第10話 ヒーラー、ボス部屋に辿り着く
レアドロップアイテムを手に入れ、意気揚々と先へ向かいダンジョン探索を続ける。このダンジョンはそこまで部屋数が少ないが通路が長い作りになっているようだ。しかし、トラップの一種であるミミックだけは運が悪かったかもしれない。それと、このダンジョンに生息している魔物がリザードマンを主体とするダンジョンであるなら、ここのダンジョンボスは運が良くてリザードマン・ロード、運が悪くてリザードマン・キングだ。どちらもリザードマンの中では上位種族であるが、双方には大きな違いがあった。
それは、ボスに付き従う従者の数だ。リザードマン・ロードなら大体戦士種が1、2体と魔導師種が1体、さらに運が悪ければ盾種が1体いると言った部隊編成だ。一方で、リザードマン・キングだった場合、リザードマン・ロードの部隊編成の2倍の数で待ち構えられている。
それと、圧倒的にリザードマン・ロードの方がキングと比べて弱いので勝利するチャンスが見込めると言うわけだ。
「フール、あれあれ! あれ見て!」
セシリアが指差す方向を見ると閉ざされた木製の両開きのドアがあり、周りには動物や人間だと思われる骨を見せびらかす様に壁に並べられている。間違いない、とうとうボス部屋の前へと来てしまった。
「ど、どうするフール……ダンジョンのボスの所まで来ちゃったよ、と言うか来れちゃったよ‼︎」
今、俺たちのパーティは2人……どう足掻いても数で不利が生じている。ここは危険だと判断して戻るか? その方が良いかもしれない。そう考えているとセシリアが何かを思いついたのか俺の服の袖を軽く引っ張ってくる。
「ねぇねぇフール、私はよく分からないんだけど魔法って1種類の魔法しか詠唱できないの? 2つの魔法を同時に出したりとかはできない?」
「まぁできないわけじゃないよ。ただそれをするにはいつもよりも魔力をかなり消費しなきゃいけないんだよ。だから、できるのはかなりの魔力を持ったかなりの上位職業の冒険者じゃないと使えないんだ」
「じゃあ、大丈夫ね! フールできるじゃん。魔力が尽きないんだから」
「……確かに」
「それなら、私にヒールを掛けながら、ファイアボールも撃てるじゃない! それで、バッタバッタと倒せば大丈夫よ! もし、魔力の込め過ぎが怖かったら隙を作る程度の威力で良いからそれやってほしい!」
目を輝かせて、上目遣いで頼んでくるセシリアはやる気が満々だった。危険だとは感じたがセシリアの意見を尊重してみることにした。もし、危険だったら緊急離脱も考えておくことにする。
「ああ、分かった。でも良いか? 危険だと判断したら撤退するからな? そのルールだけは守れるか?」
「わかりました!」
セシリアは小さく敬礼の仕草をする。さて、俺たちはこれよりダンジョンボスへと挑む。正直俺も緊張しているが思いっきり深呼吸をして、そのボスへと続く扉を開く。
そこには玉座で他のリザードマンよりも体格の良いリザードマンが堂々とふんぞり返って座っている。その周りには戦士種のリザードマン2体と魔導師種が1体いた。この数からダンジョンボスはリザードマン・ロードのようだ。
リザードマン・ロードは俺たちが来たことに気がつくと近くの従者に合図を送り、自身はその玉座から立つことはない。指示された従者達は武器を取り、俺たちに交戦の意思を見せていた。
なるほど、完全に俺たちは舐められているという訳か。だが、その油断しているところは俺たちにとっては好都合だった。俺はセシリアを見るとセシリアもこちらに気がつき、目と目が合う。そして、アイコンタクトを取り、息を合わせて動き始めた。セシリアは剣を抜いて近くの戦士種のリザードマンヘと向かい、俺はセシリアにヒールの魔法をかける。
そして、俺はファイアロッドを地面に突き刺し、魔力を込める。
セシリアは一人で2体のリザードマンと戦っている。リザードマンの攻撃を弾き、弾ききれない攻撃はわざとくらう。
こんな戦い方は俺が居なければできない方法だ。しかし、そんなことを考えている場合ではない。
セシリアの様子を見ながら、俺はファイアボールをその2体のリザードマンへと飛ばす。炎の玉は見事命中し、リザードマンがよろめいて隙を見せる。
「ありがとうフール!! たぁああああ!!」
セシリアはリザードマンに剣を振り下ろし、1体を切り裂くとその動きの流れに任せてもう1体のリザードマンも華麗に切り裂く。その流れるような攻撃によって2体のリザードマンは倒された。
やった!! そう思ったとき、俺の身体に大きな衝撃が走る。部屋の隅からファイアボールが俺に飛んできたのである。
俺は吹き飛ばされ、倒れこけた。
「熱ぅううう!!」
それを見てケラケラと笑う魔導師種のリザードマン。くそっ……油断した。
「フールになんてことするのよぉおおおお!!」
何と、いつの間にかセシリアはリザードマンの背後を取っていた。そして、セシリアは怒りのバックスタブを喰らわせると何が起こったのか分からないまま魔導師種は血を流して絶命した。
「フール!! 大丈夫!?」
セシリアが心配そうに俺の元に駆け寄ってくる。
「ああ、大丈夫……少し油断しただけだ」
俺は立ち上がり、自身にヒールをかけて身体の傷を癒やす。一方で従者が倒され一人になったリザードマン・ロードは怒りの表情に満ちていた。そして、とうとうその椅子から立ち上がると、後ろからショートソードを取り出して、大きなサーベルを抜き出した。
「やっとやる気になったみたいですよフール。やりましょう、私たちでこのダンジョンを攻略しましょう!」
「ああ、行くぞセシリア!」
こうしてこのダンジョン攻略の命運をかけたリザードマン・ロードとの戦いが始まったのである。
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