第22話 ヒーラー、バール城へ向かう

 俺たちはこの国の危機を救う冒険者一行であると認められ、近衛兵ロイヤルガードに連れられてこの国の国王が住われているバール城へと向かった。

 バール城の前へと辿り着く。目の前には大きな厚手の木によって閉じられた入り口がある。そして、近衛兵が門兵に向かって俺たちの事を話すとその閉じられた門はじゃらじゃらと鎖が擦れる音を鳴らしながらゆっくりと開いていく。閉じられていた入り口が開き、閉じていた木の扉はバール城ヘと続く道になった。

 その道を進んでいる途中でセシリアは物珍しそうに大きくそびえ立つ城を見上げている。


「うわぁーーおっきい。私、お城に入るの初めてだわ……」


「わ、私もです……」


 2人は緊張した面持ちで城の中へと入っていく。本音を言うと俺も緊張している。国のパレードぐらいでしか見ることの出来ないバール王と会うなどこの国の人間であれば緊張するに決まっている。

 しかし、噂によるとバール王は人望が厚いお方だとされており、市民の間ではかなり信頼のある王様のようだ。


 そんなことを考えながら、赤い豪華な絨毯の敷かれた城の廊下を歩いていると大きな両開きの扉の前で近衛兵が止まった。


「これより先に我が国の王であるバール王との謁見の間である。くれぐれも無礼の無いようにお願いしますぞ」


 そう言って、近衛兵はその両開きの扉を開ける。目の前に広がるのは広く吹き抜けのある部屋で隅には側近の大臣や護衛の兵士達が並んでいた。そして目の前の長い道の先には豪華な装飾が施された玉座に座る王冠を付けた男がいた。あの人が正しくこの国の王、バール王だ。


「勇敢なる冒険者よ、よくぞ参った。さあ、入って参れ」


 バール王にそう促された俺たちはゆっくりとバール王に近づいていき、跪いた。


「お前達がこの国の危機を救う大きな役割を担ってくれたと聞いた、そうであろう? アーカム」


 すると、脇から出てきたのは俺をギルドから解雇し、追放したギルドマスターのアーカムだった。


「ええ、そうです。彼は我がギルドの一員として見事な活躍をしてくれました」


 俺はアーカムが出てきたことに驚いて、声を出そうとしたとき先に声を上げたのはセシリアだった。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!! フールはあなたのところのギルドから解雇されてるはずよ!! 何を勝手なことを言ってるの!?」


 セシリアの言葉にバール王はアーカムの方を見る。


「アーカム、どういうことだ?」


 するとアーカムは笑いながら、眼鏡の位置を直す。


「ふふふ、バール王よ私はフールをギルドから追放した覚えなどありません。私は解雇ではなく即刻立ち去って貰おうと言っただけに過ぎない。教育のためにちょいと強めに言葉を話しただけという事ですな。それに、どこの馬の骨とも分からない獣人の女にフールが何と説明したか分からないが私は解雇した覚えなどありません。言葉の綾という物ですな」 


「ふむ……」


「なんですって……」


 バール王は納得と疑問の中間をせめぎ合っている様子だったがルミナも意見を話した。


「わ、私もフールさんからギルドから追い出されたって聞きました!」


「はっはっは……フールから話を聞いた? なるほど、フールは話を盛って話すのが得意なようだ。しかし、バール王この者達は所詮この国のギルドの人間ではない部外者達だ。所詮、フールが私の説教を少し大げさに話しフリーランスにでも成ったつもりでしょう」


 アーカムは余裕そうな笑みを浮かべながらルミナの意見も一蹴してしまった。そうか、アーカムの狙いは俺たちの手柄と報酬をギルドの物にしようとしているようだ。自慢のS級パーティ達がボロボロにやられてしまったのを見て、無理矢理俺たちをギルドの人間として仕立て上げ、王をだまして俺たちから報酬を奪おうってことか。このギルドはどいつもこいつも腐りきってやがる。


「フール、君の意見はどうなんだね?」


 バール王がそう俺に問いかけてきた。俺は王の目を見ながら、まっすぐに正直に答えた。


「私フールは、バールの国ギルドで戦力外通告を受けて解雇、追放されました」


 ただそれだけを述べた。そして、アーカムはお笑いを上げる。


「はははははは!!!! フール、嘘をついてはいけない。バール王もお困りになられているではないか! 証拠もないのにいかがいたしましょうかバール王?」


 バール王は少し思考してから意見を述べた。


「フールよ、アーカムがお前を解雇した証拠はあるのか?」


 証拠……証拠などアーカムがあの時、俺をギルドから追い出すときに言われたあの言葉しかない。アーカムとギルド内で唯一親しいのは……S級パーティ……そう考えると俺は、どうすることも出来ない。これ以上話したところで信じてもらえないのだから。

 そして、俺は目を伏せて黙り込んでしまった。アーカムは勝利したような表情を見せると王に声を上げた。


「王よ!! 私はフールを解雇などしていません!! 我がギルドの誇りだ!! さぁ王よ褒美を……」


「待ちなさい!!」


 その時、女性の声と共に後ろの扉が勢いよく開かれる。カツカツと靴の音を鳴らして部屋に入って来たのはあの長い黒髪のシュリンだった。この場に居た者全員、彼女の登場に驚いたはずだ。

 シュリンはバール王の下まで歩み寄ると、すぐに跪く。


「シュリン……どうして?」


「話は後で……」


 俺の言葉に答えたシュリンはさっきまで俺と話していた時は驚き、興奮気味だったが今はかなり冷静な様子だった。これがS級パーティにいた人間の精神力の強さ故なのだろうか。


「お前は確か、S級冒険者のシュリンか。何用だ?」


「王よ、先ほどの話……扉の外で聞いておりました。私、ギルドマスターであるアーカムがフールの追放を認める証を知っております」


 そのシュリンの言葉に側近達がざわつき始める。しかし、それを遮るかのようにアーカムが怒鳴りつける。


「ふ、ふざけるな!! シュリン貴様何を言っている!! ふざけるのもいい加減にしろ!!」


 しかし、シュリンは鋭い眼差しでアーカムをにらみつける。


「アーカム、私は……本気よ」


 予想もしなかった思わぬ救世主の登場に、俺たち3人は困惑した様子で見ていた。


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