第21話 ヒーラー、国を救う
このファイアボールは大体上級魔術師たち100人ほどの魔力で作られたファイアボールで、勿論常人が作り出すことができないサイズだった。様々な冒険者たちを見てきているエンシェントドラゴンがフールの頭上にある超巨大なファイアボールを見上げ、怯え始めた。あの誇り高きエンシェントドラゴンの前足が震えていることをフールは見逃すはずがない。大分、このファイアボールだけでも竜に圧はかけることはできているみたいだ。
そして、エンシェントドラゴンは突然羽を羽ばたかせ始めるとそのまま滑空し、一目散に国の外へと逃亡し始める。
ここまで、国をめちゃくちゃにしておきながら都合が悪くなると逃げたり、都合がよくなるように誘導したり……S級と言うのはろくでもない奴らばかりだ……
「逃がすかよ!!」
俺は、空にいる竜に向けて遂にファイアボールを飛ばす。ファイアボールは剛速球で竜の元へと飛んで行く。竜はそれに気が付いて速度を上げたがファイアボールを操作するフールの思いの力によってファイアボールの速度が加速していく。
「いっけぇえええええええええええええええ!!!!」
そして、その超巨大ファイアボールがエンシェントドラゴンの元へとたどり着くと、竜の体はファイアボールの中へと包み込まれる。そして、バールの国上空で大爆発が起こった。爆発による大きな衝撃波がバールの国全体を駆け巡る。その衝撃は一部の建物が倒壊するほどの威力だった。広場にいた全員が吹き飛ばされ、俺も近くの住宅地の壁まで吹き飛ばされてしまった。
空は爆発の煙によって覆われ、厚い雲のようになっていた。その中を突っ切って落ちてくる大きな物体が見えると中央公園の噴水に墜落した。それはファイアボールを受けたエンシェントドラゴンであり、身体中の鱗はボロボロに剥がれ、肉は焦げ切っていた。ぐったりと骨が抜けたように白目で倒れた竜はもう二度と動くことはなかった。
俺はぶつけた頭部をさすりながらゆっくりと立ち上がり、倒れたエンシェントドラゴンの前まで足を運ぶ。
「フール!!」
「フールさ―ーん!!」
後ろから、セシリアとルミナが俺の元へとかけ走ってくる。そして、2人が俺の隣に並ぶと改めてセシリアとルミナが竜の姿を見た。
「……た、倒したんだよねこれ?」
「ああ……もう大丈夫だ……」
俺がセシリアの質問に答えるとセシリアは何も言わずに俺の体に抱き着いてきた。
「お……おいセシリア⁉」
「やったぁああああああああ!!!! やったねフール!!!! このS級モンスターを私たちが……私たちが討伐したんだよ!!!!」
俺の体を強く抱きしめ、上目遣いで俺に満面の笑顔を見せてくる。耳はいつもよりも激しく動き、尻尾もあの竜の羽ばたきに負けないほど激しく振られていた。
「そうだね、やったなセシリア」
「うん!!!!」
俺はセシリアの頭を優しく撫でてやった。そして、近くで見ているルミナにも優しく頭を撫でてやる。
「ルミナもありがとな、俺たちと一緒に戦ってくれて。お前が居なかったら、俺たちもこの国も終わってたよ」
「あ……あの! その……えっと……私は……セシリーの大親友だから、その……セシリーの役に立つことができて……う、うれしいです……」
ルミナが顔を赤くしてうつむく。ルミナの尻尾がセシリアのように激しく動いている様子を見て、とても喜んでるようだ。
セシリアと過ごしてて、獣人族の喜怒哀楽が少しだけ理解できるようになったな俺も。
そして、中央広場が落ちついたのを察したのか城に続く道から市民や冒険者、そして国の近衛兵(ロイヤルガード)たちが様子を見に来たようだ。
「君たち大丈夫か⁉」
1人のロイヤルガードが俺たちの方へと駆け寄ってくる。そして、倒れているエンシェントドラゴンの姿を見ると目が飛び出るほど驚く様子を見せる。
「こ……これは⁉ まさか、先ほどの巨大な炎の玉は⁉」
そう言ってロイヤルガードは俺達の方を見る。
「一応俺がやった。あと、そいつはもう息は無いから安心していい」
その言葉を聞いた市民と冒険者たちは少しの沈黙の後、飛び上がるほど大きな歓声を上げた。そして、俺たちに向けてこの国中の人々が称賛の拍手と言葉を叫んでいる。
今まで馬鹿にしてきたギルドの人間たちも俺を馬鹿にしていたことなど忘れて、俺たちを褒め称えていた。
