第11話 【2日目午前】 敬礼
大隊長は女たちへ事情を説明した。作戦の内容を聞いた彼女たちの表情はフードで見えなかったが、膝をついて泣きだす者や、両手を組み合わせて必死に祈りを捧げる者がいた。無理もない。
その女たちの中から1人、大隊長は恭しく手を取ってコルテロのもとへ連れてきた。フードを目深に被っている上に、彼女自身が俯いているので顔が見えないが、足元がフラついていて明らかに体調が悪そうだ。
「こちらが我が主、‘‘シリエジオ王女‘‘だ」
「おい、大隊長、言っていいのか?」
「構わん。 緊急時だ。 貴様には姫様の病を治した後、無事に王宮にお連れしてもらわねばならないからな」
コルテロは王女に鳥乗用のグローブ、ゴーグル、ブーツ、ベルトなどの装備を渡した。彼女は黙ってそれらを身に着け始めた。
「『湖島への先導と護衛』までが依頼内容じゃなかったか?」
「追加依頼だ。 もちろん、追加分の報奨金も出るように我が王に掛け合うと約束しよう。 それでも足りなければ、私の全資産までなら私が出そう」
少し笑ってしまった。
「大隊長・・・いや、ガバリエーレ大隊長殿。 大隊長殿の忠誠心に感服いたしました。 王女は必ず」
コルテロは敬礼した。
大隊長も敬礼を返した。
「頼むぞ」
「はい」
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装備を身に着けた王女を連れ、昨日散々調教したアソのところへ移動した。この厩舎の中で一番乗り慣れていたトリがアソだったからだ。コルテロが何年も乗っているような熟練のトリの多くは現在別の運び屋を乗せて出払っている。そして残りのトリたちは先程の火に飲まれてしまった。
正直厳しい。アソは悪くないトリだ。この騒ぎの中、他のトリたちは人間の焦り共鳴するように騒がしく身じろぎしていたが、アソはずっと大人しくしていた。乗り手の意思もくみ取れるし、賢く度胸のあるトリだ。
ただ、昨日の調教でわかったが、このトリは遅い。選び抜かれ、厳しい調教を施され、実践慣れしたトリたちから、文字通り人間1人分のお荷物を抱えて逃げ切らねばならない。
アソにとって今回が初任務。総飛行距離は湖島まで1000km以上。外の騎士団を振り切りさえすれば、アソから別の速いトリに乗り換えるという手もあるが、逆に言えば、連中を振り切るまではアソから別のトリに乗り換えることができないのだ。
無意識に、アソの首を撫でた。アソは甘えるように、頭を腕に摺り寄せてきた。
(大丈夫。 こいつは人懐っこい良いトリだ。 全ては俺の腕にかかっている)
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