブルに愛されているなぁ」
「誠に遺憾ながら」
ハハハと笑声を溢すウィームレイに対し、溜息を吐いた。オレにとって、笑いごとではないんだよ。
気を取り直して、この三日間の内容を説明する。主に
「今代の勇者殿は、なかなかユニークな人柄のようだね」
めちゃくちゃオブラートに包んだ発言だが、ウィームレイの頬は些か引きつっていた。人類の平等を
「で、そのマリナという少女は囲っちゃうのかい?」
「我が友は脳にダメージを負う病に侵されたらしい。この国の先は暗いな」
どこをどう聞いたら、そのような結論に至るんだ。オレはちゃんと説明したぞ。状況的に庇護下に入れるしかなかったと。
すると、ウィームレイは肩を竦めた。
「酷い言いようだね」
「当然の反応だ」
「と言っても、キミにはシオンくんの前科があるではないか。結局、未だに彼女からは好意を寄せられているんだろう? そして、キミ自身も満更ではない」
「むぅ」
それを指摘されると何も返せない。
彼に言われた通り、シオンのことは、もはや受け入れていると言って良かった。この六年間、変わらぬ好意を示され続けたら、どんな朴念仁でも絆されるというもの。
カロンの件があるため、それが終わるまでは本人に告げるわけにはいかないけど、そのうちに告白の返事をするつもりでいる。
こちらが黙り込んだのを見て、ウィームレイはニヤニヤと腹立たしい笑みを浮かべる。
「照れたキミをシオンくんに見せてやりたい。さっさと返事をしてあげたら良いのに」
「うるさいな。目的を果たすまで、他に注力するわけにはいかないんだよ」
「毎度その返しを聞くが、自分や彼女の気持ちを無視してでも守らなくてはいけないことなのかい?」
「これだけは譲れない」
オレは即答した。
カロンの死ぬ運命を覆す。それが十六年来の悲願である。たとえ一時的にシオンの心を傷つけてしまうとしても、その信念だけは曲げられない。
『これを為せば救われる』という正解が決まっているのなら、まだ恋愛に気を割く余裕もあったんだろうけど、ないものねだりをしても仕方がなかった。
「シオンも理解してる。今はこのままだ」
「まぁ、キミら二人が納得しているなら文句はないさ。それよりも、今の問題はマリナという女性だろう」
「そこに戻るのか……」
「当たり前さ。シオンくんと違って、
「そうだな」
惚れさせてみせる、なんて宣言するくらいだし。実際は、推しアイドルを前にした限界オタクみたいになってるけど。
「であれば、一度は腰を据えて話した方が良い。お互いにとって、それがベストのはずだよ」
「……かもしれないな」
思いのほか真面目なアドバイスに、オレは首肯するしかなかった。
確かに、女子寮より連れ出して以来、きちんと話し合っていない。あの時は突然のことだったし、彼女とはしっかり向き合うべきか。
「ふふっ、ゼクスは昔からモテモテだね。うらやましいよ」
「そっちの方が上だろう。学園での人気は高かったと聞いてるぞ」
ウィームレイの病弱だった面影は、すでに過去のものだ。呪いより解放された後、オレやシオンが協力して考案したプランにより、彼はどんどん健康体に戻っていった。ムキムキとまではいかずとも、今では平均的な体格を得ている。
元より顔立ちが良かったこともあって、学生時代は相当モテモテだったらしい。
「私の王族という肩書きに惹かれた者も多かった。それに、私は婚約者にさえ愛されていれば、それで良い」
「相変わらず、お熱いことで。熱愛のあまり、第二夫人以降と揉めごとは起こしてくれるなよ?」
一人の女性を愛するのは素晴らしいけど、王族貴族は一妻では済まされないんだ。ドロドロとした争いに巻き込まれるのは御免被る。
「分かっているよ。そのうち決まるだろう二人目以降にも、きちんと愛は注ぐさ」
「なら、いいけど」
そこで一旦、会話が途切れる。
数拍ほど間を置いた後、ウィームレイが口を開いた。
「話を戻すが……学園生が誘拐されているという話だったか」
「そうだ。手掛かりがまるでない」
「私の在学中にも起きていた事件とは、とても恐ろしいね。協力したいところだけれど、こちらにも有用な情報はないな。申しわけない」
「いや、気にしないでくれ。念のため報告したにすぎないからさ」
こう言っては悪いが、フォラナーダの諜報員が得られない情報を、王家の諜報員が手に入れているわけがないんだ。両者の実力差は言うまでもない。
ふと、彼は呟く。
「そういえば、とある噂話を耳にしたな」
「噂話?」
「学園の一件と関係あるかは知らないが、獣人奴隷が値上がりしているらしい」
「嗚呼」
それは事実だった。オレも報告を受けている。何でも、王都内の獣人が片っ端から購入されているんだとか。そのせいで獣人奴隷が品薄になって高騰しているんだ。
購入先は王都外の商家で、特に問題のある店ではない。
……いや、待て。報告書を読んだ際は気に留めなかったが、わざわざ物価の高い王都で買うなんて不自然だ。こんな違和感を、何で気にしなかったんだ?
認識を操作された?
一つの嫌な予想を考えつき、背筋が凍りつくような感覚を覚える。
もう一度、奴隷関係は洗い直した方が良いな。
とりあえずは【念話】で部下たちに指示を出し、経過を待つことにする。何やらキナ臭さを感じるけど、今のオレにできることは少ない。
オレの焦燥とは裏腹に、週末まで大きな問題が発生することはなかった。
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