「やったぁああああああ!!」
「ありがとう!! ありがとう!!」
「フール、お前すげぇよ!!」
「あのS級モンスターを倒しちゃうなんて!!」
「フールは俺たちの誇りだぜ!!」
さんざん馬鹿にしてきた奴らが今、俺の事を称賛し、称えている。普通なら嬉しいことなのだがフールにとっては腹立たしいことだった。
馬鹿にして、俺を雑用係にさせたこいつらが危険にさらされ、助けてもらうと手のひらを返して媚びだす。人間と言うものは本当にいい加減で勝手だと俺は思った。
しかし、今は市民と冒険者たちが喜んでくれていることを素直に受け入れるとしよう。
「待ってくれ!!」
すると、人混みを掻き分けて前へと出てくる人間がいた。
「ダレン……」
息を切らして、負傷した足を引きずりながら俺の元へと歩み寄ってくる。ボロボロになったフルプレートアーマーを身に纏い、イケメンフェイスも傷だらけのダレンにあのS級冒険者の輝く姿など無かった。
「ははは……まじかよ。本当にフールが倒しちまうだなんて……お前にこれほどの力があったとはなぁ……」
ダレンはゆっくりと俺の方へと近づいてくる。
「なぁ……フール、今回はお前の手柄で良い。でもよぉ……俺たちも一緒に戦ったよな? 協力したよな? つまりよぉ……俺たちギルドのおかげってことだろ? フール、なぁその力は絶対うちのギルドで役に立つ! それに今回の件でお前は必ずS級パーティになれる!! そしたら、俺もお前もギルドも評判が爆上がりだ‼ お前が居れば今回失った二人の仲間分のいや、それ以上の戦力になる!! このままじゃS級パーティが解散しちまう!! なぁ⁉ 不味いだろ⁉ そうだろ⁉ この国のS級パーティがなくなっちまうんだから!! さあさあフール!! ギルドに戻ってくるよなぁ⁉」
ダレンは早口でそう話し、俺の服を掴んで膝から崩れた。なるほど、俺をギルドへ引き戻して、S級パーティの面子を保ちたいってことか。最後の最後までクズな奴だ。俺は呆れて何もかける言葉が出なかった。
「フール様!! 後始末は私たちが行いますのでフール様のパーティの方々は他の兵の指示に従って城へとお行き下さい!」
近くのロイヤルガードが俺に言ったので俺はルミナの方を見る。
「ルミナも一緒に行こう」
「えええ⁉ いや、そんな私は!」
セシリアがルミナの肩を掴む。
「ルミナも行くの。じゃなきゃ納得いかないわ」
「ルミナも戦ったんだ。俺たちについて行く権利は絶対ある。良いよな?」
俺がロイヤルガードに確認を取ると首を縦に振ってくれた。
ルミナは感動のあまり目に涙をためていたが手で目を擦り、赤くなった目で俺たちに笑顔を見せてくれた。
「はい!! ありがとうございます!!」
俺は服を掴んでいるダレンの手を強く振り払い、ルミナとセシリアと共に歩みを進める。ダレンは俺の後ろ姿を見ながら手を伸ばし、大声で懇願し始める。
「フール、待ってくれ!! 頼む! 戻ってきてくれよ!!」
「……ダレン、お前は最後の最後までクズだ。今になって俺の事をそう言っても今更もう遅い! それに、クズであるお前らなんかと冒険なんて死んでもしたくもない。お前らの面子何てくそくらえだ。それに、言ったろ? 俺はギルドの事もパーティの事ももう知らないと……解散でもなんでされてしまえ……」
そう言って、俺はダレンの顔も見ずに歩み始めた。正式に俺はダレンを見捨てたのだ。
「ああ……ああ……俺は、S級冒険者……だぞ……」
ダレンは絶望感によってその場でへたりこみ、地に手を着いた。
一方で俺たちはロイヤルガードに付いて行きながら歩いていると後ろから女性の声が聞こえてきた。
「待って!!」
俺が振り向くとそこにいたのはS級パーティのシュリンだった。
「あ、あなたは一体……何者なの⁉」
俺はその言葉に鼻で笑い、シュリンから背を向いた。
「お前ら言ってたじゃないか。俺はただのF級
そう一言だけ残して俺たちは城へ歩みを進めた。シュリンはただ何も言わず俺たちの背中を静かに見ていた。
こうして俺たちは見事、S級モンスターを討伐し、この国の危機を救ったのだった。
ダレン……そして、S級パーティ……ざまぁみやがれ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます