第9話 ヒーラー、ドロップアイテムを見つける 

 数十分休み、セシリアが泣き止んで立ち直ってくれた。それを確認して、俺たちは再びダンジョン探索を始める。この通路はミミックがいた部屋までしかなかったので一度、分岐地点に戻って今度は右の道を行くことにした。さっきまでの失敗を反省しているのか、セシリアがさっきよりも警戒しながら進んでいる。いつもよりも鼻で臭いを嗅ぎながら進んでいる。セシリアは案外素直なところがあるのでとても扱いやすい。

 ダンジョンは複雑さを増し、曲がりくねった道や、上り階段と下り階段が出現して、知らぬ間に入り口よりも遠いところまで進んでしまっていた。そして、歩き続けていると次の部屋が見えてきた。その部屋の入り口は木製のドアであり、向こうの様子が見えなかった。


「ちょっと待っててね」


 そう言ってセシリアは頭の耳をドアにぴとっとつけて、ドアの奥に聞き耳を立て始める。セシリアの大きな耳から聞こえてくるのはドア越しにキュルキュルと鳴るいびきの音だった。どうやら、このドアを背にして何者かが眠っているのだろう。


「どうだった?」


「しーーっ! このドアの奥で魔物が寝てるみたい……にしし♪」


 そう言ってセシリアは悪い笑みを浮かべながらおもむろに腰の剣を抜くとドアから距離を取る。そして、ドアに向かって勢いよく走りだすとそのドアに向かって剣を突き刺した。


「お邪魔するわよーー!!」


 突き刺されたドアは大きな音を立てながら穴が開くどころかボロボロに壊れる。そして、ドアの向こうにいたのはもちろんリザードマンで後ろから不意に剣で貫かれたリザードマンは為す術もなく絶命した。バックスタブ攻撃でダメージはいつもの2倍だ! 近くにいた2体も寝ていたがその大きな物音に飛び起きる。寝ぼけたリザードマンはぼーっとしており、セシリアはそれを見逃さず咄嗟に片方のリザードマンに切りかかった。切られたリザードマンも倒されもう一体のリザードマンも立てかけていた武器を拾おうとしたが俺がそうさせるわけがない。


「あらよっと」


 俺はリザードマンのショートソードを取り上げる。そして、きょとんとしているリザードマンの脳天にショートソードを振り下ろす。

 俺はセシリア程筋力が無い為、リザードマンの額までしか刃が通らなかったが十分なダメージだったようで絶命した。

 3体とも寝ていたことは本当に運が良かったと思うが何よりもセシリアの闇討ちパワープレイによって部隊を全滅させることができた。


「私も戦闘には慣れてきたものね~~♪」


 セシリアは自画自賛しているが本当にセシリアの戦闘センスは天才的であると思う。少しの経験でここまで動きが成長するなど俺がいたギルドの前衛アタッカーの人間に比べたら優秀である。戦闘センスだけはA級冒険者並みなのではないだろうか?


「ん? ねぇフールあれ見て。杖じゃないかしら?」


 セシリアが指さしたのは最初にドア越しで殺されたリザードマンだった。そのリザードマンの近くに杖が転がっている。このリザードマンは魔導師だったのかもしれない。

 俺はその杖拾い上げる。その杖は全体は銀色で軽い鉱石で作られており、杖先には赤い宝玉が埋め込まれている。


「これは……”火球ノ杖ファイアロッド”じゃないか! どうしてこんなものを魔物が……」


「やったじゃないフール!! レアドロップアイテムよ!!」


「レアドロップ?」


「ダンジョン内のモンスターを倒した時にアイテムを持ってることがあるんだけど、ごく稀に良いアイテムを持ってることがあるの。それがレアドロップ品!」


 なるほど、倒した魔物からはアイテムが手に入り、時々良いものが手に入ると……そこで偶然リザードマンがこのファイアロッドを持っていたってことか。

 ファイアロッドとは魔法が使えなくともこの杖に魔力を込めることで”火球ファイアボール”を出すことができるユニークウェポンだ。火球の威力には制限が無い為、使用者が込めた魔力分の威力になる。つまり俺が使用すると……


 そういうことで実験として、近くの木箱に試し打ちをしてみることにした。一応、力加減を考えて杖に魔力を注ぐ。


「炎の聖霊よ、我が瞳に写る対象をその真紅の玉で焼き尽くせ”火球ファイアボール”!!」


 俺の詠唱によって、その赤き宝玉から火の玉が飛び出し、木箱に命中する。木箱が火球に触れたとき大きな音と共に破裂して炎上した。

 少しだけ魔力を込めたつもりだったが少し魔力を入れすぎてしまったようだ。その様子を見てセシリアは口が開いて驚いていた。


「こ、こんなファイアボール……私、初めて見た……」


「でも、これで杖も手に入ったし、俺も戦えるようになったから助かったぜ」


「私を焼かないようにしてよね!!」


 戦闘で使う時には程よく魔力を入れなくてはセシリアに怪我を負わせてしまいそうなので困ったときの最終手段として使うことにする。あくまでも俺はこのパーティのヒーラーであるので、回復支援に専念する。セシリアには自信と戦闘スキルを付けてもらいたいしね。

 回復術師は魔導師のように攻撃魔法をあまり持つことができないため、護身武器としてこういうユニークウェポンを持つ上位冒険者が多い。これで俺にもヒーラーとして貴重な攻撃手段を手に入れることができた。俺にとってはかなり大きい成長である。


「いいなぁ~~私も武器欲しいぃ……」


「セシリアにもそのうち良い武器が手に入るよ」


「むぅう!! 頑張って魔物倒すもん!!」


 新たな武器を手に入れることができた俺たちは、さらにダンジョンの奥へと進み始めた。

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