Interlude-Caron 愛を知る彼女(前)

あけましておめでとうございます。

今年も、私と拙作ともども、よろしくお願いします!


――――――――――――――――



 わたくしの名前はカロライン・フラメール・ユ・サリ・フォラナーダと申します。伯爵の長女で第二子。親しい者はカロンと呼んでくださいます。以後、お見知りおきを。


 自画自賛になってしまいますが、私はとても恵まれています。整った容姿、伯爵令嬢という立場と財力、光魔法適性という才能。あらゆるモノを私は所有しています。天は二物を与えずと世間では仰るらしいですが、私の場合は別でしょう。


 ――そう自惚れてしまいそうになるほどの環境に、私はいました。


 ですが、私はそれらに溺れることはありません。


 何故なら、私には、私の中で最大の恵みであるお兄さまがいらっしゃるのですから。


 ゼクスお兄さま。私よりも天才で、私と同い年とは思えないほど聡明な頭脳と確固たる精神をお持ちのお方。私の先を歩む彼がいる以上、私が現状に満足するはずがありません。


 物心ついた頃から、私の傍にはお兄さまがいました。あのお方は常に私についていてくださり、愛を語ってくださり、大切な物事を教えてくださいました。


 特に、お兄さまによる物語の読み聞かせは楽しみでした。特に、『ミト公爵』という物語は好きでした。ノブレスオブリージュを体現したようなストーリーには、いつも心が躍ったものです。私も、かの公爵同様に誇り高くあろうと思えました。


 それに、それをお兄さまにお伝えした際、とても喜んでくださったのを覚えています。お兄さまも、ミト公爵の誇り高い生き方がお好きのようでした。であれば、なおさら目指さなくてはなりません!


 私とお兄さまは、ずっとずっと一緒にすごしていきました。たまに、魔法の研究に夢中になられてしまうのは寂しいですが、それも私の将来のためらしいので、グッと我慢します。


 魔法といえば、私が魔法を上達させた時も、お兄さまはとても喜んでくださいます。新しい魔法を唱える度に頭を撫でてくださるため、そのご褒美を期待して鍛錬を積んでいます。


 光魔法だけは、皆に黙っているよう言われてしまいましたが、お兄さまと離れ離れになりたくはありません。絶対に、絶対にですッ!!!!


 とはいえ、お兄さまの傍でなら訓練して良いそうなので、問題はありません。むしろ、お兄さまの傍にいられる口実ができて嬉しいくらいです。


 今後も精いっぱい魔法の鍛錬を行いますので、ぜひぜひお褒めくださいお兄さま!









○●○●○●○●









 お友だちができました。しかも三人!


 ちょっと乱暴ですが、頼りになる――お兄さまほどではないですけど――ダンさん。大人しい性格ですが、誰よりも慎重で頭の良いターラちゃん。いつも元気いっぱいで、こちらまで明るくなれるミリアちゃん。城下町で生活をしている子供たちです。


 ダンさんとターラちゃんはご兄妹だとか。


 でも、私とお兄さまの関係とは大きく違うようです。ダンさんはお兄さまほどターラちゃんを気にかけていらっしゃいませんし、ターラちゃんも私ほど兄を慕っていらっしゃいません。嗚呼、もちろん、お二人はお互いに愛情をもって接していますよ。私たちほどではない、というだけです。


 以前、「お兄さんと一緒にいなくて寂しくありませんか?」と尋ねたら、逆にいくつかの質問を返されてしまい、最終的には「カロンはおかしい」と断言されてしまいました。解せません。


 同い年の子たちと遊ぶのは、とても楽しいです。もちろん、お兄さまとすごすのが一番ですが、その次にランクインするくらい大切な時間です。私がお友だちと仲良くするとお兄さまも喜びますし、まさに一石二鳥です。


 正体を隠しているのは心苦しいですが、私の立場を知ると迷惑がかかるそうなので、仕方がありません。いつか明かす機会が巡ってきたら、きちんと謝罪したいですね。





 ところが、そんな楽しい日々にも邪魔が入りました。何やらチャラチャラした格好の男たちが、私たちをさらおうとしてきたのです。


 応戦はできませんでした。偽りの姿で火魔法を発動すれば不自然すぎますし、一撃で全員をほふるのは難しそうだったためです。失敗すれば、ダンさんやミリアさんに危険が及ぶのは目に見えていました。


 でも、その危険は、すぐにお兄さまが取り払ってくれました。


 上空より降り立って男たちを蹴散らすお兄さまは、とても格好良かったです! 嗚呼、何でこの描写を絵に残せないのでしょうかッ! 惜しいです、惜しすぎます!! もったいないのです!


 最後の最後で、お兄さまの手助けができました。お兄さまも喜んでくださり、ハグまでしていただけました。うへへ、大満足です。






 ただ、その日から、ダンさんの様子が少しおかしくなりました。普段は変わりないのですが、私と話す際だけよそよそしいような……?


 私が貴族だと知って、遠慮しているのでしょうか。だとしたら悲しいです。


 妹のターラちゃんなら何か分かるかもしれないと考えて相談したところ、「問題ない、放っておいて大丈夫」と言われてしまいました。溜息を吐きながら。


 何か粗相でもしてしまったでしょうか?


 まぁ、大丈夫と仰っていらっしゃいましたし、気にしても仕方ないのでしょう。


 ――あっ、お兄さま!









○●○●○●○●









 このまま、ずーっと二人ですごせたら良いなと思っていましたが、現実はそう甘くありません。どうやら、私たちに新しい兄弟ができるようです。


 少し……いえ、ものすごくモヤモヤした気分になりました。本人に相対して、その気持ちはいっそう強くなってしまいました。お兄さまにも心配をおかけしてしまって、心苦しい限りです。


 何とか仲良くしようと試みましたが、モヤモヤが邪魔します。どうしても素直になれません。


 幾日かすごすうちに、この気持ちの正体が判明しました。嫉妬です。私は、オルカに嫉妬していたのです。


 二人だけの兄妹に割り込んできて、事情が事情だからとお兄さまに気にかけてもらえる。そのことに、強く妬いてしまっていました。


 もちろん、彼が養子に入るのは必要なことだと理解はしています。でも、感情が追いつきません。





 ある日、お兄さまがお茶をしようと誘ってくださいました。


 以前のように、オルカもいらっしゃると警戒していたのですが、今回は正真正銘の二人っきりのようでした。


 些か驚いていると、いきなりお兄さまが謝罪し始めました!? えぇぇ、何ごとですか!? いえ、そうではありません。謝らないでください、お兄さま!?


 その後、私は心のうちをお兄さまに語りました。とても恥ずかしい行為でしたが、お陰で気持ちが軽くなったように思います。


 お兄さまも、今後は私との時間をしっかり作って下さると約束してくださいましたし、終わり良ければ全て良し、というものでしょうか?


 お兄さまとの語らいもあって、オルカとも自然に接することができるようになりました。まだまだぎこちない・・・・・ですが、次第に打ち解けられると嬉しいです。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る