Chapter1-5 内乱(7)

昨日、ブックマーク1000超えと☆300超えを達成いたしました。

読者の皆さま方には感謝の念が堪えません。ありがとうございます!

これからも、拙作をよろしくお願いいたしますッ。


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 状況はブラゼルダの報告通りだった。


 村は完全に焼け落ちており、敵の戦力はすべて領城に集まっている。ビャクダイ側は投石などで反撃を試みているものの、あまり効果は表れていなかった。乗り込まれるのも時間の問題だろう。


「盛大に引っ掻き回してやりますか」


 オレの口から、成人男性・・・・の声が発せられる。


 今のオレは、冒険者シスの姿をしていた。今回の内乱で、オレの実力をさらす気がないんだ。


 理由はいくつかあるが、目立ちすぎないためと自分を隠し玉にするという点が大きいか。


 内乱の介入によって、フォラナーダは様々な勢力より注目を集める。その際、光魔法のカロンに加えて、オレが強いと知られるのは刺激が強すぎるんだ。


 ただでさえ、光魔法使いの誕生は話題性が大きいというのに、無属性使いが強いなんて情報まで流れたら、周囲へ与える影響が計り知れない。凝り固まった常識を崩された者たちが、どのように暗躍するか予想できなかった。


 ゆえに、身分を偽る。フォラナーダに雇われた冒険者シスとして参戦し、オレの存在を隠すことに決めた。


 そして、オレの実力がバレないのは、秘密兵器として扱えることになる。


 今後、カロンは色々な勢力より狙われるだろう。だが、無能だと思われているオレが傍にいれば、警戒されずに敵を排除できる。


 敵を狩るのに、楽ができるに越したことはなかった。


「そのお姿、やはり慣れませんね」


 突入のタイミングを見計らっている時、隣に立つ騎士が溢す。


 誠実そうな雰囲気をまとったメガネの青年は、騎士団の副団長だった。団長のブラゼルダとは対極で、実直な性格をしている。


 今回の攪乱の同行役に、彼は抜擢されていた。オレとしては、平団員だけでも良かったんだが、さすがに領主の息子を平団員には任せられなかった模様。


「敵と間違って斬るなよ?」


「善処します」


 オレが冗談交じりに言うと、副団長も肩を竦めて返してきた。


 真面目ながら、茶目っけも見せられるらしい。良い性格をしている。そうでもないと、あの団長の下では働けないのかもしれないが。


「さて、そろそろ動こうか」


 敵兵が、良い具合に一箇所へ集中してきたので、作戦を開始しようと思う。


 発動するのは【威圧】。射程範囲は探知術並みに広いけど、近いほど威力は上がるため、もう少し近寄ろう。


「接近しながら魔法を放つ。オレが魔法を放った後は、各自適切な判断をするように」


「「「はい」」」


 騎士たちの返答を認め、オレは走り出す。


 敵の感知範囲ギリギリで隠れていたので、即座にこちらの存在は発見された。


 しかし、それでは遅い。十倍の【身体強化】を施しているオレは、一足飛びで前線まで駆け抜けた。


 それから、敵が未だ構えられていない間に、準備していた【威圧】を全力で発動する。魔力の波は、敵兵のことごとくを呑み込んでいった。


 ――効果は抜群だった。【威圧】を受けたほとんどの敵は、その場に崩れ落ちた。人の大群が目前で一斉に倒れ伏すさまは、海を切り開くモーセの気分だ。


 精神力が強いのか、幾人かの敵兵が残っていたけど、その辺りは捨て置いて良いだろう。【威圧】の効果はしっかり発揮されているようで、彼らの膝は笑っている。もはや戦える状態ではなかった。


 やはり、一番の障害はアレだな。


 オレは、倒れる敵兵たちの真ん中で立ち止まる。


 次の瞬間、眼前を埋め尽くす炎の波が襲いかかってきた。


「ッ!?」


 とっさに展開した魔力壁によって防ぐが、炎の威力のすさまじさが伝わってくる。素で食らっていたら、間違いなく炭になっていた。


 たっぷり十秒ほど攻撃は続き、視界が晴れる。肉を限界まで焦がした風な異臭が漂い、黒焦げた炭のカケラが宙を舞った。


 目前の光景は、様変わりしていた。周囲に散乱していた敵兵の大半は黒々とした炭に変貌し、ボロボロと崩れている。戦場というよりも、家屋が全焼した火災現場といった方が適当だった。


 生き残ったのは十程度か。味方もろともとか、噂通りの狂戦士バーサーカーっぷりだよ。


 オレは呆れ混じりに、炎の元凶へ視線を向ける。


 前方三十メートル先――領城の門前に、その男はいた。


 燃え盛る臙脂えんじ色の髪に淀んだ草色の瞳。一見すると爽やかそうなイケメンだが、その顔に湛える笑みは狂気に染まっている。


 ヴェッセル・アイルール・ガ・フェイベルン。ビャクダイ侵攻部隊の将であり、聖王国で知らぬ者はいないと評されるほどの戦闘狂い。さらには、聖王国で十本の指に入る強者だというんだから、手に負えなかった。


 彼はその細身には似つかわしくない、体躯と同等はあるバスターブレードを肩に乗せ、嬉しそうに語った。


「へぇ、僕の一撃を耐えたのか。今回の仕事は味気ないと思ってたけど、なかなか楽しくなってきたじゃないか」


「全然楽しくなんてないっての」


 対するオレは、げんなりと呟く。


 予定通りとはいえ、あの戦闘狂にロックオンされたのは嫌で仕方ない。カロンたちが襲われるのはもっと・・・嫌なので、頑張るしかないんだが。


 背後より足音が聞こえる。どうやら、副団長たちが追いついてきたらしい。


 ようやく来たかと思いかけ、首を振った。


 【身体強化】の向上には一番力を注いできた。二、三年前ならいざ知らず、今のオレに身体能力で追いすがれる者なんて、そうそう存在しない。逆に、追いつくのに一分もかからなかったことを褒めるべきだろう。


 オレはヴェッセルから目を逸らさず、背中越しに副団長たちへ命令を下す。


「お前たちは他の敵兵を処理しろ。巻き込まれないように注意しろよ」


「……分かりました。ご武運を」


 副団長が代表して答える。


 ヴェッセルとの対峙は理解していたようで、そそくさと場を離れていった。


「そろそろ、いいかな?」


 少し間をおいて、ヴェッセルが問うてくる。


 オレは肩を竦めた。


「思ったより行儀がいいんだな」


 噂に聞く彼の素行やゲーム上での発言などから、問答無用で襲ってくると考えていた。


 すると、彼は歯をむき出しにして笑う。


「強者との戦闘は、純粋に楽しみたいんだよ。余計なことへ気を削いでほしくないのさ。相手が他者の存在を気に留めてしまうというなら、それらが撤退するまで喜んで待つさ」


「なるほどね」


 ヴェッセルは、求道者寄りの戦闘狂だったらしい。これはゲームでも読み取れなかった事実だった。所詮は道中のボス級というだけで、深掘りされないからなぁ。


 まぁ、戦闘狂には変わりなく、オレにとって陰鬱な戦いなのも変化していない。


 溜息を堪え、オレは短剣二本を構えた。


 それに合わせ、相手も心底嬉しそうに大剣を構える。


「我が名はヴェッセル・アイルール・ガ・フェイベルン。汝を強者と認め、尋常に決闘を申し込む! さぁ、戦いを楽しもうじゃないかッ」


「オレの名はシス。依頼遂行のために押し通らせてもらう! せいぜい吠えてろよ、戦闘狂ッ」


 生死を懸けた戦いの火蓋が、今この瞬間に切られた。

  

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