あの時のことを、忘れたくないから。無情な現実に打ちのめされても、過酷でも、そこで折れるわけにはいかない、前に進まないと行けない時、何が原動力になるのか。一つは、やっぱり食べること。そして食べ物を誰かに分け与えることは、生きて、と伝えることだと思う。それを聞いたら、多分もう投げ出せられない。心細い時に食べる、あたたかいもの。お腹を空かせている人に、すぐに満たしてあげられるもの。カップ麺の愛は、きっとそこにあります。
食べ物の美味しさって、その時どんな状況だったかが大きく影響しますよね。このたぬきもそうでした。そして特別になる食べ物は、やっぱり生半可に食べられるものではない「特別」でした。緑のたぬきは大事なことを教えてくれます。
このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む(117文字)
緑のたぬきが食べたくてたまらなくなる。でも、食べないでおこうかな、とも思う。なぜなら、胸がいっぱいになるから……。「あの頃」を知っている方にぜひ読んでいただきたい作品です。
緑のたぬきが好きなのに食べない。アレルギーではないのになぜ。そんな読者の疑問に応えるように、上司の過去がゆるやかに語られる。朗らかでありながら嚙みしめるように話す声。かつて見た光景を、臨場感たっぷりに浮かび上がらせていく。あの日の記憶、そして警察官としての生きざまに魅せられてください。お湯を注いでから読むと、ちょうどいい食べごろになります。お腹と心を満たす、緑のたぬきの物語をご賞味あれ。