第11話 ヒーラー、B級ダンジョンを攻略する
最初に攻撃を仕掛けたのはセシリアだった。
「覚悟しなさい! たりゃあああーー‼︎」
まるで獣が標的を捉えて襲いかかるかの勢いでセシリアは自慢のロングソードを振り下ろす。リザードマン・ロードはそれを難なく受け止める。互いの刃が擦れ合い、その間からは火花が出るほどだった。俺はしっかりとヒールを持続させ、セシリアの戦いを見守っていた。そして、もしものためにファイアロッドにある程度、魔力を込めていつでも撃てる用意もしておいた。
「ぐぬぬぅ……蜥蜴の癖にぃ‼︎」
鍔迫り合いが解かれ、セシリアが剣を振ってはリザードマン・ロードがそれ弾き、リザードマン・ロードが剣を突きつければセシリアが弾いての繰り返しだ。お互い一歩も譲らない互角な戦いが続いている。
リザードマン・ロードは一応Bランクモンスターで手強い筈なのだ。しかし、セシリアはここに来るまでにリザードマンとの戦いでかなり成長した事によって今、戦闘能力だけはリザードマン・ロードとほぼ互角まで戦える様になったのである。
最初はリザードマンにやられそうになっていたがここまで頼もしく感じるのは早過ぎるだろうか?
その時、リザードマン・ロードの大きな一太刀がセシリアの身体を切り裂き、吹き飛ばされる。
「セシリア‼︎」
ヒールがかかっているとは言え、ダメージが0になるわけではない。俺はセシリアが倒れ、ゆっくりと起き上がった時、傷が閉じる前に滲んだ血が見ていて痛々しく思った。
俺はそれを見てファイアボールを撃とうとした時、セシリアが叫ぶ。
「撃たないで‼︎ 自分勝手で悪いけど……私は、この手でこのボスを倒して、ダンジョンを攻略してみたいの。元々、それが目的だったんだから……フール、見てて……私……フールにだけでも私の事……認めて欲しいから‼︎」
「セシリア……」
そう言って、セシリアは剣を握り、地面を強く蹴って飛びかかる。剣を振っては回避され、ダメージを負っては立ち上がる。やはり少しの差ではあるがリザードマン・ロードの方が能力が上手のようだった。
それでもセシリアは諦めずに戦い続けていた。もはや、セシリアの体の傷は癒えているが精神はボロボロのはずだ。しかし、俺はヒールをかけてやることしかできない……目の前で必死に戦っているセシリア、自分を認めてもらうために湧き上がってくるその力……俺はそれを支えたい……俺はもう……雑用係の頃の俺じゃないんだ……思い出すんだ……ギルドにいたあの頃の俺を、『単体回復しか使えない無能な回復術士』と言われた時のあの怒りを!! 俺に力をくれ!! セシリアを……俺の初めての仲間を支える力を!!
そう強く願った。その時、回復魔法に変化が訪れる。
「あれ? 身体から力があふれ出てくる……嘘、こんな感覚……初めて」
「……できた」
セシリアの体が薄く虹色に輝き始める。自分の様子に困惑している隙だらけのセシリアに向けてリザードマン・ロードが攻撃を仕掛けた。そしてその、サーベルの刃はセシリアへの脳天へと向かって行く。
そして、セシリアがそれに気が付いたころにはもうサーベルが頭に当たってしまった。しかしその瞬間、リザードマン・ロードのサーベルがまるで、硬い石にでもぶつけたかのように刃が弾かれる。
リザードマン・ロードは困惑するもまたもや攻撃を仕掛けてくる。セシリアはそれを受け止め、サーベルを弾くとリザードマン・ロードの体もそのまま吹き飛ばされ、壁にめり込んだ。
「何よこの力……これも、フールのせい?」
「セシリア!! そのままとどめを刺すんだ!!」
俺は大きな声でセシリアに叫ぶ。セシリアは頭を縦に振るとそのまま壁にめり込んだリザードマン・ロードの首元に向けて、剣を振るった。
「これでダンジョン攻略よ!!」
セシリアの剣がリザードマン・ロードの首を綺麗に切り裂き、切られた首が吹っ飛んだ。首と体が分かれたリザードマン・ロードはピクリとも動かなくなり、握っていたサーベルを床に落とし、自重でその場に転がり落ちた。
「勝った……勝った⁉ 勝った勝った勝てた!! 勝てたよフール!! やったねーーーーー!!!!!」
セシリアは飛び切りの笑顔で俺の体に強く飛びついてくる。
「お疲れ様、よくやったなセシリアのおかげだよ。ありがとう」
「ふへへへへへ~~フールに褒めてもらえて嬉しい♪ ところで、私の体が虹色に光ったけどあれは何だったの? ヒール?」
「俺、できたんだよ。”
EX治癒……それは数ある回復術士の中で数人しか習得することができない回復魔法、傷をいやす効果に加えて、対象の攻撃力・防御力の
「フールってなんで馬鹿にされてるのかよく分からないわね……でも、すごく魅力的よ。ねぇ、フール。少しはさ、私の事を見直してくれたかな? 私の事……認めてくれる……かな?」
セシリアが上目遣いで俺にそう言葉を投げかけてきた。俺は笑顔で優しくセシリアの頭を撫でる。
「当り前だ。セシリアはもう立派な冒険者だ。外に出て、例えお前が馬鹿にされたとしても俺だけはお前の事を認めてやる。……というか、お前が居なかったらダンジョンなんて攻略できてなかったよ。セシリア、俺のパーティになってくれて本当にありがとう」
俺の言葉にセシリアは頭の耳まで顔が赤くなり、尻尾を前に出して顔を隠してしまった。
「ああああああ! そ、その! わ、わたひもフールとパーティになえて……ひ、ひあわへでふ……」
(フ、フールのばかぁあ……そんなこと、普通に言わないでよね……まったく♡)
俺は笑いながら、セシリアの頭を撫で続けた。こうして、俺たちは見事、初めてのダンジョン攻略を達成することができたのであった。
≪冒険者データ≫
Name:フール
称号:駆け出し冒険者
冒険者ランク:F級
<装備>
武器:【
防具:【回復術士の服】【布のマント】
<魔法>
・【
・【
<
・【魔力無限】
Name:セシリア
称号:駆け出し冒険者
冒険者ランク:E級
<装備>
武器:【ロングソード】
防具:【セシリアの私服】【軽量レザーアーマー】
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