第26話 セシリア、宿屋にて……

 俺たち3人は手を繋ぎながら目的の宿屋へと向かっていた。ふと、空を見れば俺たちを照らしていた太陽はもう隠れ、星が見え始めている。


 今日も1日長く感じたな……


 俺の身体は疲労からか身体がいつもより重く感じていた。


「フール大丈夫? 疲れてそうだけど?」


 それが顔に出ていたのかセシリアに心配されてしまった。


「大丈夫、少し疲れを感じただけだから」


「そう……」


 俺は少しだけ強がりを見せた。それから暫く歩き続け、ようやく目的の宿屋へと辿り着くことができた。国が予約を入れてくれたその宿はバールの国のどの宿屋よりも大きく、1泊の宿泊費は普通の宿屋の10倍の値段のする高級店だ。王族や貴族などが泊まる宿屋にセシリアは尻尾を振り早く入りたそうにしている。パトラも口を開けて目を丸くしている。


「こんな高いとこに泊まるだなんてどどど、どう言う事だぞ⁉︎ はっ! まさか……オイラのお財布から出そうって考えなんじゃ……」


 パトラは自分のがま口の財布を俺たちに見せない様に隠す。


「違うよ、王様が俺たちの為にここを用意してくれたんだよ」


「ナンデデスカ?」


 もう意味がわからないと言わんばかりに言葉が片言になるパトラ。俺たちは今までのことをパトラに説明をすると情報の処理ができず、気を失ってしまった。


 あらら……


 俺はパトラを抱っこして、宿の中へと入る。

 宿のフロントの床にはふかふかの絨毯が敷かれており、フロントの奥から綺麗な身なりをした茶髪の女性が出迎えてくれた。


「ようこそいらっしゃいました! フール様のパーティですね? 今日は色々あってお疲れでしょう。当店、今日はフール様達だけの貸切となっておりますので明日の朝までしっかり身体をお休みになって下さいね」


 嘘だろ……この宿が俺たちで貸切だって? 貸切となると数万G……いやいや、考えないでおこう。それにしても王様も粋な計らいをしてくれる。民が慕うのも分かる。


「それではお部屋へご案内します」


 そう言って俺たち一人一人に部屋を用意してくれており、俺たち3人にはスイートルームを提供してくれた。清潔感溢れる広い部屋にダブルベッドが置いてあり、これを1人で使用することができるのだ。


 気絶したまますやすやと眠るパトラを部屋に寝かせ、俺とセシリアも自室に入った。

 俺は道具を置いて、ローブを脱いで部屋に備え付けられていたチュニックへと着替える。そしてそのままベッドへと横になった。ダンジョンの時とは比べ物にならないふかふかのベッドがとても心地が良く、今にも眠ってしまいそうだった。





 一方、セシリアは装束を脱ぐと、部屋に備え付けられてい『オフロバ』と書かれた部屋への扉を開いた。そこには人が数人入れるほどの木の容器に湯気立つお湯が敷かれた湯船があった。


「こんな大きいオフロバ……私初めて…・・・」


 従来の宿屋のオフロバは人が1人はいるのがやっとの狭さなのだが今回は人が複数入れるほどの大きなものだった。セシリアはゆっくりと肩まで湯船に浸かった時、セシリアは一つ息を漏らした。


「ふぅ……気持ちいい……」


 セシリアは頭の耳と耳の間にタオルを乗せて、心地良さそうにオフロバを楽しむ。そして、セシリアはリラックスして来ると頭の中はフールの事でいっぱいだった。


(せっかくこんな良い宿に泊まったんだからフールもちゃんと休んで欲しいわね。せっかくだからフールの部屋に遊びに行っちゃおうかな! でも、それは強引すぎるか……でも行きたいなフールの部屋……フールと……2人っきりの空間……)


「むぅ……♡ ブクブク……」


 セシリアは自分で言ったことが恥ずかしくて、顔を赤くしながら湯船の中に潜り隠れたのだった。


 そして、オフロバを十分に楽しんだセシリアは備え付けのチュニックに着替え、綺麗な銀髪を整えていた。その最中でも、フールの部屋へ行く口実を考えている。


(何よ、普通に行けば良いじゃない。いつも通り、遊びに来たよーーとか言って入っていけば良いじゃん! どうしてこう言う時に緊張するのかしら)


 その時、ふと褒美としてもらった自分の武器が目に入る。


(……私だって頑張ったじゃない。なら……少しぐらい……ご褒美貰えても良いじゃん……)





 そして、フールもオフロバを堪能し、ベッドへと座る。

 外を見ると周りの建物から光が失われている。どうやら寝るにはもう良い時間の様だ。そう思い、俺がベッドに入ろうとした時だった。コンコンとドアがノックされる。


「セシリアだよ。フール起きてる?」


「セシリアか、俺はちょうど寝る所だけどどうした?」


「……入っても良い?」


「うん? いいけど」


 そう言ってドアが開かれるとそこには枕を持って顔を赤くしたセシリアが入ってくる。


「その……あの……私、誰かが隣にいないと眠れないから……フールの横で寝てもいいかしら?」


 セシリアは枕で口元を隠して上目遣いで訪ねてくる。


「そ、そうなのか。えっと……まぁ、いいぞ」


「うん……ありがと」


 俺は掛け布団をめくりセシリアを先に入れてから俺がベッドの中へと入る。俺が電気を消そうとした時、セシリアが自分の枕を無視して、俺の腕にしがみつく様に抱きついてきた。


「セ、セシリア?」


「わ、私! こうして無いと良い睡眠が取れないの! 窮屈でごめんねでもさ……」


 その時、セシリアは顔を真っ赤にして俺の方に顔を向けてくる。


「私も頑張ったんだから……ご褒美……頂戴?」


 セシリアが甘えた様なか弱くもどこか胸を掴まれるその声で懇願され、俺は少しだけ頭が真っ白になったが、ゆっくりと頭を縦に振る。


「えへへ……やった♡」


 セシリアはさらに組んだ腕を更に締めて、俺に密着してきた。セシリアの胸の鼓動と熱が腕から伝わってきてドキドキする。


「おやすみ、フール」


「お、おやすみ」


 今日……俺は眠れるのだろうか……


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